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変わる

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

 「過去は振り返らない」。

 給与もままならず、役所の理解も得られなかった、長くて暗い創業期の経験が記憶に残っていたから。そんな理由でもなかった。ひたすら突っ走り続けていたから、過去を振り返る時間などなかったのである。インターネットの普及が加速をつけ、事業も軌道に乗り、ニューヨークのナスダック市場に公開した頃、社員から「忘れないうちに、IIJの歴史を書き残しておきましょうよ」、ふと、そんな話も出たのだが、すでに最先端の難しいプロジェクトが始まっていて、それどころではなかった。「過去を振り返るのは、先に進むエネルギーがなくなって、爺さんになった時でいいよ」。私の素気ない言葉で、話は終わってしまった。

 それでも、先が見えないまま、ともかく始めてしまった12月3日の創業記念日になると、創業期のメンバーが私の部屋にぼそぼそと集まって、ビールを飲み、オフィスの近くにある居酒屋に場を移して、また飲んだりしていた。

 今年の創業記念日は土曜日だった。若い人たちが集まって、その前日の金曜日の夜、ささやかな創立記念日のパーティをしたと報告があった。「ちょっと呼びかけただけなのに、70人も集まったのですよ」。集まりを呼びかけた女性から、そんな報告があった。

 どんなに尖ったエンジニアが集まった会社も、25年も経てば、変わるのは当たり前である。いくら行事のない会社だと言っても、入社式が始まって20年ほどになる。数人で始めた会社も3000人を超す組織になっている。なにはともあれ、前に進み続けるというIIJのカルチャーを守るためにも、なんらかの行事はつくった方がいい時期になったのかも知れない。

 「鈴木さんも人並みに病院の世話になったのだから、少しは変わったほうがいいですよ」。

 11月の半ば過ぎ、いささかの痛みがあって、昼休み、病院に行ったら、「胆嚢が炎症を起こしていますよ。無ければ無くてもいい臓器だから、摘出してしまいましょう」と。医者の御託宣には抵抗したのだが、夕方には全身麻酔をされ、手術をされていた。麻酔から醒めると、身体に何本かの管がつながっているうえに、ベッドの四隅に手足が固定されていて、身動きがとれない。麻酔から醒める時に暴れる患者がいるからだと、看護婦さんに教えられた。私も暴れたらしい。日頃、右肩が痛むと言っていた割には、無意識のまま力強く抵抗をしたらしい。子供の頃から、拘束されるのが嫌で、高校時代は学校にすらまともに通わなかった私の性格は、この年になっても変わることがないのだが、会社も個人も時を重ねることで、変わっていくべきなのだろう。

 年の暮れになって、慌ただしい日々が続いている。慌ただしさが、突然、途切れると、大晦日が来て、新年である。エアポケットのような静かな時間が訪れて、年の初めを祝う。年が変わることで、ひと区切り、改めてなにかが変わる期待が湧くようだ。いくつになっても新年の朝は、思いが膨らむ時である。今年もお世話になりました。


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