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株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一
私が感じる予感など、およそぼんやりしたもので、ほとんどは単なる不安のまま、どこかに消えてしまうのだが、今年の正月、まず大きな不安を感じたのが、ウイルスの話だった。ただし、それは豚や鳥を襲うウイルスである。その感染数があまりに多く、悪い予感が広がったので、新聞のブログにも書いたのだが、もちろんそれは新型コロナウイルスのことではない。
正月休み、なすべきこともなく、ネットを徘徊していたら、豚コレラの統計数字が出ていて、あまりの変化に驚いたのである。世界の養豚数はおよそ10億頭で、最大の生産国であり、消費国が中国であるのは言うまでもない。その統計によれば、昨年の中国における養豚の数が、前年の4億頭を超える生産数から、1億頭も少ない3億頭を超える数値になり、中国では、豚肉の価格高騰、不足が大きな問題になっているという記事である。
農業、まして酪農問題になんらかの見識を持つわけでもなく、ただ数字に驚き、鳥インフルエンザなどの数値を知るにつけ、家畜に関する中国のウイルス問題に大きな不安を感じたのである。豚コレラは人間の身体には大きな問題とはならないようだが、1億頭も減じるための処理というのは大変なのではないか。あるいは、殺処分にした鳥の数も半端な数字ではないだろう。今回の新型コロナウイルスの世界的な感染とは関係のない話だが、新年早々、ぼんやりした怖い予感だけが残ったのである。
桜がひらく季節になると、新型コロナウイルスの感染は世界に広がり、欧州諸国では人と人ができる限り接しないことで感染を抑えようと、ロックダウンという強い政策を実施するようになった。世界の人の動きばかりか、国内での人の動きも禁じている。日本もロックダウンといった強制力のある強い施策ではないが、東京をはじめ、感染者数が多い地域では、ほぼ似たような措置を実施することになった。オフィスでの密度も減らすべく、8割の従業員をネットを利用した「在宅勤務」にするようにと、首相をはじめ、推奨している。
わが社でも、7割程度の社員が在宅で仕事をしている。職務分析というか、ジョブ・ディスクリプションが明確であれば、あえてオフィスに出るまでもないのだが、およそ日本人のオフィスでの働き方、仕事に対する規定ほど、融通無碍なものはないと思っている。しかし、リモートワークになれば、そうも言っていられない。職階や本来の規定に書かれていないジョブを自在にこなすことによって、働き方にある種のダイナミズムを与え、欧米にはない社員が育つなど、日本独特のメリットもあるのだが、リモートワークを余儀なくされると、すべてが明確に規定されたうえでの働き方になるわけで、日本独特の働き方、人の伸ばし方など、否定するほかなくなってしまう。
一方、リモートワークの徹底が進むことで、インターネットという一つの空間が、大きな機能を持つようになり、働く形態から、働き方に至るまで、企業経営のあらゆる仕組みが根本から変わってしまう可能性が、具体的な姿として見えるようになってきたことも事実である。世界経済を破壊するような新型コロナウイルスの感染の拡大は、ITが世界の仕組みを変える時間軸を、より早めるかもしれない。
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