広島県をサービスエリアとし、地上波テレビ(TBS系列)とラジオの兼営局として事業展開するRCCは、以前から地元広島東洋カープのコンテンツに注力してきた。例えばラジオのプロ野球放送では、カープ戦をホームとビジターを問わず、全試合を試合終了まで中継している。
さらに十数年前からは、カープファンを対象とした会員制サイト「RCC広島カープ」を運営し、スコア情報や一球速報、応援コメントなどのコンテンツを配信。また、一部カープ戦のライブ中継(都度課金)なども行ってきた。
だが、これらWeb系のサービスについては、様々な課題も顕在化してきていた。
RCCの信家悠司氏は、次のように話す。「『RCC広島カープ』は、現代風の見栄えの良い画面デザインや操作性を備えておらず、次第にユーザーからの評価が低下しつつありました。また、カープの優勝のかかった天王山の試合のライブ中継に1万人を超えるアクセスが殺到し、配信サービスが正常に提供できなくなってしまったこともありました」。
そこで2018年9月下旬、RCCはライブ中継機能も統合した新たなアプリへのリニューアルを実現すべく、グループのIT会社であるオレンジシステム広島と共に検討を開始した。
RCC、中国新聞社、広島東洋カープの3社が共同して運営することが決定した新しい公式アプリは、カープファン必携のアプリとなることを目指す。「今やカープファンは全国区で広がっており、関東だけで100万人に達しているとも言われています。最終的には、その1/10となる10万人規模の有料会員を獲得したいと考えています」と信家氏は目標を掲げる。
ただ、そうした大規模なユーザーに対して高品質で安定した試合のライブ中継やハイライト動画、インタビュー動画配信などのサービスを提供するためには、これまでとはレベルの異なるスケーラブルなCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)の基盤が必要となる。そうした中でIIJから紹介されたのが、超大規模CDNサービスの「IIJプレミアムコンテンツ配信サービス」と、クラウド型Webコンテンツキャッシュサービスの「IIJ GIOコンテンツアクセラレーションサービス」である。
「IIJに詳しい話を聞いてみると、選抜高校野球大会(春の甲子園)でも試合のライブ中継を行った実績があるとのことで、私たちが目指すカープ公式アプリにとって打ってつけのCDN基盤になると確信しました」と信家氏は語る。
さらに、「スピード感のあるシステム構築を行う上でも、IIJから紹介されたCDNサービスは、必要な機能がサービスとして短納期で提供を受けられるという点で喉から手が出るほどほしいソリューションでした」と語るのは、オレンジシステム広島の濱本一平氏である。2018年での「RCC広島カープ」の終了を仕組み上早めに決めたこともあり、「カーチカチ!」は2019年シーズンの最初からのサービスインを目指していた。
「動画配信に関する様々な技術的な疑問に最寄りの中四国支店がレスポンスよく対応してくれるなど、短期間でのシステム構築をトータルにサポートする体制を整えてくれました」と濱本氏はIIJに信頼を寄せる。
さらに、IIJがCDNサービスと併せて提供しているライブエンコーダー『AWS Elemental Live』も「動画品質の高さだけでなく、他に例を見ない非常に充実した機能とSDI入力に対する安定した動作が魅力でした」と信家氏は評価する。
こうして2019年3月1日より配信を開始したのが、カープ公式アプリ「カーチカチ!」(iOS版/Android版)である。アプリ名は、カープの得点時のテーマソングに由来している。無料コンテンツ「一球速報」に加え、有料コンテンツとしてRCCによる一部試合のライブ配信や、RCCラジオによるカープ戦中継、中国新聞のカープ記事や2軍情報などを配信。また、有料登録会員限定で選手サイン入りグッズや選手実使用グッズも抽選でプレゼントするというものだ。
「IIJのCDNサービスは、期待どおりの安定した品質でカーチカチ!のライブ配信を支えてくれています」と信家氏は語る。
一方、システム構築の観点から濱本氏も、「IIJのサポートは非常にていねいで助かりました。CDN管理インタフェースの分かりやすい設計と、不透明感のない確実なCDNの挙動などにも満足しています」と高く評価している。
さらに、実際にiOS版カーチカチ!の構築作業に当たったオレンジシステム広島の古城門達哉氏も、次のように打ち明ける。「仮にIIJのCDNサービスを利用できなかったとしたら、同様の機能を持った基盤を自前で開発するとともに、大量のサーバを自社データセンターに導入して運用や維持管理にあたらなければなりません。3月1日のサービスインにはとても間に合わなかったと思います」。現在のカーチカチ!と同程度のリーズナブルな月額課金でオプションサービスを提供することも困難だったはずだという。
RCCはこの実績を踏まえ、IIJのCDNサービスをカーチカチ!だけでなく、自主制作番組や各種スポーツのライブ中継、ニュース番組、イベントなどの動画配信にも幅広く活用していく意向だ。
「今後の動画配信のトラフィック増加に合わせ、可用性の確保とサポートの一本化のため『インターネット接続サービス』を導入することを決定しました」と信家氏は語る。これは、既存のWeb関連の通信環境と分離された専用線を介してIIJのアクセスポイントと直結し、CDNサービスを利用するというもの。RCCはより高品質かつ高信頼の基盤を整え、コンテンツ配信にも注力していく。
※ 本記事は2019年8月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。