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2012年9月25日
IPv6が設計されてから早二十年、先の見えなかったIPv6普及も少しずつ前進しはじめたようです。もちろん、IPv6が普及したからといってIPv4が一夜にしてなくなってしまうわけではなく、これから長い間IPv4とIPv6が共存するインターネットが運用されていくことは間違いありません。一般の利用者がIPv4を使わなくなる時期は相当先になるでしょう。IPv6化が最も早く進むのは、IPv4利用者と直接対話する必要のない機材群、例えばデータセンターのバックエンド計算資源などだと考えられます。ここでは、そういったIPv6特化型データセンターでIPv4互換性を提供するために設計されたソフトウェア「map646」を紹介します。
IPv4-IPv6パケット変換は、何も最新の技術というわけではなく、IPv6が設計された頃から提案されてきた技術です。近年ではNAT64[RFC6146]やDNS64[RFC6147]という名称で議論が継続しています。元々これらの技術は、IPv6の普及に伴って増えていくIPv6 onlyノードが、限られたIPv4アドレスを共有しながらIPv4 onlyノードと通信するために考案されました。よって、共有IPv4アドレスがどのIPv6 onlyノードで利用されているのか、その状態を管理する必要があります。これは、大規模化や冗長性を実現する場合に問題となります。データセンター規模でIPv4-IPv6パケット変換サービスを提供する場合、サービスの規模拡張性と冗長性の確保が重要な要素です。
本記事で提唱するIPv6特化型データセンターでは、次の条件を設けることで、上記の問題を回避しています。
大規模サービスを実装するとき、利用者と対話する必要があるノードの数は限られており、それらのノードの主な役割は利用者からの要求を多数のバックエンドノードに振り分けることである、という想定です。この条件のおかげで、IPv4アドレスを少数のデータセンターフロントエンドノードのIPv6アドレスに1対1で固定的に対応づけることができるようになります。一種の割り切りともいえる機能集中によって、パケット変換機の状態管理が不要となり、ネットワークの負荷に応じて変換機を自在に増やすことができるようになります。また、状態を持たないため、どこかの変換機に障害が発生しても、自動的に他の変換機が以後の通信を肩代わりすることができます。以下にIPv6特化型データセンターでのパケット変換システムの概要を示します。
この技術はWIDEプロジェクトとの共同研究の枠組みで実験運用しており、www.wide.ad.jpなどのサーバがIPv4-IPv6変換機経由で提供されています。現状、変換機は東阪に一台ずつ設置してあり、冗長性を確保するとともに変換トラフィックの負荷を分散しています。
変換ソフトウェアはmap646という名称で公開しています[map646]。サポートしている変換対象上位プロトコルはTCP、UDP、ICMPv4、ICMPv6です。IPv4オプションとフラグメントヘッダを除くIPv6拡張ヘッダはサポートされません。ICMPについては、変換機が状態を持たない範囲に変換対象を絞ってあります。具体的にはフラグメント化されたICMPパケットは変換機での状態管理が必要となるためサポートされません。またサポートしているICMPタイプにも制限があるので、詳しくはソースコードと論文[SHIMA2012]を参照してもらえればと思います。
今後、実装の安定化を進め、実験運用を通じて将来のデータセンター設計に向けた知見を蓄積していく予定です。
参考文献
執筆者プロフィール
島 慶一(しま けいいち)
株式会社IIJイノベーションインスティテュート 技術研究所
Internetに魅了されて二十余年、IPv6の輝かしい未来に夢を見つつ過ごした学生時代も遠い昔のことになりました。5年間のメーカー勤務を経てInternetの世界に舞い戻り、IPv6、Mobile IPv6、NEMO技術の研究開発に従事、最近はクラウドストレージ、広域データセンター、本当に使えるアドホック無線技術などに興味を持って活動しています。
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