ケイ・オプティコムは「お客様の豊かな暮らしと快適なビジネス環境を創造する」を理念に、個人向け・法人向けの情報通信サービスを提供。同社が所有する関西一円の光ネットワークを基盤としてインターネット、電話、テレビ、コンテンツ配信などの多彩なサービスを展開している。サービスプロバイダ間の競争が激しくなる中、より顧客満足度を高めるには、提供するサービスの高機能化、高付加価値化が求められていた。
同社の個人向けインターネットサービス「eo光ネット」の契約数はまもなく150万回線となる。そして、メールサービス「eoメールサービス」は150万アカウントを超え、「1日に送受信されるメールは約2,000万通に及びます。大容量データをメールでやり取りするお客様も増えており、メールシステムの処理能力やメールボックス容量の拡充が課題になっていました」と同社の目黒喜治氏は述べる。
従来のメールボックス容量は1アカウントあたり200MBまで。目黒氏は「お客様サポートセンターなどから、大容量メールボックスに対応する新サービスを提供してほしいと要望が出ていました」と付言する。同社の森崎聡氏は「Webメールの機能強化や5GBまでメールボックス容量の拡充、スマートフォン対応に加え、メールシステムのDR対策も課題でした。既存メールシステムの保守期限切れが迫っていることもあり、新メールシステム基盤の刷新に着手したのです」と経緯を話す。
ケイ・オプティコムでは、複数のIT関連事業者に新メールシステム基盤の提案を依頼し、比較・検討。その結果、IIJの提案を採用した。IIJは、VMwareの仮想基盤上に商用Webメールシステム「Zimbra」及びメール配送システム「Sendmail」の導入を提案。メインサイトとバックアップサイトの2拠点で物理サーバ約70台、仮想サーバ約220ノードのほか、大容量ストレージやロードバランサなどを配置する大規模なメールシステム基盤である。
仮想化技術の採用を提案したのは、サーバリソースを有効活用でき、システム拡張などにも柔軟に対応すると共に、DR対策にも効果があるからだ。新たに構築する仮想サーバのシステムをもう片側のデータセンターの仮想サーバにコピーし、2拠点で同じ仮想環境のメールシステム基盤を容易に実現できる。
ケイ・オプティコムのDRの要件は、「片側の拠点に手間なく切り替えられることと、切り替え時に可能な限りデータ欠損が起こらないようにすることです。IIJに最適な実現方法を提案してもらいました」(目黒氏)。IIJではVMwareとNetAppのストレージレプリケーション機能を組み合わせて一定時間ごとにメールシステムのデータを同期するなど、処理を自動化する仕組みを構築。万一、片側の拠点で災害が発生した場合、もう片側の拠点で速やかにサービス提供を継続する仕組みだ。
ケイ・オプティコムでは、ネット回線数の目標値から算出した約222万アカウントまでの拡張性を視野に入れ、新メールシステム基盤を計画。その際に重要なのが、システムの適正なサイジングである。当初の想定と運用開始後の乖離がなければ、結果としてコストの無駄もなくなるからだ。そこで、IIJではサーバやストレージが想定どおりのパフォーマンスを発揮するかどうか、負荷テストなどの事前検証を綿密に実施した上で移行している。
更にIIJでは、Webメールシステムのソースコードを入念にチェックした上でベンダー側に改善点を伝え、パッチを受けて適用。IIJセキュアMXサービスなど、100万アカウントを超える自社サービスの運用で長年培ってきたメールシステムのノウハウと技術力を活かしてプロジェクトを進行した。
こうしたIIJの技術力について、森崎氏は「IIJは自社で大規模なメールサービスを提供してきた実績があり、システム負荷などの問題点を理解しているので安心感があります。実際の運用面からシステム構築に関する様々な提案を行ってくれました」と評価する。
従来は特定のサーバに負荷がかかることもあったが、「仮想化技術を活用した負荷分散により、メールシステムの運用が楽に行えます。また、今回のシステムから認証ID機能を用いてスパムメール対策をメールサーバから制御できるようになるなど、運用面でも機能強化を図っています」と、ケイ・オプティコムの近藤大蔵氏は導入効果を述べる。
IIJでは協力会社を含め約40人でプロジェクトチームを構成。新メールシステム基盤の設計、構築に関わるスケジュール管理や品質管理などを実施した。「タイトなスケジュールの中でプロジェクトを進め、ほぼ予定どおりに新しいメールシステムを開始しています。IIJは旧システムの問題を入念に調査し、把握してくれていたので、データ移行もスムーズに行えました」とケイ・オプティコムの小林一正氏は評価する。
2013年12月中旬から新メールシステム基盤が稼働。森崎氏は「Webメールの機能強化やDR対策が実現し、システム規模は大きくなっていますが、運用工数自体は増えることなく、従来と同じ4人体制で運用・保守業務を行っています。コスト面でも、旧システムを更新してDR構成にした場合とほとんど変わらず、サービス内容を大幅に刷新できました」と効果を述べる。
今後、メールサービスに機能追加を行うなど、新たなサービスを展開していく予定だという。付加価値の高いサービスで顧客満足度向上を目指すケイ・オプティコムの大規模メールシステム基盤を、IIJのノウハウと技術力で今後も支えていく。
※ 本記事は2014年3月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。ただし、2019年の社名変更に伴い、社名とユーザプロフィールのみ変更しております。