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減益は将来へのチャンスである

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

 春を告げる節分の翌日、午後遅くになって、灰色の雲から雪が舞いはじめる。束の間の雪だったけれど、瞬時、ビルの明かりが靄ってしまうほどの吹雪になった。ふと、吹雪に触れたくなり、防寒具もなしに、ビルの谷間を歩いてみる。雪が舞う外を歩くのは、この冬、初めてのことだ。都会に生まれ育った私は、いい歳をして、雪が舞いはじめると、いまだになんとなく気分が昂揚する。雪に弱い都市の交通機関など、積雪はなにかと迷惑なのだが、雪の舞う光景をみると、そんな現実も忘れてしまうようだ。長い冬を雪に閉じ込められてしまう雪国の人からすると、愚かとしか思えないのだろうが、私は雪が舞う光景に魅せられ続けている。

 冷たい冬から、早春、春へ、この季節の移ろいほど、過ぎ去った月日や折り重なった記憶が思い起こされる時はない。むかしの言葉を使えば、三寒四温といったことになるのだろうが、梅、沈丁花、さくらと、春への流れのなかで、花の香も移っていく。都心のマンション住まいが長くなり、路地の庭先から漂う匂いを感じることがなくなったのは、ほんとうに残念で、いつかささやかな庭の変化を肌で感じながら日々を過ごしたいと思うのもこの季節である。

 3月末にかけては、年度決算の結果が明確なかたちで数字となる時期でもある。ほぼ、増収増益が基調となっているIIJだが、何年かに一度は減益となる。前回の減益は2008年のリーマンショックの年で、経済環境によるものだったが、今期の決算は、久し振りに増収減益になるという発表をする。前回とは違い、経済環境が好転し、企業の投資マインドも上向きになった今期の減益要因については、詳細に把握している。構造的な課題はほとんどなく、想定を超える一時的な減益要因が重なってしまったのだが、想定そのものが甘かったと言えば、その通りである。経営には、絶えず思いもかけないリスク要因が潜んでいる。今回は、事業が順調に拡大発展していく過程で、将来への成長シナリオを達成することにエネルギーが集中してしまったのである。現在の事業に潜むリスク要因に対する最悪の想定が甘くなってしまったのかもしれない。

 数年に一度、そんな状況に遭遇するたびに、思い切った対応策を実施して、売上高を10パーセント伸ばし、営業利益率を一パーセント改善するという経営に戻すといったことを繰り返してきた。中長期のシナリオを優先すればするほど、技術開発をはじめ、事業拡大のための先行投資が拡大するのは当然なのだが、今期を振り返ると、足元の事業に対するリスク要因への周到な備えに欠けていたと言える。大口顧客の事業動向に対する分析が予期しないかたちでマイナス要因となったことが直接の原因だとしても、予期しないマイナス分を他の事業でカバーできるだけの余力がなかったことに悔いが残るのである。

 長期的な視野で企業経営を考えると、予期しないマイナス要因が生じたからといって、激しい技術革新の渦中にあるIT産業において技術的なイニシアティブをとり続けることで成長・発展してきたわが社が、新しい技術や事業に投資を続けるという基本方針を変えることはない。しかし、減益という結果については、次のステップに進むための大きなチャンスとしなければいけない。不思議なことだが、物事が順調に推移している時に、次の発展につながる施策を打つのはむずかしい。その意味で、今回、久し振りの減益は大きなチャンスであると、今朝の会議で話したのである。

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