※ 名古屋大学医学部附属病院 先端医療開発部 先端医療・臨床研究支援センターにより開発された多職種連携、医療、介護、 家族をつなぐコミュニケーションツール「NU-Med電子連絡帳」をIIJがサービス化して提供。
医療・介護の現場は慢性的な人材不足だが、医療の質を維持しなければならない。そのためには、多職種や他の事業者と情報共有を強化し、連絡業務の負担軽減や効率化が必要だ。その支援となるのが、ICTツールの活用だ。愛知県の東三河に位置する8市町村は、在宅医療・福祉支援の「東三河ほいっぷネットワーク」に情報共有ツール「電子@連絡帳」を採用。豊川市では2014年10月から本格導入した。
豊川市および隣接する豊橋市の一部で、医療・介護・福祉のトータルケアサービスを31事業所で提供している信愛グループでも、全事業所で電子@連絡帳を利用している。
その信愛グループでも、導入時はスタッフから猛反対された。「新しいことを始める不安やICTに対する苦手意識が強かった。それでも粘り強く説得し、まず1人、登録しようと呼びかけました」と信愛グループの理事長を務める大石明宣氏は振り返る。
同グループに訪問看護師として11年間勤務し、訪問看護ステーションの所長も務める堀川真樹子氏は、2人、3人と登録数を増やすうちに、その便利さを実感したという。「導入前、電話をかけるときは相手の仕事の妨げにならないような時間帯を見計らい、個別に連絡していました。電子@連絡帳は自分の空き時間に連絡でき、情報の一斉周知も助かります。閲覧履歴を見れば相手が見たかどうか確認できるため、FAXの『送った・受け取っていない』の押し問答もなくなりました」と堀川氏は話す。
以前、システムが一時的に使えないことがあったとき、どれだけ情報のやりとりが簡単にできていたか身に染みたそうだ。導入して半年後には信愛グループ内で利用が浸透した。
同グループは連携する事業者に連絡マニュアルを配布している。「緊急時は電話連絡とし、電子@連絡帳は診療報告と急ぎではない相談とするなど、情報手段の使い分けを徹底しています」と大石氏は説明する。
豊川市は、2018年3月に「IIJ電子@連絡帳サービス」にバージョンアップした。これは、名古屋大学医学部附属病院 先端医療・臨床研究支援センターが開発した「電子@連絡帳」を、同センターとの共同研究によりクラウド型サービスとして提供するものだ。医療情報の取り扱いにかかわる各種ガイドラインに準拠した高いセキュリティ環境により、利用者の医療情報を安全に交換することができる。
新システムでは処理性能が向上し、業務スピードが改善した。2018年9月の防災訓練では、介護事業者が自主的に電子@連絡帳のスキル向上と連携強化を目的に使用。そのときの様子を、豊川市福祉部介護高齢課地域包括ケア推進係の松山哲也氏は、「連絡手段が電子@連絡帳のみという仮定で、参加した施設が次々書き込んでも支障なく使えていました」と話す。
IIJは従来のPC版に加え、独自開発のモバイル版の提供を開始した。タブレットやスマートフォンに特化したインタフェースを用意することで、音声入力機能の活用や写真や動画のアップロードが容易になる。
「当グループが使用している電子カルテが2018年末にタブレット端末対応になるのを機に、モバイル版の導入を検討したいと考えています」と大石氏。堀川氏も「ぜひモバイル版を使いたい」と期待する。現在は夕方に事業所に帰って入力しており、場合によっては翌日に持ち越していた。モバイル版なら撮影した画像を即、送信でき、訪問の合間に入力すれば業務のさらなる効率化も可能だ。
最近、「このような新しい薬が出たので、この点に気をつけてください」という薬剤師の書き込みが役に立ったと堀川氏が言うように、多職種間での情報共有が効果を出し始めている。
信愛グループの訪問看護師は、豊川市民病院のがん性疼痛看護・緩和ケア認定看護師と皮膚・排泄ケア認定看護師と連携し、同行訪問看護を行っている。これにより患者は手厚い看護が受けられる。認定看護師にとっては訪問看護のケアの実態を知る機会となり、訪問看護師はスキルを学ぶことができる。この内容の確認、予約、調整等は電子@連絡帳で行える。
電子@連絡帳で病院の病棟担当の看護師と連携できれば、退院から在宅医療へスムーズに移行できるのではないか。「最期は自宅で過ごすことを望むがん末期の患者が増えていますが、瀬戸際になって退院することが少なくありません。より良い看取りを行うには病院との連携が重要です」と堀川氏は連携の課題を挙げる。
信愛グループのように行政区をまたいで訪問診療をしている事業所は、連携ツールとして電子@連絡帳を活用したいところだ。
豊川市の導入施設は303に上る。「介護事業者の登録率は高いものの、医師会・歯科医師会・薬剤師会(三師会)の登録は40%程度に留まります。電子@連絡帳をもっと広げたいですね」という松山氏は、「顔写真を登録して、電子@連絡帳をより顔の見える連携ツールにしたい」と意気込む。行政は“よき黒子”として、在宅医療・介護を支え、盛り立てていく構えだ。
※ 本記事は2018年9月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。