村中氏
バーチャル高校野球のライブ配信のインフラ部分は、当初からIIJと協業することでサービスを提供してきました。IIJの「ライブ中継ソリューション」を活用したものです。ライブストリーミング配信に必要なエンコードシステムをクラウドサービスとして利用できる他、CDN(Contents Delivery Network)などのサーバ、配信のネットワークの構築と運用などもお任せしています。拡張していくバーチャル高校野球に、IIJは毎年短期間でインフラの準備をして、更に適切な運用をしてくれています。
朝日放送グループホールディングス 高木衛氏
私が最初にバーチャル高校野球の担当をした頃は、ライブ配信する地方大会の試合数も少なく、最大トラフィックも100Gbpsにも満たないものでした。しかし年々配信試合数が増え、トラフィックも増えています。こうした中で、技術的に新しい取り組みに挑戦しなければならないことがあるのですが、その都度IIJに相談すると、技術的な解決策などを適切に提案してくれていました。これまでの経緯から、パートナーとして安心してシステム構築を依頼できました。
池田氏
2020年には1,093試合でしたが、2021年は実際には予定を超える2,541試合を配信しました。すべての地方大会の試合数は約3,600なので、6割程度までカバーできるようになっています。29都道府県で全試合、その他の地域でも準決勝以上はすべて配信しています。もちろん甲子園の選手権大会もライブ配信していて、2021年は46試合(48試合の予定から2試合が中止)を配信しています。
高木氏
1日当たりの最大試合配信数も最終的には227試合を記録することになりました。一方、1試合の最大トラフィックは2019年の甲子園の選手権大会決勝(履正社(大阪)対 星稜(石川))で、約800Gbpsに上りました。2020年は甲子園での大会が中止になり、2021年は東京オリンピック大会と時期的に重なったこともあってか、最大トラフィックは2019年が最高となっています。
池田氏
前回大会の2.5倍近くに上る多くの試合をトラブルなくライブ配信できました。コロナ禍で地方大会の応援に行けない人にライブ配信で試合を見てもらえるだけでなく、進学や就職で故郷を離れて母校の地方大会の試合をこれまではリアルタイムで見られなかった人にも映像で試合を楽しんでもらえました。視聴するユーザ数は増え続けていて、サービスの広がりを肌で感じた1年でした。
2021年に2,500試合を超える多くの試合を配信できたのは、全国の放送局や主催の朝日新聞社にご協力いただいたおかげですが、動画配信のインフラを安定して毎年提供してくれているIIJにも感謝しています。
村中氏
システム化の要件は、大きく「試合情報の整理」と「各ステータス、試合状況の把握」を可能にすることです。これまでメールや電話で伝えていたこれらの情報を1つのシステムで管理できるようにしました。多くの協力局やIIJが運営する配信事務局で利用し、ミスのない配信事務の実現と負荷の削減につなげることができました。
実際、大会後に全国の協力局にアンケート調査を行ったところ、このシステムを導入したことで前年よりも運用負荷が減ったという回答が6割以上に上りました。共有情報が容易に確認できるようになったことで、現場の負荷の削減が実現できたと評価しています。
高木氏
ユーザ数や配信試合数が増えることで、どのように視聴されているかを定量的に評価する必要が出てきました。そこで3年ほど前にIIJに紹介してもらったのが、Conviva社製品が採用されている「IIJ動画視聴分析ソリューション」です。動画の視聴データをログ形式で出力するなどして、状況を分析しています。マルチデバイス化など視聴環境の多様化の把握や、リアルタイム分析による配信中のトラブルのいち早い検知などに役立てています。
村中氏
情報共有システムを導入したことで、各協力局や配信事務局の運用負荷の軽減の成果は得られました。ところが、朝日放送テレビのスタッフにとって一番の手間であるWebサイトへの導線の開け閉めの作業については、今回のシステムでは対応できていません。まずは試合進捗に合わせたポータル内の導線管理の自動化なども視野に入れて、今後も継続的にシステムをアップデートしていきたいと思います。
高木氏
地方大会の全試合をライブ配信することも、近い将来に想定されます。1日の試合数も2021年の227より大幅に増えるでしょう。そうしたときに、配信の基盤部分についてクラウドの利用なども視野に入れながら対応を考えなければなりません。IIJには今後の拡張などについてもサポートしてもらいたいです。
池田氏
バーチャル高校野球に限らず、ライブ配信などのインターネット動画配信の需要の高まりは放送局でも身をもって感じています。配信技術のトップを走るIIJと一緒に仕事をさせてもらっていることは、私たちにとってプラスになっています。視聴者やユーザに楽しんでいただけるコンテンツをしっかり届けられるように、IIJには引き続き協力してもらいたいです。
※ 本記事は2021年11月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
ライブ配信試合数の増加で配信インフラの見直しが必要
バーチャル高校野球について教えてください。
朝日放送テレビ 池田康晴氏
朝日新聞社と日本高等学校野球連盟が主催する全国高等学校野球選手権大会、いわゆる夏の甲子園の試合とその地方大会をインターネット経由でライブ配信するサービスです。もともとは、スマートフォンなどの携帯端末向けに夏の甲子園の記事と動画を配信するサイトを作ったら強いコンテンツになるという発想で始まりました。2015年から動画と記事、スコア速報を掲載する形で運用を始め、2018年からはプラットフォームが変わり現在に至っています。夏の甲子園大会だけでなく秋の国体・明治神宮野球大会もライブ配信しています。
配信数はどのように変化してきましたか。
池田氏
夏の甲子園では地方大会の試合のライブ配信も増やしていく方向で成長を続けています。2018年は694試合、2019年は897試合、2020年は1,093試合と、ここ数年でインターネット配信する試合数が増えてきています。
ライブ配信を安定して提供するには、配信の中心になるサーバ部分や、サーバから出るトラフィックをユーザに届けるためのネットワークも適切に構築しなければなりません。サービスが拡大していくことで動画配信プラットフォームへの影響はありましたか。
池田氏
2020年はコロナ禍の影響で、春、夏の甲子園大会が中止になりました。夏の大会の代替として各都道府県の独自大会が行われましたが、無観客という前代未聞の事態になりました。3年間頑張ってきた球児たちの晴れ姿を家族や学校関係者などに見てもらうためにも、バーチャル高校野球の配信試合数を増やそうと取り組みを進めました。配信インフラは毎年見直しが必要なのですが、2021年の大会に向けては、当初、前年の2倍を超える約2,400試合のライブ配信が計画されており、これを見込んだ体制づくりをしなければなりませんでした。
朝日放送グループホールディングス 村中貴彦氏
また、試合数が多くなるにつれて、運用面での情報共有などでも課題が見えてきました。例えば、試合が何時に開始するのか、雨天中止になっていないかといった試合情報や、各球場で配信中なのか、終了したのかといったステータスがどのようになっているか、関係各社で共有する必要があるのですが、これまでのメールや電話などでのやり取りでは限界を迎えていました。
2020年のシステム構成や運営体制のまま規模を拡大するのは難しく、インフラの増強と共に、情報を一元管理できるシステム構築の検討も始めました。とはいえ、夏の甲子園大会の終了後に検討を始めて、予選大会が始まる翌年の5月頃には完成していなければなりません。実質的に約半年ですべてに対応する必要がありました。