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2010年12月15日
今や社会インフラとして欠かせないインターネットには、高い品質と高い信頼性が求められています。ここではネットワークをより安定させるための技術とIIJの取り組みについて紹介します。
インターネットにおける経路制御では、障害時に通信が自動的に迂回できるようにBGP(Border Gateway Protocol)やOSPF(Open Shortest Path First)などのダイナミックルーティング(動的経路制御)が利用されています。ダイナミックルーティングでは、ネットワークの変化がルーティング情報としてネットワーク全体に伝搬され、それを受け取ったルータそれぞれが独自にルーティングテーブルを生成することで、ネットワーク全体で矛盾なく正常に通信できる状態を維持しています。この一連の動作による状態変化が収束(コンバージェンス)することをルーティングコンバージェンスと呼び、コンバージェンスに至るまでの時間(コンバージェンスタイム)がネットワークの品質性能を測るひとつの要素となっています。
コンバージェンスに至るまでの状態変化は、大きく分けて以下のようなフェーズにわかれています。
インターネットでは、メンテナンスや障害によって頻繁に状態変化が発生しています。状態変化が発生すると、コンバージェンスに至るまでの間、ルータ間でルーティングテーブルに矛盾が発生し、パケットロスが発生する可能性でてきます。ネットワークが大規模になればなるほどコンバージェンスタイムが大きくなりやすく、コンバージェンス性能がネットワーク品質にあたえる影響は大きくなります。よって、より安定した高品質なネットワークをつくる上で、ルーティングコンバージェンスを高速化させることが非常に重要になります。
IIJでは、2003年ごろからコンバージェンス性能を計測し、ネットワークの品質が向上するよう改善を重ねてきました。その結果、バックボーンメンテナンス時のコンバージェンスタイム1秒未満を実現しています。これまでのIIJの取り組みをいくつかご紹介します。
フェーズそれぞれにおいて様々な設定パラメータが存在しますが、「2.ルーティングプロトコルへの注入」「3.ルーティング情報の伝搬」「4.ルーティングの計算」では、ルータの性能に合わせてタイマーを短くすることで、コンバージェンスの高速化を図ることができます。特に「4.ルーティングの計算」はCPU依存度が大きいため、より高性能なルータを利用することで簡単に効果を出すことができます。
IIJでは、より高性能なルータを常に導入し、タイマーチューニングすることで、コンバージェンスの高速化を継続的に進めています。特に、トラフィックの集まるコアルータに最新の機器を導入することで、より効果的な改善を図っています。
タイマーを短くすることで、不安定になってしまう設定パラメータも存在します。コンバージェンス性能を向上するために、ネットワークを不安定にしてしまうのでは意味がありません。特に、「1.イベント検知」では、安定性に大きな影響を及ぼす恐れがあります。イベント検知では、KeepAliveによる検知が利用されていますが、タイムアウトを早くすれば敏感になり遅くすれば鈍感になるため、適切なKeepAliveにチューニングするのが非常に難しいパラメータです。ネットワーク構成にもよりますが、全体のバランスを考慮することが重要になります。
IIJでは、バックボーン回線に同期式回線(Serial,SONET/SDH等)を利用することで、Alarmによるイベント検知を行い、KeepAliveを限界まで短くすることなく、バランスのとれたコンバージェンスの高速化を実現しています。また、ルータ間からL2機器(スイッチ等)をできるだけ排除しPoint-to-Pointで構成することで、KeepAliveに頼るシチュエーションを減らし、Neighbor Down等、イベント検知までの平均時間が短くなるように工夫しています。よりシンプルなルーティングトポロジーを構築することによって、高性能なだけでなく、運用しやすくすることでミスを減らし、より高品質なネットワークを構築しています。
執筆者プロフィール
浅野 善男(あさの よしお)
IIJ サービス本部 ネットワークサービス部 技術開発課
2000年4月、IIJに新卒入社。入社後から一貫して、IIJのバックボーンネットワーク及びインターネット接続サービス全般の設備に係る、設計・構築・運用業務に従事する。現在は、コアネットワークの設計や使用機種の選定などにも携わり、中心的な役割を果たしている。
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