ページの先頭です
この「エグゼクティブサマリ」は、開催が1年延期された東京オリンピックの開幕まで2ヵ月を切った東京で書いています。東京オリンピックでは33競技339種目が実施され、参加する選手は1万人を超えるそうです。1000万人を超えるとされる観客と大会スタッフは、現状では大幅に縮小されるかもしれませんが、世界が注目する有数のイベントであり、アスリートにとって重要な競技大会であることに変わりはありません。
情報通信技術は、このような巨大なイベントを裏で支える重要な要素です。競技の記録の計測、報道機関などへの結果の伝達、選手・スタッフ・観客などの認証や入退場の管理、アスリートの活躍をリアルに分かりやすく伝える映像やデータのインターネットへの配信など、様々なシステムのサポートを通じて大会が円滑に運営されます。アスリートが最高のパフォーマンスを発揮し、その活躍が世界各地に配信され、人々の感動を呼び起こしている裏で情報通信技術が大きく貢献しています。
新型コロナウイルス感染症の影響もあり、当初想定していた形態での開催は難しいものの、開催に向けて関係者による懸命の準備が続いているものと思います。先に挙げた情報通信システムについても同様でしょう。世界中で人の移動が制限されるなか、人と人とのつながりや余暇の楽しみを支えているのも情報通信技術です。この困難な状況のもとオリンピックが安全に開催され、アスリートの活躍や感動が1人でも多くの人にインターネットを通じて届けられることを祈念します。
「IIR」は、IIJで研究・開発している幅広い技術を紹介しており、日々のサービス運用から得られる各種データをまとめた「定期観測レポート」と、特定テーマを掘り下げた「フォーカス・リサーチ」から構成されます。
1章の「定期観測レポート」では、電子メールを中心とするメッセージングに関する1年間の動向をまとめています。特筆すべきは、昨年度(2020年4月~2021年3月)の上半期、IIJで管理しているハニーポットに着信した迷惑メールの分析で、これまでにないほど大量の迷惑メールを受信した点です。また、トピックとして、昨年度に話題になった日本特有の暗号化ZIPファイルのメール添付やオンライン会議システムを利用したフィッシングについて紹介します。
2章の「フォーカス・リサーチ(1)」では、IIJにおける5G NSA(Non-Stand Alone)、SA(Stand Alone)への取り組みについて解説します。4GにおいてIIJは、コアネットワークの一部の機能を保有するフルMVNOとしてサービスを提供しています。5G NSAは、4Gのコアネットワークを拡張して5Gの高速通信を実現します。5G SAは、5G向けの新しいコアネットワークを用いて5Gサービスを提供する形態です。いずれの方式も、社内での技術検証、白井ワイヤレスキャンパスでの実証実験を行なっており、その成果の一部はケーブルテレビ業界の地域BWA及びローカル5Gの提供に活用されています。
3章の「フォーカス・リサーチ(2)」は、IIJで障害対応時に利用している内製システム「Barry(バリー)」の紹介です。システムが大型化・複雑化するなか、信頼性への要求は高まる一方で、システムにインシデントが発生したとき、それを検知し、必要な要員に情報を的確に通知して、速やかに対応を開始することは、お客様にICTサービスを提供するプロバイダにとって非常に重要です。そのため、その業務を支えるシステムは、市販のツールに頼るのではなく、我々自身の業務フローの改善や新しい技術の創出のためにも、内製化に踏み切りました。Barryは実際に運用に携わるエンジニアの意見を活かして開発されたもので、その裏側・背景を解説します。
IIJは、このような活動を通してインターネットの安定性を維持しながら、日々、改善・発展させていく努力を行っています。今後も企業活動のインフラとして最大限に活用いただけるよう、様々なサービスやソリューションを提供し続けてまいります。
執筆者プロフィール
島上 純一 (しまがみ じゅんいち)
IIJ 常務取締役 CTO。インターネットに魅かれて、1996年9月にIIJ入社。IIJが主導したアジア域内ネットワークA-BoneやIIJのバックボーンネットワークの設計、構築に従事した後、IIJのネットワークサービスを統括。2015年よりCTOとしてネットワーク、クラウド、セキュリティなど技術全般を統括。2017年4月にテレコムサービス協会MVNO委員会の委員長に就任、2021年6月より同協会の副会長に就任。
ページの終わりです