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気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」の目標でもある「温室効果ガス(CO2、メタン、N2O、フロン)の排出量をゼロにするカーボンニュートラルを2050年までに達成する」ことを、世界120以上の国/地域が表明しています。日本政府も2020年10月、「2050年のカーボンニュートラル」を宣言しました。更に同年12月に公表したグリーン成長戦略では幅広い産業分野での目標が設定されており、そのうちデータセンターには以下の目標が掲げられています。
データセンターのカーボンニュートラルは、主に電力消費によるCO2の排出量をゼロにすることにより達成されます。そのためには、再エネ電力の購入、あるいは技術開発や設備投資などのコスト負担を伴いますが、早期にカーボンニュートラルを達成すれば他社との差別化、サービスの価値向上につながります。また、カーボンニュートラルが製品やサービスの調達要件になりつつあることや、株式市場において企業が形式的ではなく実効的な気候変動に関する情報開示を求められることは、カーボンニュートラルに対応するインセンティブになると考えられます。
エネルギーを効率良く使う省エネ化と、CO2を排出しない電力を使う再エネ化の2つを進めることにより、データセンターのカーボンニュートラルは実現されていきます。IIJは、高い省エネ目標を掲げて技術開発とその実証を行った外気冷却空調システムや、高効率電気設備などを取り入れ、松江データセンターパーク(以下、松江DCP)、白井データセンターキャンパス(以下、白井DCC)を構築・運用し、省エネによる温室効果ガス排出量削減を実現しています。
今後は省エネに加え、「再エネ発電設備」と「データセンター」が有機的に機能するカーボンニュートラルデータセンターを実現することより再エネ化も進めていく計画です。
ここでは、高い省エネ性能を実現した松江DCP・白井DCCそれぞれの省エネへの取り組みを説明し、最後にカーボンニュートラルを実現するためのデータセンターのリファレンスモデルを紹介していきます。
2011年4月26日、日本初の商用外気冷却方式モジュール型データセンター「松江データセンターパーク(以下、松江DCP)」を島根県松江市に開設しました。松江DCPでは、IIJが長年のDC運用で培ってきたノウハウを集積して開発したITモジュール「IZmo(イズモ)」を導入するほか、国内外へのエンタープライズへの広がりや新たな市場への発展として外販の需要に対応するため、間接外気冷却方式を取り入れたモジュール型データセンター「co-IZmo/I(コイズモ・アイ)」も運用しています。IIJのクラウドサービスであるGIOの基盤設備として、開設してから現在まで安定して運用されており、現在ではサーバを収容したコンテナは9割実装され、すべて合わせると数万台のサーバが稼働しています。2013年にサイト1隣に増設したサイト2では、IZmoに加えてco-IZmo/Iを導入し、サーバなどのIT機器への給電方式として三相4線方式を採用して電力損失低減を実現し、省エネルギー化に繋げています(図-1)。一般的にデータセンターは、大量のサーバなどのIT機器を効率良く設置できる環境を実現するために大容量の電気設備や空調設備を備えています。データセンターで最も多くの電力を消費するのはIT機器類ですが、次に消費電力が大きいのが空調設備です。そのため、従来の空調方式を見直し、消費電力量が少ない新たな空調方式を導入する必要がありました。IIJでは過去の実証実験を通して、外気を利用し消費電力を削減し、冷却塔などの設備の必要がない外気冷却方式が次世代のデータセンターに適していると考えました。しかし、外気冷却方式では、大量の空気を吸排気するため、開口部をサーバルームに直接設ける必要があります。このため、既存のビルに外気冷却方式を導入するためには、建物の構造として解決しづらい問題がいくつか存在することになります。そこで、空気を吸排気する風洞(ダクト)とサーバルームを一体化して、ITモジュール「IZmo(イズモ)」を開発して導入しました。
データセンターの電力利用効率の指標には、グリーングリッドが提唱したPUE(Power Usage Effectiveness)が用いられることが多く、図-2の式で算出されます。
空調などの消費電力がゼロの場合で、PUE=1.0が理論的には最も小さい(最も良い)値となります。ITモジュールのみのpPUE(partial PUE:共通部の電気のロスなどは考慮しない部分的なPUE)の過去5年間の実測値の推移を図-3で示しています。
夏期のpPUEが他の時期に比べて値が高くなっていますが、これは空調モジュールが外気を使わず消費電力が大きい運転モードで動作するためです。それに比べ、春と秋は外気をそのまま使う消費電力の小さな運転モードで動作するため、pPUEは1.1程度になります。また、冬期はIT機器の排気と外気を混合させて適温にする運転モードで動作しており、このモードも消費電力が小さいため、pPUEは1.1程度となり、過去5年の平均値では1.18となります。
一般的な高効率設備が導入されたデータセンターのPUEとして1.6が目安とされています。また、最近では目標値PUE1.2として掲げているデータセンターが多くなってきています。図-4のように、ITモジュール単体だけでなく、松江DCP全体でも1.2台のPUEで運用しています。
ITモジュール「IZmo(イズモ)」は、国交省が2011年3月に出した技術的助言に準じた建築物ではないコンテナであり、建築確認申請の手続きが不要であるため、モジュールの構築を容易に行うことができます。また従来はデータセンターで大量のサーバを1台ずつ箱から出し、ラックに設置して配線しなければなりませんでしたが、コンテナ型データセンターでは、サーバ工場でITモジュールに製造したサーバをそのままサーバ内に機器を搭載して、ITモジュールごとトラックで運搬し設置することで、箱や梱包材などの廃材を出さず、資源環境への貢献や輸送時のCO2削減にも寄与しています。最近ではIT機器のリプレース時にコンテナを取り外すのではなく、コンテナ内のサーバラックをすべて出してサーバ工場へ持ち込み、サーバ工場でサーバラック内に機器を搭載して、再度コンテナ内に搬入設置する形態もとっています。
IZmo(イズモ)は直接外気冷却方式を採用し、外気の温度、湿度に応じて3つのモードを自動的に切り替え、ITモジュール内部のサーバの吸い込み口の温度を、Ashrae(米国暖房冷凍空調学会)が2008年に定めた推奨温湿度条件になるように制御しています。
co-IZmo/I(コイズモアイ)は間接外気冷却方式を採用しました。直接外気冷却とは違い、外気を直接コンテナ内に入れず、熱交換器を介して間接的に内部の熱を外部に排気することにより、外気の条件が良くない場所でも利用が可能になり、海外に輸出した実績もあります(図-5)。
理論的には直接外気のIZmoの方が間接外気のco-IZmo/Iより効率は良い(pPUE値が低い)のですが、co-IZmo/Iは制御のチューニングなどにより、図-6のようにIZmoと同等のpPUE で運用されています。
サイト2では給電方式として、国内のデータセンターでは先駆けて三相4線式UPSを導入しました(図-7)。三相4線は、三相交流の3線に接地されたN相(中性相)を加えたものとなり、変圧器の中性点からN相を引き出し、電圧線の3線と中性線との4 線で送電する方式です。単相交流より効率が良く、電流が小さくなり、高電圧(低電流)での送電により電線サイズを小さくすることができ、国内でも工場などで多く採用されています。無停電電源装置(UPS)からの400Vの3線のうち、1線とN相を取り出すことで230Vの電圧も変圧器なしで取り出すことができます。100Vが不要な海外のデータセンターでは一般的ですが、日本は100Vのニーズが多いため、これまでは三相3線式のUPSに変圧器を設置し400Vから100Vに変圧していました。サーバは100Vから230Vのいずれの電圧でも稼働するため、クラウド基盤用のサーバを大量に利用するIIJでは、変圧器が不要となる三相4線方式を選択しました。
また、電線サイズを小さくするということは、電力は電力[W] =電流[A]×電圧[V]で表すため、同じ負荷容量[W]であれば、電圧[V]が高いほど電流[A]を低減させることができます。そのため、電線で流すことのできる電流の上限値を指す絶縁被覆の種類と、電線のサイズ[mm2]ごとに規定電流値が少なくなると、より許容電流の低い電線が採用でき、許容電流の低い電線は直径も細くなるため、投資コストの削減につながります。更に、電流が小さいほど電圧降下が小さくなる三相3線と比較しても、三相4線は電圧降下しにくく、電圧降下の低減につながります。松江DCPでは、無停電電源装置(UPS)の出力からサーバの入力の間で送電電流の低減、変圧器なしによる損失低減を実現しており、理論値として約25%の損失を低減できます。
環境活動への取り組みとして、ISO 14001(環境マネジメントシステム:EMS Environmental Management Systems) や、省エネ法規制の対応なども活動しています。
松江DCPではISO 14001を2013年度に認証取得して活動しています。毎年環境活動目標を設定し、過去にはペーパーレス化や、館内やオペレーションルーム室内空調の温度設定の見直し、pPUEを毎年0.01削減など様々な環境目標に取り組んでいます。電力の利用効率化もありますが、EMSでは環境への関わりとして、火災による生活や生態系として大気汚染による環境への影響、非常用発電設備からの燃料漏れによって生じる土壌汚染による影響といったリスクにも対応を要します。そのため、火災、地震及び設備事故などの緊急事態の対応としてマニュアルを整備し、日頃から対応訓練や、環境マネジメントとしての教育研修、環境に関わる法令の順守状況の評価などを実施しています。松江DCPは自然災害や地震が比較的少ない地域ではありますが、日頃からの訓練や教育を通じて環境への意識を高めることに努めています。
環境エネルギーやCO2排出の観点から省エネ法規制に則り、サイト1開所当初の2011年からエネルギー使用量をまとめ定期報告としてきましたが、2013年度にエネルギー使用量(原油換算)が1,500kl/年度を超えたことから、第二種エネルギー管理指定工場としても省エネルギー化に取り組んでいます。エネルギー管理員を選任すると共に中期計画を策定し、毎年のエネルギー使用状況に応じたエネルギー削減施策の実行とその評価を行っています。多くの空調機器を保有していることから、フロン排出抑制法に即してフロンガスの漏えい量算定や、点検などによる漏えいとその原因を明確にする活動も行っています。
電力使用量は年々増加傾向にあるため、更なる省エネルギー化やCO2の排出削減が松江DCPにおいてもますます重要な課題となってきています。エネルギー使用量の削減や、再生可能エネルギーの活用と設備の導入など、環境に関する取り組みにいっそう注力していきます。
2019年5月1日(令和元年初日)、白井データセンターキャンパス(以下、白井DCC)を千葉県白井市に開設しました(図-8)。白井DCCは、5G、IoT、AI、クラウドサービスなどで爆発的に増大するデータセンター需要の拡大に対応するための大規模データセンターで、IIJが今までのデータセンター運用で生じた課題を解決するために開発や評価してきたデータセンター技術、ノウハウを結集し、更に新技術を積極的に導入する「システムモジュール型データセンター」です。
白井DCCは、松江DCPで成功したことを踏襲し、ぶつかった壁や課題の克服に挑戦することを目指して設計しています。エネルギー利用の面でいえば、サーバ室のモジュールの考え方、直接外気空調システム、三相4線式UPS/バスダクト送電技術を踏襲し、白井DCC全体の年間平均PUE1.2未満の実現、電力システムの活用シーン拡大に挑戦しています。
白井DCCは、新しいモジュール型データセンターとして、松江DCPの運用実績やコンテナ型データセンター開発で培ったノウハウをフロア規模(数百ラック程度)に応用し、より大規模なニーズに対応できるシステムモジュールを採用しています。建物の鉄骨や外壁といった部材の形状・配置を標準化したシステム建築を採用し、高品質で短工期、低コストで構築しています(1期棟実績工期:着工から、上棟まで約4ヵ月、竣工まで約8ヵ月)。システムモジュール内の構成要素である電気システム、空調システム、サーバラックをモジュール化し、サーバ室ごとに設備の増設、更新を可能としています。
このシステムモジュールは、大量のラックを設置する白井DCCの空調システムの省エネルギー化を実現するために重要な要素でもあり、大空間・大開口・大スパンを確保することにより、煙突効果を利用した、壁吹き出し型の直接外気冷却方式空調を実現しました。
松江DCP及びコンテナ型データセンターIZmoで商用利用した直接外気空調システムは、年間の室外機電力を大幅に削減し、松江DCPの年間平均PUEは1.237、コンテナ単体の年間平均pPUEは1.18を実現しました。しかし、1年を通してコールドエリアに冷気を送風するファンは必要となり、この送風ファン電力が空調システムの省エネルギーの次の課題でした。課題解決を目的として、2012年に煙突効果(煙突内外の温度差により煙突内に上昇流が発生する現象)を活用してサーバを冷却できるか実証実験(図-9)を行いました。実現できれば、送風ファン電力を大幅に削減でき、PUEを1.0に近づけることが可能となり、更にIT機器内蔵ファンも削減できれば、データセンター全体の消費電力の更なる低減が期待できると考えました。
煙突の設置環境(天候・外気温湿度/風速など)の影響に左右されたものの、実証において、煙突の高さ・負荷容量によってほぼ比例的に風量が多くなることを確認しました(図-10)。この結果、複数のラックを1つのモジュールとして、複数のモジュールを部屋の中に配備し、部屋の側面から外気を取り入れ、モジュールから排出される空気を建物の上部から排気する機構とすることで、空調システムの送風ファンの補助ができることを確認しました。白井DCCは本実証結果を設計に取り込み、システムモジュールのレイアウト、直接外気空調システムに採用しています。
白井DCCは、サーバ室と空調機械室との間仕切壁から直接サーバ室内に冷気を供給する壁吹出し方式(IDC-SFLOW:高砂熱学工業株式会社の商標)を採用しています(図-11)。
ビル型データセンターに多い床吹出し方式は、給気風路としてフリーアクセスの下部を利用していますが、その空間は小さく、サーバ室への開口(フリーアクセスガラリ)からの風速は大きくなります。また、通信、電気のケーブル配線空間を兼ね備えている設計となっており、給気風路の抵抗が増えて圧力損失が大きくなります。圧力損失が大きいと、空調のエネルギーが必要となるため送風ファン電力が大きくなります。白井DCCの壁吹出し空調は、システムモジュールの特徴である大空間・大開口・大スパンを給気風路として利用しており、吹出し口の開口を可能な限り大きく設計して、サーバ室に送風することで給気風路の抵抗を減らして圧力損失を最小化し、白井DCCの設計電力である平均6kW/ラックのサーバの発熱の冷却に必要な風量を、吹出し口から面風速を約2m/sの低速でサーバ室に送風しています。その結果、空調システムの送風ファン電力の大幅な削減(約3分の1)を実現しました。また低速の風は、サーバ室内で作業環境を向上させて、作業者のストレスを大きく低減できます。
白井DCCは、システムモジュールと一体化した直接外気冷却方式を採用しています。外気は、システムモジュール側面の軒天部の吸気口から中性能フィルターを介して空調機械室に取り込み、サーバの廃熱と混合して設定の温湿度にしてサーバ室に給気しています。また軒天部から吸気した外気と同じ量のサーバ廃熱を、建物上部の排気口から排気しています。
図-12は2012年に作成した大規模データセンターの基本計画で、社内でも当時はこんなものが本当にできるのか懐疑的でしたが、松江DCPで培ったノウハウをベースに設計された直接外気冷却方式や煙突効果などの技術実証をベースに、ほぼ10年の時を経て図-13にある現在の白井DCCとして結実したのです。
白井DCCでは、AIを活用し、空調機器だけでなくIT機器のパラメータの中から最適な組み合わせを抽出して、省エネ、省コスト、省CO2を指標に空調システムの運転条件の最適化に取り組んでいます。
松江で商用利用していた「IZmo」の空調システムは、冬期・中間期は直接外気空調システムですが、夏期は外気を遮断し室外機を動作させて冷却/除湿する方式(循環運転モード)を採っており、夏期における省エネ効果は、他の期間と比べて悪い結果(冬期/中間期 pPUE=1.095 夏期 pPUE=1.331)でした。それらの課題を解決するため、夏期に室外機・チラーなどを動作させず、通年で外気冷却をした場合のデータセンターの健全性・正常性を評価(2012年チラーレス実証実験)しました。また、松江サイト2がサービスインした2013年には、通年外気空調システムを用いた新しいコンテナ型データセンターモジュール「co-IZmo/D」の実証機を開発し、各種実証実験を開始しました(図-14)。「co-IZmo/D」は、20フィートISO規格コンテナに室外機・加湿器を使用しない空調機能とIT機器をモジュールとして一体化させたコンテナ型データセンターで、実証実験の1つとして、大手IT機器ベンダーと協力して、夏期及び冬期におけるオール外気空調下でのIT機器の特性を評価する「2013年 IT 機器適応試験」を実施し、通年外気冷却環境のIT機器の健全性・正常性を評価しました。
最大吸込み温度として35℃/40℃を保証しているIT機器で実証しましたが、45℃の高温環境においてCPU処理量の低下なしなどIT機器としての機能は正常に動作していました。しかしながら、高湿度環境においてIT機器の基板の劣化が顕著に確認できました。本実証の結論は、IT機器の動作環境として高湿度の継続は、製品寿命の短縮や故障率の上昇につながるというものでした。また本実証で、IT機器の内蔵ファンの回転数特性がIT機器メーカの設計によってバラバラであることが判明しました(図-15)。ファシリティの観点では、サーバ室の温度を1℃ 上げると空調システムは省エネルギーとなります。しかしながら、データセンターに何千何万あるIT機器は、サーバ室の温度上昇に伴い各々の独自性で動作し、その消費電力も変動することから、単純にサーバ室の温度を高くするだけでなく、個々のIT機器の特性を理解してIT機器とファシリティの双方にとって最適に稼動する制御を取り入れることが、データセンターの品質維持と真の省エネルギーを達成できると判断しました。
白井DCCは、チラーレス実証実験、IT機器適応試験などの過去の実証の経験から、データセンターの主要要素であるIT機器と空調システムの消費電力の合計が最小となるAI空調制御を採用しています。IT機器の型式、電流値(定格)、温度別電流値(実測:白井DCC実証環境で計測)などの特性をデータベース登録した上で、運用中のサーバ室温度、IT機器の実測電流値、処理熱量などの計測情報を解析し、ラック単位の特性を推察(ルールベース構築)しています。同様に、空調システムも運転条件、パラメータなどを基に特性を推察し、ルールエンジンによりIT機器消費電力と空調システムの消費電力の合計が最小になる運転設定値を推論し、空調システム運転条件最適化処理を行っています。
松江で培った直接外気空調システムを、大空間・大開口・大スパンで圧力損失を最小化したシステムモジュールに実装しAI制御と連携させ、更に今後も新技術を積極的に導入することで、将来は年間平均PUE1.2未満達成を実現しようと考えています。
松江DCPから、外気空調やCOPの高い空調機器を積極的に導入したり、高効率のIT機器を採用したりすることで省エネルギーを推進してきました。データセンターの省エネルギーは、常に空調システムとIT機器が主役でした。しかしデータセンターにおける最重要構成要素に電力システムがあります。次の主役は電力システムと考え、松江DCPサイト2で三相4線式UPS+バスダクトを採用し、その後も「電力予測と電力ピークカット制御のソフトウェアの評価」、「燃料電池、PV、直流UPS の選択給電の仕組みの製作と評価」などを継続してきました。
また、白井DCCの設計前には「夏季利用・ピーク利用など、採算性の高い発電システム」、「今後の技術動向を踏まえた高効率を実現する電気・電力システム」のテーマで、主にリチウムイオン蓄電池について調査してきました。その結果、白井DCCは、蓄電池の運転制御機能を持つ米テスラ社製の産業用リチウムイオン蓄電池Powerpackを採用し、2019年11月に導入しています(図-16)。Powerpackは、当初より導入予定であった空調システム向けのバックアップ電源の鉛蓄電池UPSから置き換えることで、鉛蓄電池UPSと同等水準のコストで、ピークカット制御という機能追加を実現しています。Powerpackで、夏期の日中帯にピーク電力が発生するデータセンター受電電力のピークカット/ピークシフトが実現でき、デマンド電力の低減による基本料金の削減効果、オフピーク時の電力利用により割安価格で電気が購入できることにより電力量料金の削減効果が実現できます(図-17)。
従来は、UPSや非常用発電機などの電力システムは高品質を担保した裏方の役割でした。白井DCCでは、データセンターのエネルギーリソースとして積極的に活用シーンを拡大させて、IIJ 発信の新しいビジネスモデルとして取り組んでいきます。
製造業は工場から製品を作る際に排出するCO2を、運送業はトラックから排出されるCO2を削減していくことが求められますが、IIJが排出するCO2の90%以上がデータセンターで消費される電力に由来していることから、電力の省エネ化、再エネ化がIIJ全体のカーボンニュートラル化に直結します。
前項で説明した松江DCPや白井DCCで導入されている省エネ技術を、今後も継続的に改善することによって省エネ化を進めていきます。一方で、取り組み始めてまもない再エネ化は、早期に実現可能な方法の1つとして、電力小売会社から再エネの利用を証明する非化石証書が付いた電力を供給してもらう契約に切り替えることから始める予定です。ただし、通常の電力よりも割高になりますし、長期的に安定した価格で供給される保証がないというデメリットがあります。そこで、再生可能エネルギーの発電コストは年々下がっていることもあり、再エネ発電所から直接電力を買ったり、発電所を保有することが、次のステップになると考えられます。
再エネの発電コストが下がっているといっても、太陽光発電(PV)以外の風力、バイオマスなどの発電は、電力会社から買う通常の電力よりもまだ割高ですし、発電所を建設しようとしても用地の確保含め時間がかかることから、中長期的な時間軸で導入することが現実的で、短期的には太陽光発電を中心とした電力を供給する仕組みを構築する必要があります。
このような状況を踏まえ、IIJでは、カーボンニュートラルの実現に向け、表-1の特徴を持つカーボンニュートラルデータセンターリファレンスモデルとして定義し、データセンターの改修、新設を進めていく方針です。
第1の特徴として、可能な限り省エネ技術を導入し、電力消費の絶対量を減らします。
第2の特徴は、通常の電気料金よりも安いコストで発電できるようになってきたオンサイト(敷地内)太陽光発電設備をできるだけ多く設置することです。表-2にあるように、データセンターは大量のIT機器を集約しているため、床面積当たりの消費電力はオフィスビルなど(50~100W/m2程度と言われています)の数十倍にもなり、消費電力の絶対量も多く、PVの発電量だけではデータセンター全体の需要を賄うには足りませんが、倉庫のような建物構造にして、設置場所である屋根をできるだけ大きくすれば、コストの安いオンサイトPVの発電量を増やすことができます。
第3の特徴は、オフサイト(敷地外で電力会社の送電網を介して給電を受ける)に発電設備を設置することです。表-3のとおり、オフサイトPVは、オンサイトPVに比べればコストは高くなりますが、必要な電力量を確保するにはオフサイトPVの量を増やすことが現実的な選択肢になります。
このオフサイトPVは、表-4のように、送電網と接続する電圧の大きさで3種類に分類することができます。数十MW規模のデータセンターで必要な電力を確保するには、規模の大きな特別高圧のPVから供給を受けるのが効率的ですが、広大な土地の確保や、電力会社との接続条件の調整などで建設期間が長くなる傾向があります。高圧や低圧は建設期間が短いですが、例えば50MWの特別高圧PVと同じ量を発電しようとすると、50KWの低圧PVは1000か所必要になります。オフサイトPV は、必要になる電力の量と時期から、特別高圧・高圧・低圧を組み合わせて調達する必要があると考えています。
蓄電は、カーボンニュートラルデータセンターに必要な第4の特徴です。オフサイトのPVが増え、図-18のように、昼間PVからの供給電力が消費電力をオーバーした場合に蓄電し、夜間に利用する機能が必要になります。これにより夜間も再エネを利用することができるようになりますが、まだ蓄電池のコストが高く、本格的導入に向けた課題となっています。
第5の特徴は、発電設備、データセンター間の計測/制御ができるネットワーク機能を備えることです。これにより、需要と供給のバランスを取り送電網を安定的に運用することができます。
第6の特徴は、IT負荷制御により、例えば電力の足りない夜はサーバを止めて昼間だけ動かすような制御をし、電力が余る時間に負荷を寄せることです。一般に情報システムは24時間止めることはできませんが、一定の期間内に処理できればよいデータ分析や、コストが安いことが求められるマイニングのように、許容される新しいユースケースが増えてくると考えられます。
図-19は、これらの特徴を備えたカーボンニュートラルデータセンターのイメージです。データセンターに求められる信頼性などの品質を維持しながらカーボンニュートラルを実現するために、電力を供給する発電設備とそれを消費するデータセンターが有機的に結合した新しいモデルを創り出すことが必要です。今のところは方向性を示す概念的なモデルに留まっていますが、今後はビジネスや技術の両面から、技術実証や社外のパートナーの協力を得ながらディテールを詰め、自社データセンターの改修、新築に適用していく予定です。
IIJはこれまでも自社で培った技術を用い、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)様のJCM(二国間クレジット制度)を活用した温室効果ガス削減を目的とした実証事業に参加し、ラオスの首都ビエンチャンに省エネ性の高いコンテナ型データセンターの構築・運用を支援する対外的な取り組みなども行ってきました。
カーボンニュートラルに至る道のりは長く厳しいものになると考えられますが、IoTやモバイル含めたインターネット技術を活用しながら技術実証と実装を行い、そこで得られた知見を社内で利用するだけでなく、適用領域を社外にも広げることで、データセンター、ひいては社会全体のカーボンニュートラルの実現に貢献していきます。
執筆者プロフィール
久保 力(くぼ いさお)
IIJ 基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部長。
2008年にIIJに入社。データセンター事業を統括し、松江DCP、白井DCCを構築。早期のカーボンニュートラル実現を目指す。
3.2 松江データセンターパークの実績
狩野 義昌(かのう よしまさ)
IIJ 基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部 松江データセンターパーク センター長。
2016年にIIJに入社。コンテナ型データセンターの運用と次世代モジュール型データセンターの実証実験に従事。
3.3 白井データセンターキャンパスの取り組み
橋本 明大(はしもと あきお)
IIJ 基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部 副部長。
IIJ 基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部 白井データセンターキャンパス センター長。
2009年にIIJに入社。次世代データセンターの検討・設計・構築・運用をしながら、データセンター運用の自動化・効率化を積極的に推進。
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