Global Reachグローバル展開する企業を支援

MENU

コラム|Column

中国人の考え方

まずはおもしろい調査結果を紹介したい。

国際的な調査ネットワークであるWin/Gallup Internationalが行った調査によると、「自国の経済を楽観視している」と回答した人が最も多かったのが中国で、回答者全体の65%が「楽観視している」と回答した一方、「悲観視している」と回答した人の割合はわずか11%だった。日本は「楽観視している」が12%、「悲観視している」が20%であり、回答した割合が最も少ないのが特徴だ。ちなみに中国に続いてインドも自国の経済を楽観視していて、60%が「楽観視」していたのに対し、16%しか「悲観視」していない。

ドイツに本社を置くマーケティングリサーチ会社であるGfkが複数ヶ国で行った調査によると、「自分の外見に対する評価」の項目では、日本が最低で、中国人は日本人や韓国人、香港人よりも「自分の見た目を高く評価している」という結果になった。中国と関わっている人なら感じることだろうが、様々な個性の人がいるが、全体でみれば、自信がある人が多いように思える。日本人は良い悪いは別として、自分に対しても自国に対しても評価は厳しめで、さらに他国をみるときにも、現地の人々よりもずっと厳しい眼でみているのではないだろうか。

「新しい経験」がニュースバリューになる

中国に住んでいると、その生活は日本よりずっと大変であることを感じる。筆者が雲南省の昆明に住み始めた2002年のころは、公務員とて月収1000元といかなかった。今は3000元以上もらうのが当たり前で、沿岸部の大都市では、皿洗いですら3000元程度のアルバイト募集を見るようになった。一方で、物価はそれ以上にあがった。例えば、雲南省で雲南省産の牛乳が1リットルパックで200円以上する。100円ショップで売っているようなものが、倍以上で売られている。食堂では3元4元で食事が食べられたのに、今や10元を下回るものはほとんどなくなり、ちょっと綺麗なレストランで食べれば、ひとり100元はかかる。保険もろくになく、頼るは家族親族の絆だけだ。交通事故は多発し、人さらいが現役なので子供をひとりで学校に行かせられない。品質問題が連日のように報道され(報道されるだけ監視の目があっていいのだが)食品や日用品、薬や家電などの品質を信用できない。インターネットにしても、多くの人がウイルスに感染し、官製ニュースは綺麗ごとばかり並べるとネットユーザーに嘲笑され、信頼を売りにするECサイトですらニセモノを販売していたとニュースで報じられる。

それでも人々はそうした環境に慣れ切り、数多くのニュースを聞いても動じることはなく、ネガティブなニュースを深追いせず、日々やってくる新しい経験を目指して、日々生きる。最近の人々の話は、物価が高くなったという話はあるものの、家族内の会話を聞いていても、スマートフォン導入から海外旅行の話まで、新しい経験の話が目立つ。楽しかった思い出や経験がニュースバリューとなるわけだ。安全安心な日本では、なかなか中国での日常的なニュースが流れず、ネガティブなニュースにバリューが置かれ、中国では小さく扱われるようなニュースが何日にもわたって報じられる。ニュースではないが、日本のネット界隈で最近見られる「過労働、安月給のブラック企業」ネタが喜ばれ、自分の幸せアピールだと叩かれる風潮も同様なものではないかと思う。脱線したが、中国絡みのことが延々報じられれば、それを見た中国人は「日本は中国を悪く言う!」「中国はそれほど酷くない!」と憤慨するのである。かたや中国では良いニュースがバリューとなり、かたや日本では悪いニュースがバリューとなる。両国の人々が納得できる落としどころはないように思う。

海外のコンテンツやサービスを規制しても、中国のユーザーは困らない

同様に、中国のインターネットについても多くの人が楽観視している。

中国政府に関わる問題はしばしば発生し、検閲により関連ワードが削除されることもよくある。また、個人が不用意すぎる言葉を発言して、発言が削除されたり、アカウント自体が削除されたりすることもある。多くの中国人はそこで「失敗した、気を付けよう」と思い、その後に恨みを引きずることはない。他方、日本人を含め中国在住の外国人にとっては、FacebookやYouTubeはおろか、googleをはじめとした外国の様々なサービスに普通に繋がらず、頭痛の種となっているだろう。しかし、「海外サイトへのアクセスの体感速度が遅くなっていると感じるが、普段見る必要がない」、「そういうサイトを見ようという発想がない」という人々にとっては、なんら問題がない。むしろ、中国電信(ChinaTelecom)と中国聯通(ChinaUnicom)、中国移動(ChinaMobile)が互いに競争することで、モバイルは3Gから4Gに、固定回線では4MBpsプランが8Mbpsや20Mbpsプランに無料でアップグレードできた。他国と比べて特別速度が速いわけではないが、スマートテレビやセットトップボックスが導入されて、無線LANルーターで、複数台のPCとスマートフォンとスマートテレビを結ぼうが、カクカクになることはない。回線速度が向上し、インターネットに繋ぐデバイスも高速化されている。それこそが前向きで、中国人にとっていいニュースだ。

コンテンツに関しても、中国国内のものが充実してきた。中国人同士が会話する微信(WeChat)・微博(Weibo)・ブログ・掲示板などは非常に充実し、SNS環境は非常にいい。商売人気質の中国人にぴったりなECサイトも充実している。ビデオオンデマンドで、人気の中国ドラマや中国映画ほか、日本のアニメやハリウッド映画や韓流ドラマもみられる。これらのコンテンツには海賊版も混ざってはいるが、多くが版権を買った正規版コンテンツだ。これらは広告付きという形で、視聴前に飛ばすことのできない広告を何分も表示した後、本映像を見ることができる。広告動画表示を耐えて見る人や、広告非表示のツールを使う人がメジャーだったが、この1年で、より高画質な映像や、広告非表示を求めて、有料課金プランを利用する消費者も徐々に出てきた。中国政府は、国産コンテンツの台頭を目指し、外国のコンテンツの流入を減らす方針をしているが、見たい人は海賊版でも構わず、手段を問わず、見たいコンテンツを見るので、ネットユーザーは困ることはない。

海外のコンテンツやサービスを規制しても、中国のユーザーは困らない。

ここでテレビゲームを例に出そう。現在中国では、PlayStation4とXbox Oneが公式に発売されているが、それまでは日本のメーカーや米国のメーカーが、海外で販売しているテレビゲームを中国国内で販売することは許されていなかった。ソフトの検閲を受けた上で、中国の企業がゲームをリリースするという方法は存在し、任天堂が神遊科技という中国企業を通して「神遊機」などをリリースしている。テレビゲームは中国の文化に浸透しているとはいえ、海賊版が蔓延するこの国では、海賊版よりもずっと高い上にゲームソフトのラインアップが少なく、発売日が外国版よりずっと遅れる海外のゲーム機が普及することはなかった。その代わりに中国人は、PSやPS2を入手して海賊版で遊んでいた。本体が発売されないまま、攻略雑誌だけが先にリリースされ、海賊版で遊ぶスタイルが固定化されていた。PSPやPS2を売る店は中国に多数存在するので、ユーザーはなんら困らなかったわけだ。

中国人のインターネットは「自由」?

海賊版が規制されるのであれば、代わりに中国のネットユーザーは海外サイトにアクセスすればいい。

今や中国のネットユーザーで名前を知らない人のほうが珍しいだろう「蒼井そら」さんが、最初にtwitterアカウントを開設したときは、中国からアクセスできないはずのtwitterに、VPNなどのネットの壁越えツールを利用して、彼女をフォローしたりメッセージを送ったりした。またネット規制が強化された昨年、台湾総統選の際に蔡英文氏のFacebookのページに無数の中国大陸からの台湾独立反対の書き込みがあり、さらにヴァージンアトランティック航空機内での中国人客を巻き込んだトラブルの際には、同社Facebookページに中国大陸からの無数の抗議の書き込みがあった。つまりネット規制をしようが、中国人ネットユーザーはその壁を越えるわけだ。壁を越えようと思えばいくらでも壁を越えることができるということは、中国人ネットユーザーから見れば、ネットの不自由はない、という解釈もできる。

日本や諸外国のインターネットの自由とはかなり異なるが、楽観的な中国人から見れば、中国のインターネットもまた自由という結論を出してみた。もちろん中国政府が自由だと言えば、「壁を作っている張本人が何を言っているのだ」と無数の指摘が中国国内で飛び交うが、ユーザーからすれば、コンテンツの消費に困ることはない。中国にコンテンツで進出するなら考えていただきたい。蒼井そらさん並に魅力あるコンテンツであれば、あらゆる手段を利用してでも中国ネットユーザーは壁を越えてアクセスする。逆に魅力のないコンテンツであれば、日本にサーバーを置こうと、中国にサーバーを置こうと、そうそう状況は変わらない。状況を打開するために、お金をユーザーにばらまいたり、広告に注力して、認知してもらうしかないのだ。

山谷 剛史

1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。
現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすくをモットーとし、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。2002年より中国雲南省昆明を拠点とし、現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。