暮らしの身近な家電製品(BtoC)から、オフィス、交通、物流、店舗などのビジネスフロント(BtoB)、社会インフラに至るまで、パナソニックは幅広い領域にまたがる多様な機器の開発・販売を手がけている。IoT(Internet of Things)時代を見据えて同社は、これらの機器をネットワークにつないでいくことで、かつてない高度な価値を提供していくことを目指している。更に、IoTを前提とした斬新なアイデアやコンセプトを今後の商品開発にも発展させていきたいという事業ビジョンを描いている。
その最初のステップとして踏み出したのが、法人向けMVNO(仮想移動体通信事業者)サービス事業への本格参入である。
もちろん、通信キャリアからモバイル回線を調達するという手段がないわけではない。だが、それらの通信サービスの大半はスマートフォンやタブレットなどの端末利用を想定したもので、IoT向けではない。また、顧客にとっても、機器をパナソニックから購入する一方、モバイル回線を別途契約する必要があり手間がかかる。
パナソニックAVCネットワークス社の宮和行氏は、「多様な機器に適した通信速度や通信容量、通信時間、料金体系のサービスをオーダーメイドで提供していくためには、パナソニック自身が設備と基盤を持ち、ネットワークの全体レイヤーをワンストップでコントロールする必要があるのです」と語る。
だが、パナソニックにとってMVNO事業は未経験の領域。すべてを自社で準備するのではなく、スタートアップに必要な技術や運用ノウハウが豊富な協業パートナーと共に事業を進めていくという考えに至った。そこで同社は2013年10月、MVNE(仮想移動体通信事業支援者)としてIIJを選定した。
パナソニックAVCネットワークス社の石原学氏は、「財務基盤を含めた企業力、自らもMVNOとして大規模なモバイル通信サービスを手がけている実績、モバイルネットワークからクラウド環境までをトータルに提供できる高度な構築・運用技術、人材交流を通じた技術やノウハウの相互共有、更には独立系事業者としてのマルチキャリア対応の可能性など、多面的な観点からIIJを高く評価しました」と選定の理由を語る。
そこには、「IIJは良い意味で特定系列の"色"が付いておらず、いつもフランクに相談ができ、新しいIoTビジネスを一緒になって創造していく、広範な協業パートナーになり得るという判断もできました」と宮氏は強調する。
この要求に応えるべくIIJは、LTE/3G網を利用したモバイル回線を提供。加えて、通信制御システム、顧客管理及び課金・請求などの業務システム、高いセキュリティを実現するリモートアクセス基盤の連携により、柔軟なビジネスプランの創出を可能とするパナソニック独自のMVNOサービス基盤の構築をサポートした。
「我々が実現したいサービスの要件定義こそがプロジェクトの肝であり、IIJのコンサルティング力は大変役に立ちました」と話すのは、パナソニックAVCネットワークス社の大谷直彦氏だ。
「実質わずか半年足らずという非常にタイトなスケジュールの中で、周辺ベンダーのコントロールもしっかり行いながら、柔軟かつ信頼性の高いMVNOサービス基盤を実現してくれました」。更に、運用管理面でも「インフラはもちろん業務運用の窓口対応まで含めた統合的なアウトソースにより、当社側の負荷は大幅に軽減されています」と石原氏は語る。
こうして完成したMVNOサービス基盤をベースにパナソニックは、コンビニ店舗の冷凍・冷蔵庫や空調、POSレジ、太陽光発電サイトの蓄電設備などのモバイル対応機器に対して、リモートから保守管理を行うサービスを開始した。「ネットワークを使う立場から提供する側に変革でき、パナソニックとして営業の幅が広がりました」と宮氏は話す。
また、このモバイル通信サービスはAVCネットワークス社をはじめ、パナソニック社内の様々な事業/流通部門にも提供されており、実務での実証を通じて活用ノウハウの蓄積とサービスのブラッシュアップを進めている。
ただ、この先で社会インフラやミッションクリティカルなビジネス領域に向けて、MVNOサービス事業の拡大を図っていく上では、これまで以上に高い信頼性が求められることが予想される。「サービスの品質や内容をどこまで向上できるかによって、MVNOサービス事業の将来の適用範囲が大きく変わってくるのです。例えば、マルチキャリア対応による可用性の向上や、お客様の利用シーンに合わせたより柔軟な回線プランの提供などへの期待が高まるだろうと考えられます」と宮氏は語ると共に、「今まで以上に困難な課題が目前に控えており、IIJにはますます手厚い支援を提供してくれることを望みます」と期待を寄せる。
人材交流をはじめ、様々な場面を通じたコラボレーションを深めつつ、両社の一体となったチャレンジが続いている。
※ 本記事は2015年2月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。ただし、2022年の社名変更に伴い、社名とユーザプロフィールのみ変更しております。