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コラム|Column

スピードの速い中国メーカーの製品サイクル

最近、日本のデジタル家電製品を久々にレビューしたときちょっとしたショックを受けた。その製品の初代は当時、比較的センセーショナルにデビューをしており、筆者はかつてその製品の3代目をレビューした。今回レビューしたのはそれから5回ほど堅実にマイナーバージョンアップをしたもので、このシリーズが発表されてからかれこれ5年を数えるが、製品自体はほとんど変わらずにいる。

振り返ってみると、その5年の間にAndroidが普及し、中国では小米が出て、小米が出たと思ったらその勢いも衰え、代わりにファーウェイやOPPOが主役に躍り出た。Androidを搭載した様々な製品が出て、スマートフォンには独自のカスタムROMが搭載され、スマートフォンで操作するスマートホーム製品が続々と登場した。製品が出ることとIoTが普及することは別に考えなければいけないけれど、とにかくデジタル製品好きにとっては面白い製品が矢継ぎ早に登場した。

ファーウェイやOPPOは中国国外でも製品を展開している。数年単位で変わらない日本の製品は多いが、中国と比べるとあまりに遅すぎる。リリース展開速度が日本並みのサービスや製品を中国にそのまま持って行っても、受け入れられるのは最初だけで、やがて時代遅れ感がでてくる。中国のハードウェアメーカーは、海外でも中国にあわせたスピードで様々な製品を出してくるので、中国だけの話ではない。

日本と中国のスピード感の違い

日本のスピード感は相対的に中国に比べて遅すぎる。日本人は変化を望まないかというとそうでもない。LINEやポケモンGOの登場で、日本のネットの活用シーンが大きく変わり、話題にあわせてスマートフォンに関心を持たない人でも、とりあえずアプリは入れる。日本人とて変わることは実証されている。ただ中国は、年に何回かLINEやポケモンGOクラスの製品やサービスが出るような、そんな変化が次々にやってくるようなスピード感がある。

中国は日本と比べて何が違うのかといえば、「模倣による評判を恐れないタイムマシン経営」や、近年で特に顕著なのは「企業が目指すゴールの違い」を挙げる。ネットトレンドを変えるほどの多くのユーザーを抱える大手企業も、無名のベンチャー企業もこの2点を実現できる環境になってしまっているから恐ろしい。

赤字覚悟で投資をひきつけようとする中国企業

いくつか例を出そう。
広く普及していた海賊版のPhotoshopを超え、最も定番のフォトレタッチソフト・アプリとなっている「美図秀秀」をリリースした中国企業「美図(Meitu)」は、2016年末に上場を果たした。美図秀秀は「無料」ながら、ユーザーのニーズに応えた写真をより美しくする機能を多数備えることから、同年10月末には11億のデバイスが登録され、月間アクティブユーザー数は4億5600万人となった。ところが上場で明らかになったのは、同社の代名詞たるネットサービスの売上額は全体のわずか4.9%で、95.1%の売上をそれほど有名ではない同社のスマートフォン販売が占めていたという。2008年にリリースされて以来、PC版の人気が上昇し続け、2013年の創新工場からの723万元の投資を皮切りに、次々と企業が投資を行い、一気に運営に余裕が出た。

また、スマートフォンと連動したシェア自転車サービスを提供する「Mobike」や「ofo」は、299元のデポジットを払えば1時間1元(17円)という低価格で自転車に乗ることができるサービスを提供。2016年に上海・北京・深センなどで自転車を大量投入して急速に普及した。しかし50円1プレイのゲームセンターよりはるかに安い1時間1元のレンタル費用を主な収入源としているし、手荒く使われるため故障車が続出しているため、これでは儲かりようがないと中国メディアは分析した。ところがMobikeやofoも注目されるやいなや、将来を見越して多額の投資があった。

美図やMobikeは特に知名度が高い企業の例で、多くの会社が「他社から投資を受ける」ことをゴールとして目指していて、中にはもちろんうまくいかないケースもある。知名度の高いテレビ向け動画サイトの楽視(LeTv)は、同社の有料動画サービス利用者を増やすべく、有料動画サービス料金も含んだ赤字覚悟の低価格な薄型テレビとスマートフォンを、将来を見越してリリースし、さらには自動運転のスマートカー参入を発表。第三者からの投資に期待したが、投資が間に合わず一気に転落する状態であることが露呈した。去年後半の話だ。

投資を期待して、赤字覚悟、採算無視でハードウェアやサービスも一気に普及させることもある。例えば、米国などで世界初としてリリースされたハードウェアやソフトウェアを模倣し、それが将来的に中国で普及すると期待されて投資が集まるため、模倣する側は激安な価格、ときには無料で利用者にリリースすることで海外発の黒船を凌駕するのである。

中国IT企業はITにとどまらず、中国の投資界隈の関心も強く引き寄せる。日本企業はこうした中国企業と世界で戦うことになる。日本企業がこのスタートダッシュのスピードに勝てる行動力があるかという疑問もあるが、東南アジア諸国やインドでも、中国に続く「IT企業+投資環境」があるのだろうか。中国経済が極端に悪化しない限りは、これからもこの様な中国式モノ作りは続くだろう。どうやっても中国に比べて人口の少ない東南アジア諸国や、まだまだ貧しいインドでは、中国と対峙できるだけの資金力もモノづくり力も行動力も未だ乏しいのではないだろうか。(完)

山谷 剛史

1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。
現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすくをモットーとし、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。2002年より中国雲南省昆明を拠点とし、現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。