豊島区役所は南池袋に建設中の新庁舎移転を契機に庁内のシステムを拡充する。新たな総合窓口システムやFAQを活用したコールセンターなどの整備に加え、「全庁レベルでユニファイドコミュニケーションを採用し、職員のワークスタイル変革に取り組んでいきます」と豊島区の高橋邦夫氏は述べる。これまでも、主要なシステムはデータセンターで運用するなど、積極的にシステムのアウトソーシングを進めてきた歴史がある。
その姿勢は、臨時福祉給付金事務処理システムの構築・運用にも表れている。臨時福祉給付金(2013年10月1日閣議決定)は、2014年4月から消費税率が8%に増税されたのに伴い、住民税の非課税者と児童手当の受給者を対象に暫定的・臨時的な措置として給付金を支払うものだ。全国の地方自治体(市区町村)では閣議決定後、臨時福祉給付金の申請受付や支払手続きなどの事務処理を行うシステムの検討に着手した。
臨時福祉給付金はその名称通り、臨時的な措置である。「限られた期間しか使わないため、多くのコストをかけられません。いかに無駄なくシステムを構築するか。その答えがクラウドサービスの利用でした」(高橋氏)。
クラウドサービスを検討した理由として、豊島区の黒田正智氏は「短期間で終了する給付事業のために新たにサーバやラックスペースを購入するのは経費の無駄になります」と話す。だが、クラウドサービスを利用するには、セキュリティ確保が必須の条件となる。臨時福祉給付金事務処理システムは申請者の個人情報を取り扱うため、豊島区個人情報保護条例に準ずるほか、システム構築に際して情報セキュリティ対策が適切かどうか豊島区個人情報保護審議会の承認が必要になるからだ。
同審議会では、クラウドサービスの利用に際し、システム基盤は国内に置くこと、区とサービス事業者との接続には閉域網を使用することなど、いくつかの条件を提示しており、クラウドサービスの選定にあたり、それらの要件をクリアする必要があった。
そして、複数のクラウドサービスを比較・検討した結果、「IIJ GIOコンポーネントサービス」を採用した。「国内データセンターを基盤に信頼性・安全性の高いクラウドサービスを展開していることや、閉域網を含めマルチキャリアのネットワークサービスに対応できることなど総合的に評価しました」と高橋氏は選定理由を述べる。
また、クラウドサービスにおけるデータの帰属先が心配で、導入に二の足を踏む自治体もあるようだ。IIJでは自治体など利用者自身によるデータ管理の下、国内でクラウドサービスを運用しているので安心できる。
豊島区がクラウドサービスを検討した他の理由として、割り勘効果とシステムの共同利用がある。複数ユーザが共同でITプラットフォームを利用するクラウドサービスは、もともと割り勘効果がある。更に「他の自治体と手を組んでシステムを共同利用すれば、アプリケーションを含め、より一層の割り勘効果が期待できます。そこで、都内23区の情報担当者が集まる会議でクラウドを基盤にシステムの共同利用を提案したのです」と高橋氏は説明する。
システムを共同利用し、住民情報を扱うためには柔軟で安全なクラウド基盤が不可欠になる。IIJのクラウドサービスはVPNや専用線など自治体の要件に応じ、通信会社に制約されないキャリアフリーの通信回線を用いて閉域接続できる。インターネットを経由せずにIIJバックボーン内に閉じて接続するため、個人情報などのセキュリティの担保も可能だ。共同利用に前向きな情報担当者もいたが、それぞれの区の事情もあり、今回は共同利用には至らなかったという。
豊島区では、臨時福祉給付金事務処理システムのインフラにサーバとデータベース、VPNを組み合わせたIIJ GIOコンポーネントサービスを利用する一方、アプリケーション開発は株式会社FSKに依頼。同社はかつて定額給付金の実施に際して豊島区のシステムを開発した実績があり、今回は定額給付金のシステムを一部改修しクラウド向けに開発した。
開発から稼働開始までわずか2ヵ月。「オンプレミスでシステムを構築する場合、サーバの調達からネットワーク構成、アプリケーション実装などで、稼働開始まで少なくとも4ヵ月は必要です。IIJのクラウドサービスを利用することで、早期稼働はもちろん、調整の手間も不要でした」と黒田氏は評価する。
また、FSKの髙木岳彦氏は「サーバやネットワークのインフラをIIJに任せ、アプリケーション開発に専念できました。開発中の問い合わせに対しても、IIJの営業担当者やSEはスピーディーに対応してくれました」と話す。
臨時福祉給付金事務処理システムは2014年7月から運用を開始。「クラウドサービスを利用することで、システムの仕様設計に頭を悩ませる必要がありませんでした。リソースが不足すれば簡単に追加できるので、安心感があります」と高橋氏は導入効果を述べる。今後のシステム展開においてクラウドサービス利用の可能性も広がるという。
豊島区では今回のクラウド活用の実績を踏まえ、機会があれば再びシステムの共同利用を呼びかけていくという。そして、IIJは豊島区と共に割り勘効果の高いクラウドサービスの利点を自治体に提案していく考えだ。
※ 本記事は2014年8月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。