加藤氏
メールセキュリティについては2006年から、IIJの「メールホスティングサービス」を導入していました。当時としては最新機能を実装したメールフィルタリングだったのですが、その後サイバー攻撃はどんどん多様化・巧妙化しました。メールセキュリティもより強固にしなければならない。そう考えていたとき、IIJからスパムフィルターなども実装した「IIJセキュアMXサービス」の提供が開始されたため、こちらに移行することにしたのです。
当院も含め地方の病院には専門のセキュリティ人材は限られています。メール専用プロトコルや付随するポート管理、セキュリティの運用ノウハウも少ない。その点、IIJセキュアMXサービスはマネージド型のメールセキュリティサービスなので、スパムメール対策、なりすまし対策、標的型攻撃に対応したサンドボックス、誤送信対策など多彩な機能をアセットレスで利用でき、インフラの保守管理の必要もない。これが大きな決め手になりました。
このIIJセキュアMXサービスの導入、その後の運用実績について比較検討をした結果、インターネット接続回線の増強もIIJにお願いすることにしました。IIJは高い技術力と豊富な実績があるため、安心してお願いできました。インターネット接続回線は従来のベストエフォート型を刷新し、2018年5月にIIJの専用線接続に切り替えました。
渡辺氏
名古屋大学医学部附属病院 先端医療開発部 先端医療・臨床研究支援センターの開発した、電子@連絡帳を用いた「瀬戸旭もーやっこネットワーク」は、瀬戸市および尾張旭市と瀬戸旭医師会が「在宅医療介護連携」を推進するために導入しました。当院としては、主にがん患者さんが退院し自宅に戻る際、入院時の主治医や担当看護師、在宅の主治医、ケアマネジャー、訪問看護師、福祉・介護用具業者など多職種で構成される「支援チーム」が病院と地域の枠を越えて緊密に連携し、在宅でのより良い医療と介護を提供する目的で始めました。
その後も電子@連絡帳はバージョンアップと機能強化が進み、二次医療圏である「尾張東部医療圏」、そして「愛知県広域」と連携範囲が広がりました。「IIJ電子@連絡帳サービス」は愛知県に留まらず全国で導入が進み、病院の参加も増えています。将来は、県の枠組みを超え必要な機関同士での制限のない連携を期待しています。
加藤氏
インターネットについては、専用線接続になったことで、ボトルネックのない安定した通信が可能になりました。IIJセキュアMXサービスの活用により、現場に負担を強いることなく、セキュリティを強化できたのも大きなメリットです。
渡辺氏
医師や看護師は学会の論文だけでなく、最新の医療情報の確認などにもインターネットを利用しています。事務部門でもインターネットは業務に欠かせないツールです。私が所属する地域医療連携室ではかかりつけ医を探す患者さんやセカンドオピニオンを求める患者さんのために、地域の医療機関の検索・調査などに活用しています。
コロナ禍における情報発信ツールとしても病院のインターネットは重要な役割を担っています。今、地域で最も必要とされている情報が「今週のコロナニュース」です。新型コロナウイルスを“正しく恐れる”ために、当院の感染症内科主任部長が発行しているニュースレターです。「そもそもコロナってどういう病気なのか?」「感染対策として何から始めたら良いのか?」といった基本的な疑問から「今何をすべきか」といった最新情報まで幅広くお伝えしています。医療従事者はもちろん、一般の方にも分かりやすいと好評です。
当院のホームページのほか、IIJ電子@連絡帳での配信も開始しました。瀬戸旭もーやっこネットワーク外から提供の要請があった自治体や学校、医療機関には、最新の内容をメールで配信しています。
渡辺氏
以前は患者さんの症状や気になる点の情報共有には、患者さん宅にある連絡ノートで伝達したり、電話やFAXを使ったりしていました。しかし、支援チームは訪問中で不在も多く、周知徹底が難しい。今はノートPCやスマートフォンでIIJ電子@連絡帳を使い、その場の情報をチーム全員で共有できるようになりました。
2020年4月には愛知県の35行政が二次医療圏を越えた広域連携協定を締結し、2021年2月にはさらに2つの医療圏が加わり46市町村が広域連携を実現しました。多くの自治体が地域包括ケアを支えるツールとしてIIJ電子@連絡帳を活用しており、利用のすそ野とその活用範囲はますます広がりを見せています。
加藤氏
ICTはアナログの情報を電子化し、その共有を加速してくれます。このメリットは非常に大きい。電子カルテも当初は受け入れてもらうのが大変でしたが、今は多くの医師がそのメリットを実感し、診療になくてはならないものになっています。電子化されていない情報を早く電子化してほしいという要望も上がっています。インターネットやさまざまなツールの活用を進め、情報の電子化を加速していきたいですね。
渡辺氏
東日本大震災後、私はDMAT(災害派遣医療チーム)の一員として、被災地での医療支援に従事しました。その時、情報共有の重要性を痛感しました。患者さんは症状を説明できるものの、自分が服薬している薬の名前までは把握しておらず、処方薬の提供に苦労したからです。診療情報や薬剤情報を共有できれば、災害時でも適切な処方薬をすぐに提供できます。災害対策を見据えた地域連携も考えていく必要があるでしょう。
例えば、IIJ電子@連絡帳でMicrosoft Teamsなどによるオンライン会議システムとの連携が可能になれば、よりスムーズな情報共有が可能です。IIJには新たな機能強化に期待しています。
加藤氏
今後はオンライン診察への対応に加え、電子カルテを地域の診療所と共有する仕組みも必要になるでしょう。インターネットを含めた病院のネットワークはその基盤になるもの。快適性とともに、セキュリティ強化にも継続的に取り組み、現場がより使いやすいICT環境を整備したいです。
今後もIIJのサポートのもと、医療を支えるICTの高度化を進め、患者さんとその家族に寄り添った最適な医療の提供に努めていきます。
※ 本記事は2021年2月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
より快適かつセキュアなインターネット環境が必要に
陶生病院の歴史と地域で担っている役割を教えてください。
陶生病院 加藤浩司氏
当院は1936年(昭和11年)10月に設立されました。現在、瀬戸市、尾張旭市、長久手市の3市で構成する一部事務組合立の総合病院です。ベッド数は633床で診療科は30。救命救急センター、感染症・結核病床のほか、新生児集中治療室(NICU)を備える地域の中核病院であり、同時に災害拠点病院、地域医療支援病院としての役割も担っています。また、この地域のがん治療の拠点病院であり、ゲノム医療を提供できるのも大きな特徴です。
貴院では早くからインターネットを活用しているそうですね。情報保護の観点からインターネットの利用に慎重な病院も多い中、貴院ではどのような対策を講じていますか。
陶生病院 渡辺康浩氏
当院では1990年代後半からインターネットの利用を開始しています。これにより、医師や看護師が学会の論文などをタイムリーに閲覧できるようになりました。当初は利用できる端末台数もわずかでしたが、順次台数を増やし、アクセス回線も増強してきました。今は仮想端末を利用して全端末からインターネットを利用できます。
加藤氏
院内のネットワークは「インターネットに接続できるネットワーク」と、電子カルテや医療機器がつながる「インターネットから分離されたネットワーク」で構成されています。さらにクライアント環境を仮想デスクトップ化し、仮想基盤上でインターネットを利用する環境と電子カルテを利用する環境を論理的に分割しています。ネットワークに加え、クライアント環境も分離して運用することで、セキュリティを担保しています。
近年は電子カルテに象徴されるように医療情報の電子化が進み、医療業務におけるICTの重要性も高まっていると思います。従来のICT環境にどのような課題を抱えていましたか。
加藤氏
インターネットの利用が増えてきたことから、回線をさらに増強し、より快適に利用できるようにしたいと考えていました。一方で、最近はサイバー攻撃が巧妙化し、情報漏えいリスクは日増しに高まっています。特にメールを悪用した攻撃が際立っている印象です。既存のファイアウォールやエンドポイントセキュリティに加え、メールセキュリティをより強化する必要性を感じていました。