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IIJサービスの歴史
株式会社インターネットイニシアティブ
CIO 橘 浩志
1992年の創業から四半世紀――IIJが世に送り出してきた代表的なサービスを紹介しながら、IIJとインターネットを取り巻く世界がどのように変化してきたのかを振り返る。
- 本記事はIIJグループ広報誌「IIJ.news vol.143」(2017年12月発行)より転載しています。
- 年表の詳細はPDFでご覧ください。
黎明期(1993年~1995年)~日本初のISPとして
1993年7月「UUCPサービス」開始
「UUCP」とはUNIXサーバ間でファイルを転送する機能で、インターネットの初期はこれを使って電話回線経由でメールやネットニュース(掲示板)をやり取りしていました。バケツリレー的な仕組みのため、メールが相手に届くまでに数時間かかることもありました。このサービスでは、大規模なUUCPサーバをバックボーンに直結し、スムーズにメールが届くようにしました。
1993年11月「インターネット接続サービス」開始
国内で初めてIPで直接インターネットにつなぐサービスを提供しました。当初、国際通信のための認可がおりず、接続先は国内限定という船出でしたが、まだUUCPが主流だったので、国内限定でも直接インターネットにつなぎたい人にとっては待望のサービスでした。翌年3月には海外ともつながり、晴れて真の「インターネット接続」となりました。
1994年5月「ダイアルアップIPサービス」開始
それまでIPで直接インターネットにつなぐには固定IPアドレスの取得が必要でしたが、電話回線でつなぐたびにIPアドレスを割り当てるPPP技術により、家庭でもモバイルでも簡単にインターネ ットに接続できるようになりました。モデムというデータを音声に変換する機器を使っていたため、20kbpsほどの低速でしたが、インターネットの普及に大きく貢献しました。
1994年11月「ファイアウォールサービス」開始
当時はファイアウォール専用のハードウェアがなかったので、汎用のサーバに他社製ソフトをカスタマイズして載せたものをレンタルで提供しました。全ての端末が直接インターネットにつながっていた時代から、ファイアウォールの内側にイントラネットを築く形態が普及する契機となったサービスです。
1995年1月「アイアイジェイメディアコミュニケーションズ(IIJ-MC)」設立
1994年にWWW技術が開発され、誰もがブラウザを介して世界中のあらゆる情報にアクセス可能になりました。それは、メールのような一対一の通信ではなく、一人が不特定多数に向けて情報発信できるようになるパラダイムシフトでした。そこで新会社のもと、WEBホスティングのような新しいメディアに対応するサービスを提供しました。
1995年11月「アジア・インターネット・ホールディング(AIH)」設立
アジア各国をつなぐインターネットの幹線網「A-Bone」を築くために設立した会社です。インターネット発祥の地・アメリカとの接続が求められていましたが、国毎に長距離の国際回線を引くのは非効率的なので、アジアのネットワークハブを構築し、安価で効率的な国際接続環境をつくるという壮大なチャレンジでした。
1995年1月の阪神・淡路大震災は、日本が情報化社会になって初めて経験する大災害でしたが、電話はつながらなくてもインターネットで安否情報が伝えられたことが注目を集めました。このときにできた「災害に強いインターネット」というイメージは、IIJが「つなぐ」ことに心血を注いだ成果の1つと言えるでしょう。
成長期・前期(1996年~1999年)~もっと使いやすく
1996年12月「IIJ4U」開始
個人向け接続サービスが急速に広がり、「NTTテレホーダイ」の登場もあって、23時からインターネットを使うというライフスタイルが生まれました。当時は従量料金が当り前でしたが、インターネットも使い放題にしたいという強い思いから月額固定にしたのは画期的でした。さらに斬新だったのは宮史郎のテレビCMとアイドル歌手の広告で、100万ユーザ獲得を目指して、宣伝にもかなり力を入れていました。
1997年11月「IIJエコノミー」開始
SOHOのような小規模の事業者向けに始めた、安価なデジタルアクセスをアクセス回線とした廉価版専用線サービスです。簡単にホームネットワークをつくれる時代ではなかったので、このサービスを自宅のネットワークのために自腹で購入していた社員もいました。
1998年7月「IIJポストオフィスサービス」開始
利用者にとってメールは届くのが普通ですが、システム間でやり取りする仕組みは複雑です。そこで、中小企業などがインターネットを導入する際に負担の大きかったメールサーバの構築・運用を代行するためにこのサービスをつくりました。IIJのメール関連技術は、このころから"十八番"と言えるものでした。
1998年8月「SEIL」販売開始
インターネットの個人利用者が1000万人に迫ろうとするなか、誰でも簡単にLAN環境を構築できるようにと小型ルータを独自開発しました。ISPとお客さまをつなぐ「命綱」が名前の由来ですが、「Simple and Easy Internet Life」の略でもあり、WEB販売を実施したモデルでもありました。「みんなSEILになる」という熱い想いは、今もかたちを変えながら引き継がれています。
1998年10月「クロスウェイブコミュニケーションズ(CWC)」設立
IIJ、トヨタ、ソニーの3社が共同で設立した会社です。「全国のLANをイーサネットでつなぐ」という広域LANのコンセプトは革新的でした。専用線サービスが拠点間の距離に応じて課金されるのに対し、距離に関係なく均一の課金体系を採用した点も画期的でした。
1998年12月「IDゲートウェイサービス」開始
社外からのリモートアクセスを簡便にするためのサービスです。当時はダイアルアップで社内のゲートウェイにつなぐのが普通でしたが、海外からだと通信費がかさむため、IIJの海外アクセスポイントにつなぐ際に「IDゲートウェイ」でユーザ認証を行ない、国際電話をかけずに済むようにしました。
1999年10月「IIJセキュリティスタンダード」開始
ファイアウォール機器をフルマネージドで提供した最初のサービスで、これ以降のセキュリティサービスのモデルとなりました。企業のセキュリティ対策が重要になるなか、パッケージ化することで安価に利用できるようにしました。
1990年代後半はインターネットが家庭にも普及し、iモード、2チャンネル、ネット証券など、メールやWEBにとどまらない新しい利用形態が生まれました。IIJはより使いやすいインターネットを目指し、オリジナリティ溢れるサービスを生み出していきました。
成長期・後期(2000年~2003年)~ブロードバンドの普及
2000年2月「iBPS」開始(IIJテクノロジー)
オンラインモールが急拡大し、商品も衣類や食品など多様化しました。そこで、企業独自のECサイトを手早く立ち上げたいというニーズに対して、サーバ、決済・物流機能、構築・運用サービスなどを組み合わせたサービスをつくりました。「必要なときに必要なだけ使える」という「クラウド」のコンセプトを10年以上先取りしていました。
2000年8月「ストリーミングオンデマンドチャンネル」開始(IIJ-MC)
当時は64kbps以下の通信速度が普通でした。ストリーミングは音声中心で、映像も見づらい状況でしたが、企業PRやセミナー中継などに映像が活用され始めたため、ストリーミング配信に特化したサービスをつくりました。高いレベルの配信技術は、沖縄で開催されたサミットにおける"史上初のストリーミング中継"にも活かされました。
2000年9月「IPv6ネイティブサービス」開始
IPv6で直接インターネットにネイティブ接続する国内初のサービスです。IPv6の最大の利点は、事実上無限のIPアドレスを使えることです。IPv4アドレスは2010年頃には枯渇すると言われていましたが、アドレスを効率よく利用するNAT技術の発達などにより、何とか持ち堪えています。
2001年4月「IIJネットワーク侵入検知サービス」開始
対象となるネットワークを常時監視し、不正侵入やサービス妨害攻撃を検出・通知することで、ファイアウォールの迅速な設定変更などを可能にしました。ホームページの不正改ざんなどが頻発し、ファイアウォールだけでセキュリティを確保することがむずかしくなってきた状況に応えるものでした。
2001年5月「IIJ DSL/Fサービス」開始/8月「IIJ FiberAccess/Fサービス」開始
それぞれNTTの「フレッツ・ADSL」「Bフレッツ」を利用したブロードバンド接続サービスです。ベストエフォートとは言え、"Mbps"単位の高速回線が安価に導入できるようになり、ブロードバンドはあっという間に企業に浸透していきました。
2002年2月「Omnibus」(初代)開始
企業ネットワークがインターネット、VPN、広域LANなどと複雑化するなか、それらを統合的に管理する仕組みをつくれないかという発想から生まれました。時代を先取りし過ぎたのか、すぐに撤退を余儀なくされましたが、そのDNAはのちに受け継がれていきます。
2002年11月「IIJ VPNスタンダード」開始
企業の拠点LANをブロードバンド回線でVPN接続することで、低コストのWAN環境を構築するサービスです。インターネットVPNは安価に構築できる反面、設定が複雑で運用が大変だったので、VPN接続用の機材を各拠点に配り、運用を代行するようにしました。その後の「IIJマネージドVPN PRO」の基礎にもなったサービスです。
2003年6月「IIJ SMFサービス」開始
SMFはつなぐだけで使える"プラグ・アンド・プレイ"の概念をインターネット接続に持ち込んだ先駆的なサービスです。拠点が多い企業では、設定作業の自動化で大きなコスト削減が図れます。先述のSEILを回線につなぐだけでIIJ側のサーバから設定情報が自動的に"降ってきて"インターネットにつながる仕組みです。
2000年代初期はブロードバンド回線が急速に普及し、インターネットの世帯普及率も7割を超えました。そして、ECサイトやストリーミング広告など新しいビジネス手法が生まれました。IIJはそうした時代の変化に応じて多様なサービスを展開していきました。その後、2003年8月に起きたCWC破綻の煽りを受け、一時期サービス開発が滞りましたが、業績の回復とともに再び活発化しました。
転換期(2004年〜2007年)~より安全・安心な環境を目指して
2005年10月「IIJ Internet-LANサービス」開始
SMFの発展形の1つで、L2TP技術とブロードバンド回線を利用して、広域LANと同等のネットワークを安価に構築できるサービスです。つなげばすぐに使えるSMFの特色を活かし、L2ならではの自由度の高いネットワークサービスを実現しました。
2005年12月「IIJ DDoS対策サービス」開始
DDoS撃を検知して、管理者に通知したり、攻撃そのものを遮断します。独自の主義主張を訴える手段として使われ始めたDDoS攻撃は、今もその頻度や規模を増しながら脅威となっています。
2006年7月「IIJマネージドIPSサービス」開始
ネットワーク侵入検知に加えて、自動的な防御までを行なうサービスです。不正アクセスが高度化するなか、守る側も堅固なセキュリティ技術で対抗する必要が出てきたのです。
2006年10月「IIJセキュアMXサービス」開始
IIJに設置したゲートウェイでメールを中継して、迷惑メール対策、暗号化、アーカイブなどの機能により安全なメール環境を実現します。まだ一般的ではなかったアンチウイルスやアンチスパムの機能を標準で提供したことも大きな特徴でした。
2000年代中期は、海外ではフェイスブック、ユーチューブ、ツイッターといったソーシャルメディアが、国内でもmixiやニコニコ動画などが相次いで登場しました。単なる情報の受け渡しの場だったインターネット上に「コミュニティ」が生まれた時代とも言えるでしょう。仮想社会における新たな脅威が生まれるなか、IIJは新しいセキュリティ対策サービスを提供しました。
発展期(2008年~2013年)~モバイル・クラウド時代へ
2008年1月「IIJモバイル」開始
MVNO事業者として、初めてデータ通信用SIMを提供したサービスです。回線契約とSIMをワンストップで提供することで、モバイル端末からの通信先を限定するという新しい付加価値を生み出しました。この頃はまだ個人のモバイル利用は携帯電話がほとんどで、法人向けに特化していました。
2008年10月「IIJ大規模コンテンツ配信サービス」開始
ブロードバンド接続が普及し、動画コンテンツの視聴が急伸していた時期でした。人気イベントのライブストリーミングには、膨大なユーザが同時にアクセスしました。バックボーンに直結したサーバに動画コンテンツを置くことで、ピーク時にも安定した配信を可能にしました。
2009年2月「IIJセキュアWebゲートウェイサービス」開始
WEB経由の情報漏えいやウイルス感染などに対して、総合的なセキュリティ対策機能を提供します。クラウドを利用したWEBサービスが広まり、メールとは違うかたちでのセキュリティリスクが増すなか、アンチウイルス機能や危険なサイトへのアクセス遮断などの機能により、安全なWEBアクセス環境を目指しました。
2009年11月「IIJ GIOサービス」開始
「iBPS」時代から築いてきた実績をベースにつくったクラウドサービスです。「IIJ GIOコンポーネント」はオーダーメイド型で、サーバ、ネットワーク、ストレージ、ソフトウェア、運用など、豊富なコンポーネントを柔軟に組み合わせることができます。「IIJ GIOホスティングパッケージ」はレディメイド型で、利用シーンに合わせてサーバやソフトウェアがあらかじめ用意されており、オンラインで全ての操作を完結できます。
2012年2月「IIJmio高速モバイル/Dサービス」「IIJモバイルMVNOプラットフォームサービス」開始
IIJが個人ユーザにも知られるきっかけとなった「格安SIM」サービスです。「IIJmio高速モバイル」は個人向け直販サービスで、「IIJモバイルMVNOプラットフォーム」は他業種のお客さま向けのOEMサービスです。低価格でも安定した品 質を目指し、クーポンによる従量料金制や、使い過ぎると低速モードに切り替わる仕組みを用意しました。家族でパケットを共有するプランも功を奏し、格安SIM市場を牽引する存在となりました。
2012年3月「IIJ GIO USサービス」開始/2013年1月「IIJ GIO CHINAサービス」開始/2013年8月「IIJ GIO EUサービス」開始
「IIJ GIO US」はGIOの最初の海外展開としてアメリカで始めたクラウドサービスです。「IIJ GIO CHINA」は「南北問題(中国国内通信の遅延問題)」対策を打ち出しました。「IIJ GIO EU」はロンドンに開設したデータセンターと日本、アジア、アメリカを高速バックボーンで結び、国内と同等の通信品質を提供しています。(その後も海外GIOは、シンガポール、インドネシア、タイ、ベトナムへとエリアを拡大しています)
2008年はiPhoneが日本で初めて発売され、2010年にはiPadが登場するなど、インターネットの使い方が端末から大きく様変わりしました。「クラウドコンピューティング」という言葉が使われ始めたのもこの時期です。2008年のリーマンショック後、ITコストを削減する必要性から、企業ではクラウド利用が進みました。IIJはこうしたモバイル・クラウド時代に相応しいサービスを投入していきました。
変革期(2014年~現在)~新たな価値を求めて
2014年10月「IIJクラウドエクスチェンジサービスfor Microsoft Azure」開始/2016年9月「IIJクラウドエクスチェンジサービスfor AWS」開始
IIJの設備を中継して、IIJやマイクロソフト、アマゾンのクラウドサービスとプライベートネットワークで接続できます。例えば、個人情報のような機密データはオンプレミスで持ち、クラウドサービスと連携する環境をつくるなど、双方の利点を活かした高速かつ安全な相互接続を可能にします。
2015年9月「IIJ Omnibusサービス」(リニューアル)開始
モバイル・クラウドの浸透により、複雑化したネットワークを統合的に構築・管理するサービスです。SDN/NFVという仮想化技術を利用し、ルータ、ファイアウォール、WAN接続、クラウド接続などの機能を「ネットワークのクラウド」として提供します。多様なネットワーク機能を一体で提供するという点では初代「Omnibus」と同じですが、先進技術を駆使した全く新しいサービスとして蘇りました。
2015年10月「IIJ GIOインフラストラクチャーP2」開始
2つのクラウドサービス「GIOコンポーネント」と「GIOホスティングパッケージ」をベースに、性能や信頼性を強化したうえでシームレスに融合させました。インフラに要求される柔軟性、安全性、コストなどは、システムの用途によって異なるため、より柔軟に構成できるプラットフォームを目指しました。
2016年4月「IIJスマートメーターBルート活用サービス」開始
スマートメーターから取得した電力使用量を分析して、付加的なサービスを展開したい事業者向けのプラットフォームです。数秒単位でデータを取得できるので、省エネ対策はもちろん、見守りサービスなどにも応用可能です。スマートメーターからのデータ収集にはSEIL/SMFを発展させた小型のゲートウェイ機器が用いられています。
2016年11月「IIJ IoTサービス」開始
さまざまなモノからデータを収集して、生産現場の稼働監視、高齢者のヘルスケア、農業の効率化などに活用する事例が次々に生まれています。MVNO事業者としての強みであるモバイル接続や、安全なネットワークとクラウド、データ分析用アプリケーションなどを組み合わせて、多種多様なビジネスシーンにおけるIoT活用を支えます。
2017年3月「IIJ C-SOCサービス」開始
IIJとお客さま双方に設置された機器から収集したログデータをもとに、24時間365日、セキュリティインシデント対応をアウトソースします。高度化するサイバー攻撃に関する情報を迅速に提供し対策を講じます。長年のセキュリティ運用技術と同分野の第一線で活躍するアナリストの知見が融合した、IIJならではのサービスです。
2017年4月「IIJ電子@連絡帳サービス」開始
医師、看護師、介護スタッフなど地域の医療・福祉に携わる人々のあいだで必要な情報を共有し、その地域に包括的な医療・ケアを提供するためのコミュニケーションサービスです。ヘルスケア分野の事業で生まれた最初のサービスです。
2015年に「アルファ碁」が囲碁のプロ棋士を破ったあたりから、急激にAI技術が進化し、IoTやビッグデータの処理技術の発達と相まって、ますます活用が広がっています。今やインターネットは水や電気のように自然な存在となり、日々生まれるイノベーションの生命線になっています。
今後もIIJは、25年にわたって積み重ねてきた経験を核に、変革の時代に相応しい新サービスを生み出すチャレンジを続けていきます。
(イラスト/高橋庸平)
- 本記事はIIJグループ広報誌「IIJ.news vol.143」(2017年12月発行)より転載しています。