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コラム|Column

【海外識者シリーズ】経営学者 寺本義也氏(全6回)

第1回 ASEAN経済共同体を前に日系企業はどう動くべきか

2015/08/14

グローバル経営論の第一線で輝き続ける寺本義也氏

『失敗の本質』という本を読んだり聞いたことがある、というビジネスマンは多いでしょう。正式名称は、『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫)。歴史研究と組織論を組み合わせた学際的研究書です。初版は1984年。しかし30年経ってもその内容は色褪せず、常に「読むべきビジネス書」にランクイン。ビジネスシーンに今でも強い影響力を持ち続けています。その共同執筆者の一人が寺本義也氏です。早稲田大学など一流大学の教授を歴任した経営学者で、専門は、グローバル・ナレッジメント、経営組織論、知的人材開発論。企業組織や人材開発に関する多くの著書は、日本企業のマネジメントに大きな影響を与えています。またそのチャーミングな人柄に引き寄せられる人も後を絶ちません。

その寺本氏の近著に、東南アジアを題材にした『東南アジアにおける日系企業の現地法人マネジメント』(一般財団法人海外投融資情報財団)があります。寺本氏は、「経営学の対象として先進国のグローバル経営が大きな関心事でした。最近はグローバル経営を巡って、東南アジアや新興国で新しい動きが起こっています」と2015年末のASEAN経済共同体発足を目前に控える、東南アジアの新たな動きに注目。本書では、成功先進企業のケーススタディを紹介しながら、東南アジアにおける日系企業の現状と課題を浮き彫りにしています。重厚長大な産業からコンシューマ製品事業まで具体的な事例が取り上げられ、ビジネスの現場で大いに役立ちそうです。さらに寺本氏らによるグローバル経営の議論は、多くの示唆を与えてくれるでしょう。

私たちIIJも、シンガポール、タイ、インドネシア、ラオスと戦略の駒をASEANに一つ一つ進めてきました。IIJは、後発ながらクラウドとインターネットのテクノロジーをもって日系企業の東南アジア進出のお手伝いをしています。クラウドコンピューティングが、東南アジアでのコンピュータ利用の選択肢の一つになって以来、スピード感の向上、ITを駆使したマーケティングや経営システムの強化などを実現し、顧客企業の成長につなげています。

今回は激動する東南アジアにおける経営の指針を鑑みるために、寺本氏にお話を伺いました。東南アジアをめぐるグローバル経営をテーマにした6回シリーズをお楽しみください。

東南アジアを、日本企業は成長のエンジンにできるのか?

今や日本企業は、成長の源泉を海外に求めずして生き残ることが困難になっています。国内では急速に少子高齢化が進み、産業は成熟化。市場は拡大よりも縮小が懸念され、高い経済成長は期待できません。かわりに企業がまず目を向けたのが中国でした。豊富な低コストの労働力と、13億人の市場が企業にとって魅力的なのは当然です。しかし近年、中国への日本からの輸出が減少傾向にある一方で、 ASEANへの輸出は伸びています。この変化は、何を示しているのでしょうか?

ひとつは、中国経済の失速です。人件費の上昇や中国政府の外資系企業対応の変化、一人っ子政策による若年労働力の不足などに加え、中国国内で欧米の企業や地元のローカル企業との競争が激しくなったことが原因とされています。それでも中国は依然として重要な市場です。人件費の高騰は、購買力の向上とイコールです。巨大な中国市場はグローバル企業のターゲットであり続けるでしょう。

変化のもう一方は、高い水準で経済成長を続けている東南アジアです。およそ6億という人口を抱え、これから拡大が期待できる地域です。今後グローバル企業は、アジアのなかの一国として中国を位置づけつつ、この東南アジアという成長フロンティアでどうすれば成功するのか、自らの成長を懸けた戦略を展開していかなければなりません。

この東南アジアは、地理的にも日本に近いだけでなく、歴史的、経済的にも日本と深いかかわりがあります。人口は中国とインドに次ぐ規模で若年者が多く、経済成長を支えています。中間層が急増し、自動車やバイクといった耐久消費財から様々な商品やサービスまで、市場規模も急拡大するでしょう。東南アジアは、「チャイナプラスワン」として、日本企業の海外進出に欠かせない重要エリアです。

経済成長にともない、現地企業は製造能力も高めてきました。ASEAN4、すなわちインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンは、工業国としての産業基盤がすでに整っています。たとえばタイでは、電気や自動車産業に部品を安定的供給できるサプライチェーンが存在します。一方IVCLMJ-ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーといったメコン川流域の国々では、まだ賃金は低い水準に留まっています。ASEAN4の工業国とIVCLMJの安い労働力の組み合わせ。これが、東南アジアがグローバル企業から注目される理由のひとつです。

寺本 義也 氏

経営学者 経営戦略論・経営組織論
ハリウッド大学院大学教授・ビューティビジネス経営研究所所長
経営研究所名誉顧問

■略歴
1942年生まれ、名古屋市出身。1965年 早稲田大学第一政治経済学部卒業、1967年 早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了後、1967年 富士通入社。1972年 早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了、1981年明治学院大学経済学部教授、1989年筑波大学大学院教授、1994年北海道大学経済学部教授、 1998年 北陸先端科学技術大学院大学教授。2000年 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授を経て、2012年よりハリウッド大学院大学教授・ビューティビジネス経営研究所所長。