中国の今と日本企業の対中ビジネス戦略(全4回)
第2回:中国経済の見通し
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2017/03/21
2016年6月8日にIIJ本社で「中国クラウドソリューションセミナー」を開催しました。本稿では、中国経済分析の第一人者である中国ビジネス研究所 代表の沈 才彬先生が、本セミナーでご講演された内容を、全4回に渡ってお届けします。
※本記事内の情報・データは2016年6月時点のものです。
※記事中のデータはすべて各種データより、沈先生が独自に作成されたものです。
2016年の中国経済の見通し
では2016年の中国経済はどうなるか?一言でいえば、マスコミが言うほど悪くはないと思います。これはどういう意味でしょうか?
中国経済を見るときは2つの視点が必要です。中国経済は2012年以来ずっとGDP成長率7%台で推移してきました。昨年は6.9%となり、これからはさらに減速していく、これが「縦の視点」です。ところが「横の視点」で中国経済を見ると、また別の見方が出てきます。(図1)を見てください。中国経済を世界経済の全体の中で見ること、これがつまり横の視点です。
では中国経済を世界経済全体の中で見たときに、どういう状態なのか。(図2)はIMFが2016年4月に発表した世界経済の見通しです。世界の主要国がすべて下方修正なのに対し、唯一上方修正された国が中国です。今年は0.2ポイント上げて6.5%。来年も0.2ポイント上げて6.2%です。
2016年 | 2017年 | |
---|---|---|
世界全体 | 3.2(▼0.2) | 3.5(▼0.1) |
米国 | 2.4(▼0.2) | 2.5(▼0.1) |
ユーロ圏 | 1.5(▼0.2) | 1.6(▼0.1) |
中国 | 6.5(0.2) | 6.2(0.2) |
日本 | 0.5(▼0.5) | ▼0.1(▼0.4) |
インド | 7.5(0.0) | 7.5(0.0) |
ロシア | ▼1.8(▼0.8) | 0.8(▼0.2) |
ブラジル | ▼3.8(▼0.3) | 0.0(0.0) |
中国経済の見通しが上方修正された背景
では、なぜ世界主要国の経済見通しが相次いで下方修正されている中、中国経済だけが上方修正されたかのでしょうか。
今年3月、中国で日本の国会に相当する全人代が開催され、中国の李克強首相が政府活動報告の中で、中国の今年の中国経済活動方針を示しました(図3)。これを3つのポイントにまとめてみます。
GDP成長率 | 6.5%~7% |
---|---|
財政赤字 | 対GDP比 3%(2015年2.3%) |
通貨供給量(M2) | 13%増(2015年12%増) |
インフラ投資 | 41兆円以上 |
内訳 ◎鉄道投資:13.6兆円以上 ◎道路投資:28兆円以上 |
1つ目は「財政出動」。中国は2016年に対GDPの比で3%の赤字国債を発行し、その財政赤字をもって、約5,000億元、日本円にすると7兆円以上規模の企業向けもしくは個人向けの減税を実施するということです。
2つ目は「金融緩和の継続」。昨年は12%通貨供給量を増やし、今年はさらにそれを上回る13%と、引き続き金融緩和を実施しています。
3つ目は「インフラ投資」。日米をはじめとした世界経済はいずれも低迷していて、中国の輸出依存はすでに限界に来ています。しかし、内需拡大を目指すと言っても、個人消費をすぐに活性化させることは難しいので、即効性が期待できるインフラ投資、公共投資を推進しています。2016年のインフラ投資額は41兆円以上となり、リーマンショック以来の大規模投資を行っています。
財政出動、金融緩和、インフラ投資、この3つの中国政府の措置によって今年の中国経済は大きな失速はありません。ですから、IMFは中国経済の見通しを上方修正しました。実際今年4月、8カ月連続マイナスが続いていた輸出額がプラスに転じました。さらに物価指数も上昇しています。
また図4と5は、新車販売台数と住宅指数の推移ですが、いずれも堅調に推移しています。ですから全体的に見れば、今年は中国経済が挫折するというシナリオは考えにくいと思います。2016年と2017年の中国経済の先行きについては、マスコミは減速もしくは減速の懸念が大きいと言っていますが、少なくとも今年と来年、中国経済は失速の可能性はゼロ、短期的にはさほど心配する必要がないというのが、私の見通しです。
- 第1回:中国経済の基本知識と中国経済の実態
- 第2回:「2016年の中国経済の見通し」
- 第3回:「中長期的な点でみた中国経済の見通し」
- 最終回:「これからの中国で日本企業が取るべき戦略」
沈 才彬(シン サイヒン)
株式会社中国ビジネス研究所代表
(株)中国ビジネス研究所代表のほか、中国ビジネスフォーラム代表、多摩大学大学院フェローを兼任。1944年、中国江蘇省海門市生まれ。81年、中国社会科学院大学院修士課程修了。三井物産戦略研究所中国経済センター長を経て、08年4月より多摩大学・同大学院教授。15年4月より現職。主な著書に『中国の超えがたい9つの壁』『大研究! 中国共産党』『検証 中国爆食経済』『今の中国がわかる本』『中国経済の真実』などがある。