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コラム|Column

「フレンドリーさ」に欠ける中国製品

中国製品のイメージは?と聞かれれば「品質が低い」「壊れやすい」だろうか。「そうはいうけど改善している」だろうか。長年「中国製品を自腹でレビュー」なる変わった作業が、ひとつの業務であり、生活の一環(レビュー後もしっかり使っている)である筆者から言わせれば、どちらも正しいと感じる。

確かによくはなっているが、まだまだアラはある。最近筆者が買って「これはいかんなあ」と思ったものでは、「ネットがないと辞書が利用できないクラウド電子辞書」「リモコンだけでは全ての機能が利用できないスマートテレビ」「見た目はキュートだが、ちょっとの振動で倒れる重量級デジタルフォトスタンド」など、ぱっと思い浮かぶモノは数知れず。重箱の隅まであらゆるケースを検証、というわけでなく、ちょっと使えば気づきそうなアラもある。

また中国製品の特長は、驚くほど説明書が簡素だ。「製品合格証」や「修理センター一覧」や「使用上の注意」の紙はお約束のようにあるが、肝心の説明書に関しては、製品でできるあらゆることについて使い方を書いたモノを今まで一度としてみたことがない。老人や子供用の初心者用製品なのに、「CPUは何とかという型番でクロックはどれくらいだ」「メモリーがどうだ」とスペックだけは詳細が書かれているものもあれば、スマートテレビなのに説明書は紙一枚という有様の前述の「リモコンだけでは全ての機能が利用できないスマートテレビ」もある。

つまりは中国のIT製品というのは、既存の流通する部品を組み立てて、なんでもできるよう多機能にして、「後はユーザーが勝手にやってくれ」という、日本ならばヘビーユーザー向けでありがちな「ハードウェアオンリー」の製品ばかり。中国では常識ともいえる状況だが、ならば老若男女がヘビーユーザー向け製品を使いこなせるかというとそんなことはなく、中高年はインターネットを長年利用しようとせず、ようやっとスマートフォンを触り始めた状況だ。10数年前のパソコン黎明期には、人々が安く上げるためにパソコンをショップブランド(自作だが店で組み立てる)で済ませ、詳しい親族や友人知人に頼んで、使い方を教えてもらうという動きがあった。その伝統は今にまで続くわけだ。

パソコンや、ゲームができて音楽がきけて映像も見られるポータブルプレーヤーならその製品思想でもいい。パソコンだけでなく、「懐かしいコンテンツしか見られず」「ソフトを入れるといったカスタマイズもできない」インターネットテレビや、「EVD」「CBHD」といった中国独自光ディスク規格のプレーヤーといった、まったく新しいツカミが大事な製品まで、同じような投げっぱなしのフレンドリーでない製品思想だから、買った身としては(筆者はまだレビュー作業ができるからいいものの)たまったものではない。

Androidで進化する中国製品

さていったん話は変わる。

中国の「BAT」と呼ばれる3大サイトがある。検索の「百度(Baidu)」、ECの「阿里巴巴(Alibaba)」、SNSの「騰訊(Tencent)」の3社の頭文字をとって「BAT」と呼ぶ。中国に片足を突っ込んでいる読者なら、阿里巴巴グループの「淘宝網(Taobao)」や「天猫(Tmall)」は知っているのではなかろうか。2、3年前、それ以前は3大サイトといえばポータルサイトの「新浪(Sina)」「捜狐(SOHU)」「網易(NetEase)」だったが、ネットの主役はBAT3社に変わった。

百度は当初はGoogleのようにシンプルな検索サイトと、音楽や動画の視聴と、後日本でも広告を出し始めたリンク集「Hao123」くらいしかなかった。今も一見トップページを見れば変わらないように見えるが、サービス一覧を見ると驚くほど様々なサービスがあることがある。結構な頻度で新しいサービスを投入しているのだ。

騰訊の主力サービスであるチャットソフトの「QQ」は、最初こそ「ICQ」の真似からスタートしたものの、機能を増やし、まったく別物といえるほどに成長した。結果億単位のユーザーを真っ先に得たQQを柱にして、同社サービスのユーザーを同社の様々な新サービスに誘導した。今同社の「微信(WeChat)」は中国で最も旬なSNSだ。

阿里巴巴は当初、個人向けECサイト「淘宝網」でユーザーを囲い込み、ユーザービリティを向上させたが、信頼をキーワードに「天猫」にユーザーを移行させている。

BAT3社の各サービスは原型をとどめないほど大きな変化を遂げた。「パズル&ドラゴンズ(通称パズドラ)」などの人気オンラインゲームもアップデートを繰り返し、最初にリリースした形とは全く別ともいえるゲームに成長したが、それと同様のことがBAT3社のサービスに合った。一方「新浪」「捜狐」「網易」3社はポータルサイトとして、BAT3社ほどの大きな変化を起こすことはなかった。

話をもどそう。今、中国のIT製品で旬なものはAndroid搭載製品だ。スマートフォンしかり、タブレットはイマイチだが、後はセットトップボックスやスマートテレビしかり。その多くはAndroidながら、中国におけるAndroid搭載機器にはGoogle PlayやGoogle MapやChromeなどのGoogle製アプリは搭載されていない(例外はNexusくらいだ)。

加えて最近シェアを伸ばした小米(Xiaomi)や、セットトップボックスや、スマートテレビなど、AndroidをカスタマイズしたROMをプリインストールした製品が登場している。小米のカスタマイズROMしかり、頻繁にバージョンアップを繰り返し、より格好良く使いやすくパワーアップしている。筆者が所有する「老人向けタブレット」も、買った当初はアラばかりでほとんど使い物にならなかったのだが、カスタマイズROMのバージョンアップを指示されて行ったところ、全く別物に変身し、使えるようになって驚いた。メーカーは購入したユーザーを見捨てていなかったのである。

つまり中国製品は、ハードウェアにしろソフトウェアにしろ、オンラインゲームのようにベータ版のような製品で実に自分よがりな製品である。しかしベースとなるソフトウェアがカスタマイズできるようになると、後から修正をすることで、それは百度のようにQQのように天猫のように、徐々に成長していく。Android搭載になって、様々な機能を追加できるというだけではなく、多くのIT製品のベースがAndroidになったことで、最初は手が付けられないじゃじゃ馬がバージョンアップごとに改善する製品も出てこよう。ソフト面が原因の低品質な中国製品というのは減っていきそうだ。

中国はGoogleと敵対している。しかしGoogleのAndroidが中国のIT製品を変えている。

山谷 剛史

1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。
現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすくをモットーとし、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。2002年より中国雲南省昆明を拠点とし、現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。