大成建設は、1873年に創業、1946年から現商号でビジネスを展開している総合建設業である。おもな事業分野は、建物・公共施設の建設、都市開発、環境保全など。グループ企業・関連企業を含めた総人員は2万人を超える。企業のキャッチコピー「地図に残る仕事。」でも有名だ。
同社は、ICTを活用したコミュニケーション/コラボレーションに以前から力を注いできた。「日々発生するプロジェクトデータを管理したり情報共有したりするためのクラウドとして、『作業所Net』を2003年10月にスタートさせました」と説明するのは、社長室で情報企画部 部長(担当)を務める北村達也氏。社内ではオンプレミスのグループウェア、協力会社や設計事務所などの社外関係者とはインターネットの電子メールを使って情報共有を図っていたという。
ところが、今顕著になっているのが、2020年に向けた国内建設需要の高まりと、その後に予想されるグローバルビジネスの拡大。「国内でも従来とは異なる形態の協業が生まれてくることでしょうし、海外拠点との連携もいっそう深めていかなければなりません」と北村氏は語る。日本を含む世界の多くの人がスマートフォンに代表されるモバイルデバイスを日常的に使っていることを考えると、「いつでもどこでも利用できて、社外にも開かれたグループウェア/電子メールへの切り替え」「モバイル対応」が急がれたのである。
また、コンプライアンスや社会的要請に応える必要もあった。例えば、顧客データ の保護や、ダイバーシティや介護離職防止のためのワークスタイル変革である。
「このような課題を解決するには、心地よく使えるが社内に閉じていた情報共有の仕組みから、世界のデファクトスタンダードへと移っていかなければならないことは明らかでした」(北村氏)。
「ICTを活用した働き方改革」と名付けられたプロジェクトがスタートしたのは、2015年8月のこと。まずは、建設業でも多数の実績がある「Microsoft 365」を候補として選んで、日本マイクロソフトのコンサルタントに業務分析を依頼した。
次に、その業務分析の結果を基に業務要件とシステム要件を定義。業務要件としては、電子メール、Web会議、情報共有、デスクトップアプリケーションの各機能のクラウドでの提供を求めた。
また、システム要件としては、回線の「レイテンシー(遅延量)と揺らぎ」「スピード(帯域幅)」「セッション数」に対する要求値と、大規模災害に遭っても業務を継続できる事業継続性の確保を要求。その理由を、大成情報システム 品質統轄部 ITスペシャリスト 植野雅俊氏は「Web会議やビデオをスムーズに使えるようにするには、レイテンシーを数十ミリ秒未満に抑える必要がありました」と説明する。またMicrosoft 365に接続するには、1人当たり40セッションを確保することも求められた。
こうした要件を受けて、IIJは二重化WAN接続、IIJプライベートバックボーンサービス(以下、PBB)、IIJクラウドエクスチェンジサービス(以下、CXM)、閉域接続サービス「ExpressRoute」の組み合わせを提案。
提案書を受け取った大成建設は、「ExpressRouteをサービスの一環として使用できる」「IIJの事前検証でレイテンシーが10ミリ秒台だった」「ネットワークと情報セキュリティについて高い技術力を有する」などを評価してIIJの採用を決定。2015年暮れから構築作業を開始した。
「全社プレビュー」というかたちで全従業員向けのサービスが試験的に始まったのは、2016年2月15日。試行開始5日目には、1日のログイン回数が1万以上、利用者数(重複除く)でも1,400名以上を達成した。従来のオンプレミス型グループウェアとインターネットのメールからの移行が完了するのは、2016年5月になる見込みだ。
システム要件のいくつかの項目については、大成建設の要求を満たすものであることがすでに確認できている。「確認してみたところ、東京-大阪間のレイテンシーは10ミリ秒台でした」と植野氏。Microsoft 365のセッション数についても、「利用者一人当たり40セッションの確約がIIJから得られ、利用状況に応じて、セッション数の増減も柔軟にできる」(植野氏)ことに満足している。
「当社のコミュニケーションとコラボレーションの環境は、ようやく他のMicrosoft 365利用企業と同じスタートラインに立ちました。今後、"容量無制限"のOneDrive for Businessを活用したプロジェクトデータ共有の仕組みや、今回採用したExpressRouteによる低遅延のネットワークによってMicrosoft 365の活用を推進し、他社との差別化を進めていきたいと考えています。当社は以前からBYOD(私的デバイス活用)を実施していますが、Microsoft 365も多様なモバイルデバイスでの利用が可能。より多くの従業員が自分のスケジュールをMicrosoft 365の予定表に登録するようになれば、現場を飛び回っている人を含めて全スタッフの行動予定をいつでも確認できるようになり、打ち合わせのための調整作業も不要になることでしょう」(北村氏)。
Microsoft 365を最適なネットワークで接続した大成建設。国内外の「地図に残る仕事。」を進めていくうえでIIJのICTサポートは欠かせないものになっているようだ。
※ 本記事は2016年2月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
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