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コラム|Column

民族、文化、経済ステージがモザイク状に広がる東南アジア

では東南アジアを中国に代わるビジネス拠点として、グローバル戦略を展開するには何が必要でしょうか?

まず、この地域の多様性を理解しなければなりません。単一の経済圏として東南アジアを捉えてしまうと、見誤ることになります。国の文化的背景をみても、大きく異なります。イスラム教徒の多いマレーシアやインドネシア、米国の影響を受けキリスト教徒が多く公用語のひとつが英語というフィリピン、中華系が四分の一を占めるシンガポール。加えて、国ごとに経済の成長ステージも様々です。シンガポールは金融センターとして、また商業的に重要な港湾として重要なポジションを占め、先進国に匹敵する経済レベルにあります。しかし同じ地域でもカンボジアは、経済成長に必要なインフラ整備そのものが、まだ整っていません。

寺本氏も、「東南アジアについて語るうえで大きなポイントは、非常に多様性に富んでいる地域だということです。東南アジアをひとくくりにすると、判断を間違えてしまうことも多いですね。共通点ももちろんありますが、それ以上に、多様性に富んでいる。経済の発展の度合いも違うし、文化、宗教、習慣も違います。また、ひとつの国の中でも地域によって大きな違いがある。それから、所得階層も幅広く分かれており、そういう意味で、多様性に満ちあふれているのが東南アジアです。それを軽く見てはいけません」と警鐘を鳴らします。

このような多様性は魅力的である反面、企業を困難な課題に直面させています。たとえばマーケティングでは、自国で販売する製品からレベルを少し落とした製品を、現地企業の同じ製品より高い値段を付けて新興国市場で売り出しても、うまくいくことがあります。しかし各国の経済の成長レベルは異なっています。先進国とはまったく異なる現地の顧客ニーズがあり、それに適したマーケティングも必要です。さらに東南アジアには、多様な文化を持ち多様な民族が暮らす多民族国家が集まっています。そのため、多様な民族を雇用し、工場や組織でマネージするには、その人々の多様性をマネージするだけのスキルが必要とされるのです。つまり、東南アジアで成功するには、「多様性をマネジメントできる組織能力」が必須になるのです。

パラダイムシフトを迫られる東南アジアの日系企業

それまで当然に行われてきた企業のビジネスモデルや成功事例を、単純には応用できないのが、東南アジアをはじめとする新興国市場です。これからのグローバル経営では、日本企業はパラダイムを転換する必要に迫られています。

先進国と新興国ではあらゆる面で異なります。まず1人当たりの所得が違います。製品の売れ筋や価格も異なります。また新興国では、固定電話より先に携帯電話が普及するといった技術の逆転も珍しくありません。また1日の生活費を確保するのも大変なBOP(Bottom of the Pyramid)層。しかしブランドに対する意識は高い、という面を持っています。このような地域では、先進国の企業が既存のビジネスモデルや成功体験をそっくり持ち込んでも通用しません。それがこんにちの東南アジアなどの新興国市場なのです。にもかかわらず、日本企業を含め、新興国市場に適応する製品を開発しているグローバル企業は必ずしも多くありません。ある調査によると、新興国の市場に対して自国市場とはまったく異なる製品を販売している企業が12%、本国とは若干異なる製品を販売する企業が38%、本国とほぼ似たような製品を販売している企業が50%。この調査から、新興国市場の未来の顧客は今、彼らの期待に応えるようなより良い製品とサービスを待っている、ということができます。

今後、日本企業が今までのグローバル戦略を転換し、現地に合った戦略を展開していけば、新たな成長センターとして東南アジアを掴み取る可能性は大いにあるといえるでしょう。

本シリーズでは次の切り口で、躍動する東南アジアと企業のグローバル戦略を浮き彫りにしていきます。

  • 人材育成を含めた各機能の現地化
  • 本社と子会社マネジメントの変革
  • グローバル・マネジャーの育成

寺本 義也 氏

経営学者 経営戦略論・経営組織論
ハリウッド大学院大学教授・ビューティビジネス経営研究所所長
経営研究所名誉顧問

■略歴
1942年生まれ、名古屋市出身。1965年 早稲田大学第一政治経済学部卒業、1967年 早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了後、1967年 富士通入社。1972年 早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了、1981年明治学院大学経済学部教授、1989年筑波大学大学院教授、1994年北海道大学経済学部教授、 1998年 北陸先端科学技術大学院大学教授。2000年 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授を経て、2012年よりハリウッド大学院大学教授・ビューティビジネス経営研究所所長。