比嘉氏
要件はシンプルです。まず、石垣市の特性から、多種類のハードを置かないこと。また、国立情報学研究所(NII)が構築・運用する学術情報ネットワーク「SINET」に小中学校が接続するという話が文部科学省から出てきているので、実施が求められたらすぐに移行できるようなネットワーク構成を採ること。そして、GIGAスクール対応の初年度はインターネット利用が少ないと想定し、数年後の負荷増大に柔軟に対応できる機器構成であること。これらを要件にしました。
オキジム様
情報提供依頼があった段階から、当社ではIIJとクラウド化したネットワーク構成で石垣市のGIGAスクールへの対応を検討してきました。今回ご提案、導入したネットワークの構成は非常にシンプルで、管理・保守にかかるコストを大幅に削減できると感じています。クラウド型の仮想ネットワークサービスであるIIJ Omnibusを利用し、インターネットとの間は1Gbpsの帯域保証した回線を導入。各拠点にはIIJ Omnibusのサービスアダプタを配置し、シスコシステムズが提供するクラウド管理型のITインフラソリューションであるCisco Merakiで遠隔管理を可能にします。インターネットを利用する際のセキュリティ対策も、クラウド型セキュリティのCisco Umbrellaで実施します。
クラウド型の構成にすることで、石垣市が求める多種類のハードウェアからの脱却と、管理の容易さを実現できます。何かトラブルが発生したときも、Cisco Merakiで遠隔から状況を確認できますし、ハードウェアのIIJ Omnibusサービスアダプタに障害が発生した場合は、当社で用意した予備機と入れ替えて簡単な設定をするだけで復旧できます。
比嘉氏
仮想化・クラウド化したことで、当初想定した導入コストが大きく下振れしました。これまでの考え方から大きく変化する構成のため、低価格帯での構築に対して不安の声などもありましたが、教育長をはじめ、学校教育課が一丸となり、多方面からの理解をいただきながら構築できたことは大きな成果だと感じます。
この構築は2年後、3年後に大きく実感できるものと思います。機器は導入して終わりではありません。3年後どのように管理する形になるのか、5年後どのようにリプレースするのかいろいろな先を考えて導入する必要があります。
特に故障頻度、復旧を誰がどのように行うかなどいろいろな管理負担を明確にしなければ安定した運用は困難です。3年後は旧製品になるため同一製品の入手が困難になるなんてことは日常茶飯事にありました。特に離島では産業廃棄物の廃棄も困難なため、仮想化・クラウド化を中心とした最小機器構成は最も地域特性に適していると考えています。
比嘉氏
2021年3月に入札で決定し、11月に導入完了しました。事前に8月に中学校で開通させて、1校あたりの通信量やネットワーク負荷などを確認し、問題点を洗い出す手順を踏んだ上での導入でした。
導入後、各学校からGIGAスクールのネットワークへの大きな不満はなくなり、ストレスを感じずに利用できるようになっています。旧ネットワークではメールを開こうとして30分待つといったことが頻繁にありましたが、今はやりたいことがやりたいときにできるようになりました。IIJ Omnibusからインターネットに出る1Gbpsの帯域保証の回線を予算上確保できたことが、大きなポイントだったと感じています。各学校はフレッツのベストエフォート回線でIIJ Omnibusと接続していますが、ここも従来のPPPoE接続から、安定性が高いIPoE接続へと変更することで、ボトルネックにならずに済んでいます。
比嘉氏
Cisco Merakiを導入したことでリモートで管理でき、トラブルが発生したときには一元管理ができて助かっています。石垣市の教育委員会でクラウドにログインすれば、障害発生や帯域利用状況、端末の接続状況の把握ができるため、管理のしやすさが飛躍的に向上しています。また、IIJ Omnibusの管理画面から回線の使用状況をリアルタイムで確認できることも運用面でメリットが大きいと感じています。
比嘉氏
石垣市では、端末の設定もアカウントのログインも、児童生徒自身で行う形にしています。ITの第1関門は環境設定とアカウント管理です。これらを試行錯誤しながら経験してもらいたいと思い、児童生徒自身で行ってもらっています。中学校で先行調査をしたときは、スマートフォンの感覚でYouTubeを見たり、TikTokやTwitterなどのサービスを利用したりして、多い生徒は1日に4GBもの容量を使っていました。ところが、だんだんと児童生徒の興味が勉強へと変化しています。今はMicrosoft 365の各アプリケーションやタイピング学習ソフトに興味が向いてきています。教員でも、児童生徒のこうしたICTの利用の変化を把握することはなかなか難しいので、Cisco Umbrellaでアクセス状況の変化を確認できることは大きなメリットです。
そして、児童生徒からは学校が楽しいという意見が多くなったと感じています。学習進度に差がある児童生徒が、それぞれ自分のレベルや興味に合った学習ができるインフラは、学校を楽しくできる環境だと感じています。また不登校の児童生徒は全国で増えていますが、インターネットのインフラを安定して利用できれば学校とのつながりができ、勉強をし続けることができます。そうした意味で、管理者としてGIGAスクールのインターネットを死守していく思いです。
比嘉氏
インターネットは、教育にとって必須なインフラです。しかし、5Gの台頭、SINETなど急激に変化する可能性もあります。構成の変化が求められたときに、柔軟に対応できるサービスを利用することが、継続して安定したインフラを提供するために必要です。その鍵になるのが、IIJ Omnibusだと感じています。行政の側からは方向性しか示せません。そこでオキジム様とIIJ様に尽力していただき、良いインフラが構築できたと考えています。
社内SEは孤独になりがちです。契約の有無だけではなく、相談相手として、ビジネスパートナーとして石垣市や教育委員会のシステムやネットワークについて一緒に考えていただけるとありがたいです。
※ 本記事は2022年3月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
増設を重ねた旧ネットワークは限界に
石垣市に小中学校は何校あるのでしょうか。
石垣市 教育委員会 比嘉幸宏氏
石垣市は日本の最も南西にある市で、小中学校が24拠点、28校あります。拠点数と学校数が少し異なっているのは、小中の併置校があるためです。全校で数百名の児童生徒がいる大規模校から、10名前後の小規模校まで、多様性があるのが特徴です。これまで、ICT設備を利用するときはパソコン室で端末を利用する形でした。
今回、GIGAスクール構想に対応するため端末やネットワークを刷新されました。以前のネットワークはどのような状態だったのですか。
比嘉氏
私は2020年春に着任してGIGAスクール構想を担当することになりました。以前のネットワークは平成25年度に設置して以降、増設を重ねたもので、課題が山積していました。引き継ぎをしたときは、様々なシステムや機器のアカウントを20個も渡され、ここにアクセスするときはVPNでつないで――といった確認作業をサーバ室に数時間も引きこもって行わなければならないほどでした。学校ごとに機器構成が異なり、対応もそれぞれ違います。その上、増設に増設を重ねたネットワークはトラブルが頻発して、障害の復旧にエネルギーと時間を取られました。対処して戻ると次のトラブルの連絡が来るような状況で、自分の行政事務が全くできず、係長や課長に非常に助けられました。
オキジム様
弊社は沖縄県内で事務機やオフィス用品の販売から保守サービスまでを取り扱う企業で、沖縄本島だけでなく、石垣市、宮古島市にも拠点があります。石垣市においては八重山支店がこれまでもICT機器、ネットワークの設置や運用のサポートをしてきました。
具体的にどのようなトラブルや課題がありましたか。
比嘉氏
従来のネットワークは中央制御型で、全校からインターネットへのアクセスが1本の回線に依存していました。その回線がフレッツのベストエフォート型で、条件が悪くなると数十kbpsといったスループットに落ちてしまうのです。そうなると、学校ではインターネットを介して利用するメールやデジタル教科書の一部などが使えなくなります。ダイヤルアップ接続用のPPPoEと呼ぶプロトコルで接続していたため、安定性が非常に低かったのです。各学校と中央制御する市役所の間もフレッツのPPPoEで接続していました。この状況でGIGAスクール構想により児童生徒に端末を1台ずつ持たせ、ネットワークを利用できるようにするのは、とても現実的ではないと考えました。
新規のネットワークを構築するときに、どのような点を考慮しましたか。
比嘉氏
まず、ネットワークやシステムの管理の側面を考えました。私はICT関連の経験を持って着任したので、ある程度の専門知識を持っていましたが、もし私の後任にICTの知識がない人が着任したら、ネットワークのインフラが安定稼働できなくなる懸念があります。そこで、管理負担の軽減を前提に検討しました。
次に、台風や落雷、塩害が多いといった気象条件から、機器の劣化が激しいことも考慮しました。実際問題として、学校現場に設置する機器は環境保全が難しく、1年は大丈夫ですが、3年の継続利用は難しいです。そのため、多くの機器を各学校に置くと、在庫管理などが非常に煩雑になります。現場に置く機器をできるだけ少なくすることを最優先に検討しました。
すぐにGIGAスクール用のネットワーク構築に向けてプロジェクトを始動させたのでしょうか。
比嘉氏
どのようなネットワーク、端末の構成が最も適しているのかを見極めるため、石垣市教育委員会では、2020年度に検討期間を設けることにしました。まず、オキジム様を含む複数の企業に情報提供依頼を行い、どのような構成が石垣市教育委員会として適しているのかを検討し、2021年2月に「石垣市教育ICT環境整備指針」を策定しました。