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コラム|Column

オンラインショッピングから工事まで、すべてが迅速な中国のサービス

中国ビジネスは「スピード感がある」「このスピード感についていけないとビジネスにならない」と評される。企業間にしても対個人にしてもそうで、サービスのスピードに満足しなければすぐに顧客は離れてしまう。

中国における日々の生活の中で見られる日本よりスピード感の早いサービスを具体的に挙げていこう。

中国人同士のネットでの連絡はチャットであり、メールではない。チャットサービスといえば、普段は騰訊(Tencent)の「QQ」や「微信(Wechat)」を利用するほか、阿里巴巴(アリババ)グループのオンラインショッピングサイトの「淘宝網(Taobao)」や「天猫(Tmall)」では、「阿里旺旺」というチャットサービスを利用して、店員と交渉する。

たとえば日本では楽天やAmazonマーケットプレイスなどで、店舗に連絡したいときはメールを送って待つだろう。一方中国の生き残る店舗では、連絡要員を数人用意し、そのうち誰かが昼夜問わずいて、客からの連絡に即座に応える。中国人から言わせれば、メールを投げて数時間後、ないしは翌日にメールが返信されることなど、遅すぎてありえないという。オンラインショップを運営するオフィスでは、チャットの着信音のほか、電話の着信音も頻繁に鳴り響く。商品に関しての相談をいち早くして解決したいという気持ちがあるのだ。

オンラインショッピングが普及した結果、宅配業界も一気に成長し、今年中国は世界一の宅配市場となった。複数の宅配業者が登場し、安く、そして対応と配送が早い業者のみが生き残った。記憶に新しいiPhone6の発売日の長蛇の列。中国向けの発売日なんて待てず、なるべく早く入手したいという中国国内のニーズが生んだものだ。運び屋も当日の中国行の航空便でiPhoneを抱え、特急便で運んだ。

注文を受けた時間を確認するウエイトレス

ショッピングはオンラインだけが迅速なのではない。例えばピザハットなどのピザ屋だけでなく、ケンタッキーフライドチキンなどのファストフードでも、大都市においては宅配サービスがある。また大規模マンションの下にある商店や食堂では、電話ひとつで店員が商品や弁当を届けてくれる。地元民に人気の食堂の中には、迅速に注文の料理を用意すべく、伝票にオーダーした時間を書き込む店もある。待ち時間が我慢の限度を超えたので、激高し店員に当たり散らして別の店に移動する客を今まで何度となく見てきた。最近日本でも取扱う会社が増えた、ウォーターサーバーの水タンクについても、電話で注文すれば日本よりも迅速に担当者が運んできてくれる。

エアコンなどの電気工事が必要な製品を購入しよう。まずいわずもがな配達は迅速だ。加えて電気工事を行うのに、日本であれば工事の予約を入れる必要があるが、中国は工事担当者がやはり迅速にやってくる。中国人にとって2,3日工事を待つことはできるが、日本でありがちな「工事は2週間後」は耐え難い。ならばと自分で配線をし、エアコンをセッティングしてしまう、工事業者を呼ぶのも面倒なDIY好きな人もいる。エアコンが出たついで、オフィスや家庭のリフォームについても書くと、やはり日本は中国に比べてオーダーしてから工事するまでの待ち時間が非常に長いと感じる。

「オンデマンドの国」中国と、「予約の国」日本

工事といえばADSLやFTTHなどのブロードバンドの工事も迅速だ。もともと中国での工事は、日本での工事よりも早かったが、キャリアショップで契約すれば、契約したその日のうちに使えることをアピールする広告も出てきた。ブロードバンド環境ですらオンデマンドという状況となった。

電気工事は辛うじて「予約」というかたちをとるが、それでも2,3日である。予約があるのは、身近なところでは印刷屋での依頼もしかり。日本では町の印刷屋で2週間後の納品という依頼を、中国の印刷屋では2、3日で納品する。単なる印刷なので、依頼した印刷物のクオリティについて問題はない。

そもそも予約というのは、中国人からみれば実に日本的だという。美容院も予約が必要だが、中国では美容師の技術レベルごとにカットやパーマなどの値段が設定されていて、行きたいときに予約せずにいつでも利用できる。中国では昨年末から大都市で普及しはじめた「タクシー配車アプリ」も予約行為を行う新サービスではあるが、結果的に素早く確実にタクシーに乗れるということで、せっかちな中国人に受け入れられた。

2013年から話題になっている
タクシー配車サービス

中国人は正規版コンテンツの存在を知らないまま、海賊版を利用し始めた。特にビデオや音楽を扱う海賊版ショップは住宅地の商店街に当たり前のようにあり、生活空間に溶け込んでいる。結果的に海賊版は正規版より劇的に値段が安いから利用しているが、今回のテーマで見れば、オンデマンドで視聴したいときに視聴できるからこそ人気が出たとも解釈できる。現にセットトップボックスは一気にヘビーインターネットユーザーの間で浸透したし、スマートテレビは現在普及の真っただ中だ。

さてこのように、せっかちな中国人はオンデマンドのニーズがあり、それに応える日本より迅速なサービスが無数にある。こんな環境に育った人たちが、こんな環境に育った人たちのために、オンデマンドのサービスを創ろうとするのだから、予約の国ニッポンの人々がスピードも大事なビジネスで中国市場に参入するとあらば、これは大変難しい勝負といえる。

振り返るに、貧しくてモノが充実していなかった昔から、スピーディーなサービスへのニーズが高かったように思う。例えば今も農村部で残る習慣だが、バス路線が充実していない場所には、安価な白タクが蔓延している。バスが来るまで待つという人は変わり者だ。

ブロードバンドは値段や回線速度だけでなく、
設置スピードの速さでも訴える

別の機会に詳しく書こうと思うが、今中国のインターネット環境は非常におかしなことになっているが、実は2000年以前のインターネット黎明期から、程度や技術力の差こそあれ、今と対して状況は変わらなかったことが、様々な当時の文献を読んでいくと分かっていく。「インターネット環境が変わっていくうちに、中国人がアグレッシブになり、中国的なインターネットに変わっていった」というよりは、「中国的なインターネットの柱があって、時代とともに環境が成長していく」というほうが正しい。

同様に「せっかちな中国人向けの素早いサービス」も、昔から変わらない習慣だからこそ、今も脈々とニーズは続き、スピード重視の新サービスが登場していると考える。だからこそ未来も中国人の行動パターンはそう変わらないだろう。

山谷 剛史

1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。
現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすくをモットーとし、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。2002年より中国雲南省昆明を拠点とし、現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。