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このレポートでは、毎年IIJが運用しているブロードバンド接続サービスのトラフィックを分析して、その結果を報告しています(注1)(注2)(注3)(注4)(注5)。今回も、利用者の1日のトラフィック量やポート別使用量などを基に、この1年間のトラフィック傾向の変化を報告します。コロナ禍も3年目に入りましたが、昨年報告した堅調なトラフィック増加が、伸び率は少し下がったものの継続していて、今のところその傾向に目立った変化は見られません。
図-1は、IIJの固定ブロードバンドサービス及びモバイルサービス全体について、月ごとの平均トラフィック量の推移を示したグラフです。トラフィックのIN/OUTはISPから見た方向を表し、INは利用者からのアップロード、OUTは利用者へのダウンロードとなります。トラフィック量の数値は開示できないため、新型コロナ感染拡大前の2020年1月の両サービスのOUTの値を1として正規化しています。
ブロードバンドサービスのトラフィックは、新型コロナウイルスの国内感染が落ち着いてきた昨年秋以降に少し減り、感染が再度拡大した1月~2月に増えた後、横ばいとなっています。この1年のブロードバンドトラフィック量は、INは13%の増加、OUTは17%の増加となっています。1年前はそれぞれ20%と23%だったので、伸び率は少し下がりました。
ブロードバンドに関しては、IPv6・IPoEのトラフィック量も含めて示しています。IIJのブロードバンドにおけるIPv6は、IPoE方式とPPPoE方式があります。2022年6月時点で、IPoEのブロードバンドトラフィック量の全体に占める割合は、INで39%、OUTで41%と、昨年同月よりそれぞれ8ポイントと11ポイント増えていて、全体の4割程がIPoEとなっています。コロナ禍で顕著になってきたPPPoEの輻輳を避けて、IPoEへ移行する利用者が増えていて、IPoEの利用拡大が続いています。
モバイルサービスは、コロナ禍で昨年の報告までは横ばいでしたが、その後夏頃から増えました。今年の1月~2月には感染再拡大でまた少し減りましたが、その後は再度増えてきています。モバイルは、この1年で、INは23%、OUTは8%の増加となっています。
次に、コロナ禍の平日の時間別ブロードバンドトラフィック量の推移を見ていきます。ここでのトラフィック量はPPPoEとIPoEの合計値です。図-2に以下の7つの週のトラフィックを示します。2020年のコロナ禍の最初の変動を示すため、一斉休校が始まる前の2020年2月25日の週、最初の緊急事態宣言下の2020年4月20日の週、緊急事態解除後の2020年6月22日の週、そして、その後の変化を示すため、ほぼ半年間隔で、2021年1月18日の週と7月5日の週、2022年1月17日の週と7月4日の週を示しています。ここでは、各週の月曜から金曜の各時間の平均トラフィック量を示しています。下側の波線はそれぞれの週のアップロード量ですが、今回もダウンロード量に注目します。
2020年の2月と4月を比較して最初の緊急事態宣言の影響を見ると、昼間のトラフィックが大きく増えていて、また夜のピーク時間帯でも増加しています。緊急事態宣言が解除された6月には昼間の増加分が半分以下に減少していますが、ピーク時間帯ではほとんど減っていません。直近2年間の変化では、20時~22時のピーク時間帯に着目するとほぼ一貫して増加していることが分かります。一方で、昼間のトラフィックは2021年、2022年共に1月に大きく増えて、7月にはあまり増えていません。これは、両年共に1月後半には感染が拡大していたため在宅時間が多くなっていたのに対し、7月初めには比較的状況が落ち着いていた影響と考えられます。このように、この2年間の推移を見ると、夜のピーク時間帯では堅調な増加となっている一方で、平日昼間の増加は感染状況に伴う在宅率に影響を受けていると言えます。
今回も前回までと同様に、ブロードバンドに関しては、個人及び法人向けのブロードバンド接続サービスについて、ファイバーとDSLによるブロードバンド顧客を収容するルータで、Sampled NetFlowにより収集した調査データを利用しています。モバイルに関しては、個人及び法人向けのモバイルサービスについて、使用量にはアクセスゲートウェイの課金用情報を、使用ポートにはサービス収容ルータでのSampled NetFlowデータを利用しています。
トラフィックは平日と休日で傾向が異なるため、1週間分のトラフィックを解析します。今回は、2022年5月30日~6月5日の1週間分のデータを解析して、前回解析した2021年5月31日~6月6日の1週間分と比較します。
ブロードバンドの集計は契約ごとに行い、一方モバイルでは複数電話番号の契約があるので電話番号ごとの集計となっています。ブロードバンド各利用者の使用量は、利用者に割り当てられたIPアドレスと、観測されたIPアドレスを照合して求めています。また、NetFlowではパケットをサンプリングして統計情報を取得しています。サンプリングレートは、ルータの性能や負荷を考慮して、1/8192程度に設定されています。観測された使用量に、サンプリングレートの逆数を掛けることで全体の使用量を推定しています。なお、IPoEトラフィックはインターネットマルチフィード社のtransixサービスを利用していて詳細なデータが取得できていないため、ポート別解析の対象にはなっていません。
まずは、ブロードバンド及びモバイル利用者の1日の利用量をいくつかの切り口から見ていきます。ここでの1日の利用量は各利用者の1週間分のデータの1日平均です。
2019年のレポートから、利用者の1日の使用量は個人向けサービス利用者のデータのみを使っています。これは、利用形態が多様な法人向けサービスを含めると分布の歪みが大きくなってしまうため、全体の利用傾向を掴むには個人向けサービス分だけを対象にした方が、より一般性がありかつ分かりやすいと判断したからです。また、今回のレポートからIPoEの利用者のデータも加えています。なお、次章のポート別使用量の解析では区別が難しいため法人向けも含めたデータを使っています。
図-3、図-4及び図-5は、ブロードバンド(PPPoEとIPoE)とモバイル利用者の1日の平均利用量の分布(確率密度関数)を示します。アップロード(IN)とダウンロード(OUT)に分け、利用者のトラフィック量をX軸に、その出現確率をY軸に示していて、2021年と2022年を比較しています。X軸はログスケールで、10KB(104)から100GB(1011)の範囲を示しています。一部の利用者はグラフの範囲外にありますが、おおむね100GB(1011)までの範囲に分布しています。
図中のINとOUTの各分布は、片対数グラフ上で正規分布となる対数正規分布に近い形をしています。これはリニアなグラフで見ると、左端近くにピークがあり右へなだらかに減少するいわゆるロングテールな分布です。OUTの分布はINの分布より右にずれていて、ダウンロード量がアップロード量より、ひと桁以上大きくなっています。
まず、図-3のブロードバンド(PPPoE)の分布を見ます。2021年と2022年を比較しても、INとOUT共に分布がほとんど変化していません。よく見ると、OUT側で僅かながら分布の山の部分が低くなっていて、その分、分布左側の中程が高くなっていることから、比較的利用量の少ないユーザの割合が若干増えたことが分かります。
図-4のブロードバンド(IPoE)の分布を見ると、PPPoEに比べ分布全体が右側にずれていて、全体としてPPPoEより大幅に利用量が多くなっています。また、分布の幅もPPPoEより狭くほぼ左右対称な形で、分布左側の利用量が少ないユーザ割合が小さい一方、分布右側の利用量の多いユーザについてはそれほど違いがありません。IPoEも昨年との差はあまり見えませんが、分布の山が少し高くなっていて、PPPoEとは逆に最頻出値近辺の割合が増えています。
このように、ブロードバンドはPPPoE、IPoE共に全体の分布はほとんど変わっていません。一方で、PPPoEからIPoEへの移行が進んで、IPoE割合が増えているため、全体のトラフィック量は増えています。
図-5のモバイルの場合は、分布の山が昨年に比べ少し右に移動していて、全体の利用量が増えていることが分かります。モバイルの利用量は、ブロードバンドに比べて大幅に少なく、また使用量に制限があるため、分布右側のヘビーユーザの割合が少なくなっています。極端なヘビーユーザも存在しません。外出時のみの利用や、使用量の制限のため、各利用者の日ごとの利用量のばらつきはブロードバンドより大きくなります。
表-1は、ブロードバンド(PPPoE)利用者の1日のトラフィック量の平均値と中間値、分布の山の頂点にある最頻出値の推移を示します。分布の山に対して頂点が少しずれている場合は、最頻出値は分布の山の中央に来るように補正しています。分布の最頻出値を2021年と2022年で比較すると、INでは200MBから178MBに減っていて、OUTでは3981MBで変わりません。伸び率で見ると、INで0.9倍、OUTは1倍となっています。一方、平均値はグラフ右側のヘビーユーザの使用量に左右されるため、2022年には、INの平均は698MB、OUTの平均は4291MB と、最頻出値より大きな値になります。2021年には、それぞれ684MBと4225MBでした。
IPoEでは、表-2に示すように、PPPoEより大幅に利用量が多くなっています。これは、比較的利用量が多いユーザからIPoEに移行している、逆にいうと、利用量の少ないユーザの多くはPPPoEに留まっているからだと考えられます。2022年の最頻出値はINで398MB、OUTで6310MB、平均値はINで1007MB、OUTで7700MBです。2021年の最頻出値はINで447MB、OUTで6310MB、平均値はINで1110MB、OUTで7169MBでした。
モバイルでは、表-3に示すように、すべての項目で増加しています。2022年の最頻出値はINで10MB、OUTで89MB、平均値はINで13MB、OUTで114MBです。2021年の最頻出値はINで8MB、OUTで71MB、平均値はINで10MB、OUTで86MBでした。
図-6、図-7及び図-8では、利用者5,000人をランダムに抽出し、利用者ごとのIN/OUT使用量をプロットしています。X軸はOUT(ダウンロード量)、Y軸はIN(アップロード量)で、共にログスケールです。利用者のIN/OUTが同量であれば対角線上にプロットされます。
対角線の下側に対角線に沿って広がるクラスタは、ダウンロード量がひと桁多い一般的なユーザです。ブロードバンド(PPPoE)では、以前は右上の対角線上あたりを中心に薄く広がるヘビーユーザのクラスタがはっきり分かりましたが、今では識別ができなくなっています。また、各利用者の使用量やIN/OUT比率にも大きなばらつきがあり、多様な利用形態が存在することがうかがえます。IPoEでは、PPPoEに比べ利用者間のばらつきが少なく、利用量の少ないユーザ割合も小さいことが確認できます。モバイルでも、OUTがひと桁多い傾向は同じですが、ブロードバンドに比べて利用量は大幅に少なくなっています。ブロードバンド、モバイル共に、2021年との違いはほとんど分かりません。
利用者間のトラフィック使用量の偏りを見ると、使用量には大きな偏りがあり、結果として全体は一部利用者のトラフィックで占められています。例えば、ブロードバンド上位10%の利用者がOUTの50%、INの78%を占めています。更に、上位1%の利用者がOUTの16%、INの53%を占めています。
昨年と比べると、偏りが僅かながら大きくなっています。IPoEは、PPPoEより偏りが小さく、上位10%の利用者がOUTの39%、INの64%を占めていて、更に、上位1%の利用者がOUTの11%、INの36%を占めています。モバイルでは、上位10%の利用者がOUTの50%、INの49%を、上位1%の利用者がOUTの13%、INの16%を占めています。昨年からはOUT側で僅かながら偏りが増えました。
次に、トラフィックの内訳をポート別の使用量から見ていきます。最近では、ポート番号からアプリケーションを特定することは困難です。P2P系アプリケーションには、双方が動的ポートを使うものが多く、また、多くのクライアント・サーバ型アプリケーションがファイアウォールを回避するため、HTTPが使う80番ポートを利用します。大まかに分けると、双方が1024番以上の動的ポートを使っていればP2P系のアプリケーションの可能性が高く、片方が1024番未満のいわゆるウェルノウンポートを使っていれば、クライアント・サーバ型のアプリケーションの可能性が高いと言えます。そこで、TCPとUDPで、ソースとデスティネーションのポート番号の小さい方を取り、ポート番号別の使用量を見てみます。
表-4はブロードバンド利用者のポート使用割合について過去5年間の推移を示します。2022年の全体トラフィックの72%はTCPで、昨年とほぼ同じです。HTTPSのTCP443番ポートの割合は、56%で前回から2ポイント増加しました。HTTPのTCP80番ポートの割合は12%から9%に減っています。QUICプロトコルで使われるUDP443番ポートは、16%でほぼ同じです。
減少傾向だったTCPの動的ポートは、6%のままで下げ止まったように見えます。動的ポートでの個別のポート番号の割合は僅かで、最大の31000番でも0.9%となっています。また、Flash Playerが利用する1935番が0.2%ありますが、これら以外のトラフィックは、ほとんどがVPN関連です。
表-5はモバイル利用者のポート使用割合です。全体的にはブロードバンドの数字に近い値となっています。これは、スマートフォンでもPCと同様のアプリケーションを使うようになってきたことに加え、ブロードバンドにおけるスマートフォンの利用割合が増えているからだと思います。
ブロードバンドのデータは、PPPoEだけでIPoEを含まないので、固定ブロードバンド全体の傾向を表しているとは限りません。モバイルでのIPv4とIPv6の違いを見ると、IPv6ではTCPもUDPも443番ポートの割合がより大きくなっていて、IPoEでも同様の傾向があると考えられます。
図-9は、ブロードバンド全体トラフィックにおける主要ポート利用の週間推移を、2021年と2022年で比較したものです。TCPポートの80番・443番・1024番以上の動的ポート、UDPポート443番の4つに分けてそれぞれの推移を示しています。グラフでは、ピーク時の総トラフィック量を1として正規化して表しています。全体のピークは19時~23時頃です。2021年と比較してもほとんど違いはなく、HTTPからHTTPSへの移行がほぼ一巡したと考えられます。
図-10のモバイルでは、トラフィックの大半を占めるTCP80番ポートと443番ポート、UDP443番ポートについて推移を示します。ここでも、2021年からの変化はほとんど見当たりません。ブロードバンドに比べると、朝から夜中までトラフィックの高い状態が続きます。平日には、朝の通勤時間、昼休み、夕方17時頃~22時頃にかけての3つのピークがあり、ブロードバンドとは利用時間の違いがあることが分かります。
3年目に入ったコロナ禍のこの1年のトラフィック状況をまとめると、昨年報告した傾向が継続していて、大きな変化は見当たりません。ブロードバンドでは、平日昼間のトラフィック量は感染状況による在宅率の影響で変動が見られますが、ピーク時間帯では着実に増えてきています。全体のトラフィック量は、IPoEへの移行に牽引されて堅調な伸びを示していますが、それ以外の個人ユーザの利用量にはあまり変化は見られません。つまり、オンライン会議や動画視聴が定着してきていることがうかがえる一方で、この1年に限って言えば、ユーザが利用するサービスにもその使い方にも大きな変化はないように思われます。
執筆者プロフィール
長 健二朗 (ちょう けんじろう)
IIJ 技術研究所所長。
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