【山谷剛史の中国ITトレンド】
第6回:中国ITの根っこの一つは「金儲け」
バックナンバー
- 第1回:【山谷剛史の中国ITトレンド】せっかちな中国人とスピード感あふれる中国のサービス
- 第2回:【山谷剛史の中国ITトレンド】中国のケータイやスマホのこれまでとこれから
- 第3回:【山谷剛史の中国ITトレンド】Androidが中国のIT製品を変える
- 第4回:【山谷剛史の中国ITトレンド】中国で黄昏の電脳街と生き残る修理屋
- 第5回:【山谷剛史の中国ITトレンド】ネット規制で中国人は困らない
- 第7回:周辺機器から見る中国のパソコンの使われ方
- 第8回:中国農村のインターネット事情
- 第9回:中国人はオールインワンを望んでいる
- 第10回:中国人のモノマネの原点は教育にあり!?小学校の教育の実情
- 第11回:中国人はネット規制をそれほど気にしない
- 最終回:比類なきスピード感の中国にはどの国も敵わないかもしれない
2016/01/14
人気のバロメーターは「お金儲け」
日本人がモノづくりにこだわる職人気質であるのに対し、中国人は商人気質だといわれる。
IT系メディアひとつとっても、日本ではどれだけモノづくりにこだわったかというインタビュー記事があり、支持する読者がいるのに対し、中国ではどれだけ製品が売れて上場して稼げたかといった話題や、企業同士の競争や喧嘩の話題を読みたがる読者がいる。中国のメディアが日本の著名企業から招待されてモノづくりのこだわりを紹介しても、その情報を受け止めて、ピンとくる読者はゼロではないが、それほどいるわけではない。
日本で考えてみよう。プロ野球で近年楽天イーグルスが優勝したこともあれば、ソフトバンクホークスが優勝したこともあった。その際楽天市場や、ヤフーショッピングで感謝セールがあり、そのタイミングでオンラインショッピングをした人も大勢いるだろう。しかしその大セール開催日の楽天市場やヤフーショッピングでどれだけお金が動いたかを事細かく紹介しようという記事は、筆者は見たことがない。中国では、大手メディアがリアルタイムでも後日談としても、どれだけ多くの金が動いたかを熱く伝えるのである。金が動くことに関心を持たせたのは、メディアが先か個人が先なのか、鶏が先か卵が先かという話ではあるが、興味のベクトルは金がどれだけ動いたか、という方向なのである。
さて中国で人気のサービスは、ゲームである。中国のIT市場の発展にゲームは欠かせない存在だった。そしてもう一つが金稼ぎできるサービスである。
一番有名なのは、「淘宝網(TAOBAO)」などのオンラインショッピングサービスだ。見知らぬ中国人は信用できないという雰囲気の中、米国発祥のエスクローサービス(第三者支払サービス)の「支付宝(Alipay)」を取り入れたことで、オンラインショッピングは一気に普及した。少しでも収入を増やそうと副業する社会人や、学業をおろそかに個人輸出・転売にいそしむ留学生や、卒業後就職せずネットショップ運営をする大学生など、淘宝網ショップで店舗経営に携わる人は日本よりずっと身近にたくさんいる。個人事業主が当たり前にいる環境だからこそ、淘宝網で金額の大小を問わず金儲けしようとする人はいる。
最近では微博(Weibo)や微信(WeChat)を活用し、フォロワーという近い存在にモノを販売する「微商」も台頭してきた。これは中国に限らず、ベトナムなどFacebookが特に普及している国でも目立ってきている。例えば、日本に旅行に行く前に日本行きを告知し、フォロワーから買い物を依頼され、日本で爆買いをするのである。
中国の株価が上昇の一途を辿っているときは、多くのネットユーザーがオンライントレーディングを利用した。だが2007年10月の6000ポイント超を頂点に、それ以降はバブルが崩壊するや、オンライントレーディング利用者数自体が減少した。インターネット利用者が増えている中で、サービス利用者が減少するのは珍しい現象であり、金の切れ目はサービスの切れ目ということを如実に表している一例だ。
近年利用率が伸びているタクシー配車サービスの中でも、「滴滴打車」「快的打車」は特に人気だ。無数のタクシー配車サービスがリリースされたころ、両サービスは乗れば乗るだけ、「紅包」なる金一封がもらえるキャンペーンを提供し、一気にタクシー配車サービスが普及した。キャンペーンが終了すると、オンライントレーディング同様に利用者が減少したものの、タクシー配車サービスを認知してもらい利用価値があると判断するユーザーが多かったのか、キャンペーン開始前に比べ利用者は増加した。
春節には、阿里巴巴の「支付宝(Alipay)」と騰訊の「微信支付」の二大エスクローサービスが、紅包がもらえるキャンペーンを実施。多くのユーザーが参加し、各サービス向けの電子マネーを受け取った。紅包といえば、従来は春節に送り合うお年玉や企業のボーナスや結婚での御祝儀として贈る金一封であるが、これのネット版が出るや、ユーザーが儲かるため一気に普及した。「ネットの紅包」文化が開花したのである。
山谷 剛史
1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。
現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすくをモットーとし、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。2002年より中国雲南省昆明を拠点とし、現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。