桜井氏
選定作業は、複数のベンダーの提案を基に比較検討しました。その結果、当社のニーズと要件に最もマッチしていたのがIIJの提案だったのです。
具体的には外部のデータセンターを利用していた情報系/公開系システム基盤を「IIJ GIO」に移管しクラウド化するとともに、別々のセグメントに分割しました。さらにIIJのセキュリティサービスを組み合わせ、情報系/公開系それぞれでセキュリティを強化しました。
一方、CADデータを置くファイルサーバについては、パフォーマンスを重視し、高速なストレージに入れ換えた上でオンプレミスに残すという提案でした。
これらの要件をワンストップで実現できる総合力も、大きな選定ポイントになりました。こうして2020年2月に正式契約し、ITインフラの刷新プロジェクトがスタート。同4月より順次導入を進め、段階的に運用を開始しました。
桜井氏
先ほど申し上げたように、従来のITインフラ環境はブラックボックス化し、委託ベンダーさえ十分に分からない状態でした。刷新するには、まず現状を把握しなければなりません。IIJは自ら調査を進め、ブラックボックスだったITインフラ環境をひも解き、詳しくドキュメントとして整備してくれました。このおかげで「何をどう変えていけばいいか」という理解が進みました。難解な作業を親身になって対応してくれたことは、非常に感謝しています。
桜井氏
情報系/公開系システムの基盤にはIIJ GIOを活用し、クラウド化しました。2つのシステム環境は物理的に分離し、別々のセグメントで運用しています。情報系/公開系システムともにIIJのセキュリティサービスを組み合わせ多層防御も実現しました。
本社システムには10Gスイッチを導入し光回線化することでLANを高速化。ストレージ環境も高性能なオールフラッシュストレージに入れ替え、ハイパフォーマンスな環境を整えました。本社とデータセンターに設置した情報系/公開系システムをつなぐWANには300Mbpsの専用線を導入し、安定かつ高速な通信環境を実現。副系回線として1Gbpsのフレッツ光も導入し、冗長性を高めています。
さらにIIJのSEサポートサービスを契約し、システムの監視・運用をアウトソースしました。このプロジェクトを機に、一部で限定的に利用していたMicrosoft 365も全社展開しました。IIJはライセンス提供からサポートまで一括提供しているため、既存ライセンスの移管も含め、柔軟に対応してもらえました。
桜井氏
まずセキュリティの不安が大幅に解消されました。情報系/公開系システムを別々のセグメントに分割し、多層防御も強化できたからです。インシデントが発生しても、SEサポートサービスを契約しているので、調査やインシデント対応も任せられます。この安心感は非常に大きいです。これまでとは、世界観がまったく違います。
IIJのクラウドやITサービスでアセットレス化が進んだため、機器の保守メンテナンスやバージョンアップも考えずに済む。運用負荷も大幅に低減しています。
桜井氏
以前は情報系/公開系が単一セグメントだったため、例えば、公開系システムのアクセスが増えると、それが情報系システムにも影響していました。今は別セグメントになったため、そうした心配はありません。アプリケーションの起動が速くなったと非常に好評です。
オンプレミスのCADシステムのパフォーマンスも向上しました。設計・図面データは多様なパーツの構成で非常に大容量。こちらも以前は起動に時間がかかっていましたが、LANの高速化とストレージの性能アップにより、起動時間が半分以下に短縮されました。現状のCADソフトがクラウド化されても、快適に作業できるでしょう。将来を見据えた環境整備も進めることができたのも大きなメリットです。
Microsoft 365の全社展開により、柔軟な働き方も可能になりました。私自身、サーキットに出向いてマシンの調整を行うことが多いのですが、そんなときでもTeamsでリモートミーティングが可能です。OneNoteを使えばメンバー全員で資料や作業履歴も共有できます。
桜井氏
クラウドの活用を軸にIT環境のアセットレス化を進め、将来的にはオンプレミスのストレージ環境もクラウド化を目指したいです。セキュリティ対策のさらなる高度化と効率化に向け、SOCサービスの活用も考えています。さらに国内拠点のIT環境を自社の標準モデルとして、現地で運用を任せている海外拠点のIT環境も統合化を検討していきます。
社会やビジネス環境は大きく変化しています。常に“成長”するITインフラを手に入れる上で、アセットレス化は有効な手段だと思います。今後も当社はモータースポーツ界をリードする技術にさらに磨きをかけ、“無限”の夢と可能性に挑戦していきます。
その取り組みを支える当社のIT戦略にとって、IIJは非常に重要なパートナーです。目指すビジョンの実現に向け、これからも価値ある提案とサポートに期待しています。
※ 本記事は2021年2月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
IT環境がブラックボックス化し、自前の運用が限界に
貴社の事業概要を教えてください。
M-TEC 桜井広和氏
日本初のレース専用エンジンメーカである「株式会社無限」を前身とする当社は、「無限」ブランドによるモータースポーツ事業や生産・商品事業を展開しています。
モータースポーツ事業では国内・海外の様々なレースに挑み続け、F1で4回の優勝をはじめ数々の勝利を収めています。バイクレースでも次世代マシンで挑戦を続けています。世界的なバイクレースの1つである「マン島 TTレース」に電動レーサーバイク「神電」で2012年に初参戦。2014年に初のクラス優勝を果たして以来、6連覇を達成しました。
生産・商品事業では、モータースポーツ事業で培った技術やデザイン力を基に、ホンダ車をベースにしたプレミアムカーのほか、独自のチューニングパーツやアクセサリーを開発・制作・販売しています。レーシングマシンの開発を支える国内トップクラスの高精度金属加工技術を活かし、ブリヂストン様と共同で「無限ウェッジ」というゴルフクラブも開発・提供しています。
ビジネスの中で、ITに求められる要件や期待はどのように変化していますか。
桜井氏
モータースポーツビジネスにとって、ITは不可欠の存在です。エンジニアはレースの走行データを解析し、その結果を次の製品開発にフィードバックしていきます。設計や図面作成にはハイスペックなCADソフトが必要です。そうした分析・設計データはハイレベルな機密情報です。さらに、取引先や市販製品をご購入いただいたお客様の個人情報も、秘匿性の高い重要情報です。ビジネスにおけるITの広がりとともに、これらの情報を守るセキュリティの重要性が一段と高まっています。
そうした中、既存のITインフラ環境にどのような課題を抱えていましたか。
桜井氏
従来のITインフラ環境はオンプレミスが基本でした。2004年に構築した基盤に追加・変更を繰り返してきたため、全体構成がよく分からない。つまりブラックボックス化していたのです。保守作業はベンダーに委託していましたが、そのベンダーさえ全体構成を把握し切れていない状態でした。
しかも情報系/公開系システムは単一セグメントで運用していました。外部とつながる公開系システムに侵入被害があれば、そこから情報系システム、さらに本社システムへと被害が拡大する恐れもあります。本社システムでは重要資産である分析・設計データを管理しているため、情報漏えいリスクに対する危機感を募らせていました。
CADソフトの利用形態の変化にも対応が求められました。現在はスタンドアローン型なのですが、次期バージョン以降はクラウドサービスで提供することがCADソフトのメーカから発表されたからです。セキュリティをより強固にし、インターネット回線を含むネットワークも増強が必要です。
一方で、情報システムの担当者は限られるため、運用負荷は以前より増えていました。このまま使い続けるのはもはや限界だったのです。インフラの更改時期が近付いていたことから、既存環境を見直すことにしました。
私は普段からエンジニアの仕事をしており、アプリケーションの開発などを行うことから、サーバやネットワーク環境について情報システム部門をサポートする機会も多かったのです。そこで私がプロジェクトに参加し、全体レイアウトの策定を担当しました。