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2023年最後の「IIR Vol.61」では、この1年を振り返ってみたいと思います。
今年、インターネットあるいはIT全般で大きな話題になったのは、間違いなく生成AIの台頭でしょう。生成AIの進化と社会への浸透は非常に速く、大きな可能性を感じると同時に、ある種の恐怖を覚えることも多々あります。AIという技術を正しく利活用する上での倫理やガバナンスが今後、ますます重要になることは間違いありません。
ガバナンスという点では、18回目のIGFが日本で開催されました。ここでもAIが取り上げられましたが、マルチステークホルダーとして178カ国から約1万人が参加し、インターネットの分断、サイバーセキュリティなど幅広いテーマに関して議論が行われました。
社会インフラとなったインターネットは、経済安全保障とも無縁ではいられません。我が国でも2024年に経済安全保障推進法が制定され、施行に向けた準備が進められています。電気通信分野は安全保障上、重要な基幹インフラ役務として位置付けられています。
「IIR」は、IIJで研究・開発している幅広い技術を紹介しており、日々のサービス運用から得られる各種データをまとめた「定期観測レポート」と、特定テーマを掘り下げた「フォーカス・リサーチ」から構成されます。
1章の「定期観測レポート」は、「IIJインフラから見たインターネットの傾向」について説明します。ここでは、BGP・経路数、DNSクエリ解析、IPv6トラフィックに関して、IIJの設備で観測できる統計を毎年取得し、傾向を分析していますが、いずれの統計においても、IPv6の普及が順調に進んでいることが数字に表れています。IPv6の推進力の一因となっているスマートデバイスのIPv6対応については、米国メーカのIPv6有効化率が高いことが非常に印象的です。
2章の「フォーカス・リサーチ」では、「SIMの最新動向~ハードウェアプロファイルからソフトウェアプロファイルへの進化~」と題して、あらためて携帯電話で使われるSIM(Subscriber Identity Module)を取り上げました。GSM規格とともにSIMカードが誕生した背景、SIMカードの小型化の歴史、物理的なSIMカードがeSIMのように仮想的に取り扱えるようになった経緯などを振り返っています。それを受けて、IIJが開発したソリューションや今後の規格の展望についても紹介しています。
3章の「フォーカス・リサーチ」では、IIJの30周年特別コンテンツとして、セキュリティを取り上げました。IIJは、インターネットを利用するにあたり、攻撃に対する備えを重要視し、インターネット接続サービスを開始した直後からファイアウォールによる防御をサービスとして提供しています。IIJのセキュリティ事業は、セキュリティ専業ではなく、インターネットを運用している事業者によるセキュリティ事業という点が、他のセキュリティ事業者と大きく異なります。そのようなIIJがこの30年間、インターネットのセキュリティに対してどのように考え、どのように取り組んできたかを紹介します。
IIJは、このような活動を通してインターネットの安定性を維持しながら、日々、改善・発展させていく努力を行っています。今後も企業活動のインフラとして最大限にご活用いただけるよう、様々なサービスやソリューションを提供し続けてまいります。
執筆者プロフィール
島上 純一 (しまがみ じゅんいち)
IIJ 常務取締役 CTO。インターネットに魅かれて、1996年9月にIIJ入社。IIJが主導したアジア域内ネットワークA-BoneやIIJのバックボーンネットワークの設計、構築に従事した後、IIJのネットワークサービスを統括。2015年よりCTOとしてネットワーク、クラウド、セキュリティなど技術全般を統括。2017年4月にテレコムサービス協会MVNO委員会の委員長に就任し、2023年5月に退任。2021年6月より同協会の副会長に就任。
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