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IoT(Internet of Things)という言葉が世の中に浸透して久しいですが、SDGsに始まる昨今の社会課題を解決しようとする動きに対し、IoTが主要な手段のうちの1つであることは間違いないと言えるでしょう。例えば、スマート農業のような労働人口減少下における生産性向上の取り組みや、スマートシティにおけるエネルギー利用の高効率化などのためにIoTを用いることが挙げられます。IoTそのものは抽象的な概念であるために様々なアプローチが存在しますが、LPWA(Low Power Wide Area)無線を搭載したセンサーなどの機器によるデータ収集及びそのデータの利活用はよく知られた事例です。
LPWAとは、その名称のとおり低消費電力で広範囲に届く無線技術の総称です。通信速度や通信頻度を落とすことで消費電力を抑えており、通信方式や運用方法による差異もありますが、小型のバッテリーであってもセンサーなどの機器を年単位で稼働させることが可能です。また、無線の周波数帯域を狭めたり、周波数拡散を行ったりすることで長距離の伝送であっても信号の劣化をできるだけ抑えるような工夫がなされています。LPWAは大きく分けてライセンスバンド型(通信キャリアが提供するもの)とアンライセンスバンド型(Wi-Fi®用の機器などのように、総務省の許可を得た無線機器(注1)であれば誰でも自由に使用できるもの)の2種類が存在しますが、その中でも更にいくつかの通信方式があり、表-1に示すようにそれぞれ特徴を有しています。
IIJでは、アンライセンスバンド型では世界的にもデファクトスタンダードになりつつあるLoRaWAN®に着目し、LoRaWAN®を用いた様々なサービスを展開しています。また、既存のWi-Fi®の技術がベースとなっており、ユーザサイドにも馴染みやすいWi- Fi HaLow™にも着目し、技術調査などの活動を進めています。本稿では、IIJにおけるLoRaWAN®に関する現在までの取り組みや、Wi-Fi HaLow™の技術的な特徴について自社での実験結果も踏まえつつ紹介し、今後の展望についても述べていきます。
アンライセンス系のLPWAでは世界的に見てもLoRaWAN®のシェアが最も多く、接続回線数が2024年で約5億、2026年では約7.5億になるとも予想されています(注8)。海外では各種メータ(水道など)の監視や、スマートビルディングの分野での活用が先行しているようですが、国内ではIIJが主導している以下の分野でも広がりを見せています。
IIJでは、2017年に農林水産省の公募事業である革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)」を受託し、IoT技術で水田の水管理を効率化するための研究開発(実証実験含む)を3年間に渡り行ってきました(注13)(注14)。
その中で、次の理由から農業IoTのLPWA無線規格として優位性のあるLoRaWAN®を採用しました(注15)。
研究開発の成果としては、独自開発した水田センサーや自動給水弁を活用することで、水田の水管理にかかる時間(給水栓開閉、移動時間などの合計)を約7割削減できることを実証しています(注14)。
現在は、これらの取り組みで得た知見を活かし、「IIJ水管理プラットフォームfor水田」や、「水田センサーMITSUHA」といったサービスを展開しています。更に、水田の水管理にとどまらず、次のような農業を起点とした地域社会の課題解決のための各種取り組みを進めています(注16)。現時点で全国の基礎自治体約70団体への支援実績を有しており、更なる広がりが期待されています。
温度管理は、2018年に食品衛生法が改正されHACCPに沿った食品の衛生管理が制度化されたことを皮切りに、様々な業種に波及しています。IIJでは、農業IoTで培ったノウハウを横展開させ、2020年よりLoRaWAN®を活用した食品温度管理向けのソリューションを展開しています(注17)。このソリューションでは、生鮮食品市場・水産加工場などの冷蔵庫・冷凍庫や、飲食店のセントラルキッチンのような食品の調理・加工を行う作業場などにおける温度管理の作業負担の軽減に貢献しています。
昨今では衛生管理だけでなく、食品ロスの低減を目的として、その保管温度をモニタリングすることで廃棄サイクルを適切に管理する取り組みも広がりつつあります。
また、食品以外では
といった目的でも温度管理のニーズが広がっています。
これらのユースケースに共通しているのが、冷蔵庫内、薬品庫内、物流倉庫内においては、センサーの設置したい場所に必ずしも電源の引き込みができない、ということです。また、庫内の扉を閉めた状態であっても庫外との通信が確保できることが重要となります。
LoRaWAN®は温度管理用のセンサーを小型のバッテリーでも年単位で駆動でき、電源が取れない場所への設置が容易です。また、自営型のLPWAですので建屋内や庫内であってもユースケースに応じた無線環境を構築しやすく、更に、長距離通信を想定している規格ですので、遮蔽物である扉が閉まっている状態でも近距離であれば通信が可能です。これらの特徴を活かすことで、IoT・LPWA市場において、LoRaWAN®の温度管理の事例が増えていくことが期待されています。
建設業界では慢性的な人材不足、労働災害の発生、効率化の停滞といった課題に直面しています。こういった課題の解決には、センサーを活用した現状把握及びそれに対するアクションが有用になりますが、建築の現場では施工の進捗によって日々環境が変わるため、無線によるセンサー情報の収集は簡単ではありません。そのような環境下においてもLoRaWAN®は適しており、実際に建設会社の協力のもと実施したPoCでは、約30,000㎡の物流施設の建築現場においても工期中の各センサーの情報を安定して取得できることが確認できました(注18)。
PoCでは、次の項目を遠隔監視することで工期中の各業務の効率化につながることも実証しています。
最近では照明の消し忘れ、現場の窓の閉め忘れ、雨量などを見たいとの要望もいただいており、今後も建築現場におけるモニタリングにLoRaWAN®が幅広く活用されていくと期待されます。
また、建築だけでなく、トンネルなどのLTEがつながらない土木の現場においても作業員の安全管理をしたいといったニーズがあり、こうした現場も長距離通信及びバッテリー駆動が可能なLoRaWAN®が活躍できるフィールドです。
前述のとおり、LoRaWAN®は自営型のLPWAですので、各エンドデバイスからのデータが受け取れるように基地局を設置する必要があります。LoRaWAN®の無線はスペクトル拡散を用いているため、受信した無線信号の強度がノイズレベルより低くても(後述するSNRがマイナスでも)通信が可能です(注19)。この特徴はLoRaWAN®の大きな強みで、利用者側が設置したい位置に機器を置くだけで通信が成立する場合も多く、それほど手間をかけずに通信環境を構築することができます。一方、屋外で数kmの距離を伝搬させたい場合や、建物内部の入り組んだ箇所にエンドデバイスを配置しなければならない場合などには、事前にある程度環境を評価した上で基地局の配置を検討することもあります。ここでは、そのような場合にどのような点に着目して通信環境を評価するのかについて、これまでLoRaWAN®を取り扱ってきた知見に基づき、技術的な観点から述べていきます。
通信環境を評価するにあたって、主な確認事項は次のとおりです。
RSSIに関しては、機器のアンテナや信号処理回路などの性能が影響し、製品によって異なるため一概に指標を定めることは難しいですが、自社での運用実績を踏まえると-100dBm以上を確保できれば、もしパケットロスが発生してもエンドデバイス側の自動再送機能で概ねリカバー可能です。更に万全を期すなら余裕を見て-80dBm程度まで確保できると理想的です。ちなみに、LoRaWAN®に限らず、屋外で開けた環境(建物などの障害物がない)であれば、2波モデルを使ってRSSIをある程度見積もることができます。2波モデルは図-1に示すように、自由空間の減衰に加えて直接波と平面大地による反射波の干渉を考慮したものです(注20)。モデル自体はとても単純であるために実環境のシミュレーションには到底及びませんが、電波の周波数、送信電力、アンテナ高さ及び利得、距離だけがパラメータなので計算しやすく、おおよその感覚を掴むには適しています。図-2 に2波モデルの計算結果を示します。アンテナが低いほど、平面大地の影響を受けやすくなるため、例えばLoRaWAN®で1km 電波を飛ばしたい場合は2m以上のアンテナ高さを確保できると良好に電波を飛ばせそうだと言えます。また、アンテナが8m 程度の高さになると(第1)フレネルゾーン半径を超えるため平面大地の影響が少なくなり、ほぼ自由空間の減衰のみで表すことができます。ちなみに、フレネルゾーンとはいわゆるアンテナ間の見通しを示す領域で、この領域内部に障害物があると反射や回折などが起こり伝搬特性に大きく影響します。
また、920MHz帯の特定小電力無線は表-1に示す各種LPWA規格だけではなく、RFIDなどの他のシステムでも用いられているため、LoRaWAN®の通信仕様としては日本の電波法に基づくARIB STD-T108の規定にのっとり、自分が電波を発する前にその周波数チャネルが他のシステムによって使われていないことを確認(注21)(注24)しなければならないと明記されています。したがって、障害物などがない環境であるにもかかわらず通信が思ったように成立しない場合には、無線が混雑している可能性があるので、近くで920MHz帯の他の無線システムが使われていないかどうかを見る場合もあります。
ちなみに、IIJではLoRaWAN®の電波環境を把握するための測定用デバイス(注25)の提供も行っています。測定用デバイスは、図-3に示すような動作を行い、ゲートウェイから返ってきたダウンリンクの情報に基づき、測定結果(平均RSSI/SNR及び通信成功率)を集計して表示します。本体を起動し、ディスプレイを見て測定結果を確認するだけで良いので、実際の現場でもよく活用されています。
2022年9月に電波法が改正され、国内においてIEEE 802.11ah/ Wi-Fi HaLow™(ヘイロー)の本格的な利用が可能になりました。HaLowとは、IEEE 802.11ah(以下、11ah)対応機器のうち、Wi-Fi Alliance®が認定したものに対して付与されるブランド名です。名称のとおり、Wi-Fi®の規格の一種ですが、IoT専用の位置付けでLPWAにもカテゴライズされます。
LPWAとして11ahを見てみると次の特徴が挙げられます。
LoRaWAN®はその通信の特性上、比較的容量の大きいデータをリアルタイムかつ、双方向でやり取りするのには向いていません。11ahはIP通信ができ、動画も伝送可能な通信速度が出せるため、監視カメラや遠隔でのファームウェア更新などのユースケースに期待されていることが大きな特徴です。逆に言うと、帯域幅やMAC層以上のオーバーヘッドなどを考慮すると、端末の電力収支的にはLoRaWAN®と比べて見劣りしてくる可能性が高いので、11ahがLoRaWAN®をそのまま置き換えていくことはあまりなさそうです。したがって、11ah対応のセンサー端末が今後出てくるとすれば、測定値を常時送信するような(電池駆動ではない)タイプのものが主流になるのかもしれません。いずれにしろ、LoRaWAN®と11ah のそれぞれの特徴を知った上で適切に使い分けていくことが重要です。
前述のとおり、11ahはWi-Fi®シリーズに含まれており、ユーザ側から見たときの使用感は従来のWi-Fi®とほぼ同じであると言えます。具体例としては、以下が挙げられます。
11ahを技術目線で見るとWi-Fi® 5(IEEE 802.11ac)の仕様がベースになっているものの、920MHz帯のLPWAとしても使えるようにするために変更が加えられている部分もありますので、以下で代表的なものを紹介します(注26)。
11acの帯域幅は20/40/80/160MHzで規定されています。しかし、各国のサブギガ帯で使える帯域幅は限られており、日本の920MHz帯では7.6MHzしか使えません。そこで、11ahの帯域幅は11acの1/10(2/4/8/16MHz)とし、更に1MHzの帯域幅をサポートしています。ただし、国内では前述の理由から現在は1/2/4MHzの帯域幅のみ使用可能となっています。
ちなみに、11ahでは図-4に示すように帯域幅を狭くした方が伝送距離を稼ぎやすくなります。主な理由としては、帯域幅が狭い方が干渉を防げることや、周波数あたりの電力密度が高くなることが挙げられます。ただし、帯域幅が狭いとOFDMのサブキャリア数が減るため、後述する変調符号化方式(MCS)が同じ場合は伝送速度が落ちることになります。
11ahでは、帯域幅を狭くするためにOFDMのサブキャリア間隔を11acの1/10である31.25kHzに規定しています。これは、11ac用の無線チップの動作クロックを1/10に下げることで実現することを想定したものです。したがって、図-5に示すようにOFDMのシンボル時間は11acの10倍の32usになります。また、ガードインターバル(GI)長も11acより10倍以上長く設定でき、屋外かつ長距離であっても安定した伝送が可能となります。これは、図-6に示すように、マルチパスによる遅延波の遅延時間がGI長に収まる場合は、OFDM信号を復調する際にシンボル間干渉の影響をなくすことができるためです(注27)。
表-3に11ahの変調符号化方式(Modulation and Coding Scheme)と物理層のデータレートを示します。11ahのMCS は11acをベースとしており、MCS Index 0~9における変調方式と符号化率は11acとまったく同じです。したがって、MCS Index 0〜9の間はIndexが大きいほど一度に変調できるビット数が多くなるためデータレートは速くなります。ただし、前述のとおり帯域幅が11acの1/10になっているため、11acと比較するとデータレートも1/10となります。MCS10は11ah 専用に制定されたもので、帯域幅1MHzのみでサポートしています。MCS0を2回繰り返して送信することで、速度は落ちますが通信の安定性を確保しています。
ちなみに、MCSを自動で切り替える機能を備えている機器も多いですが、無線のRSSIやSNRの値をチェックして制御する場合が多いようです。
表-3のデータレートですが、表記している数字は物理層における規格上の最大値であるため、実際の速度はこれよりも落ちるという点には注意しなければなりません。特に、11ahではカメラの映像をストリーミングするといった(LPWAとしては)比較的容量の大きい通信を常時行うようなユースケースが多いため、他のLPWAの規格以上に、電波法で規定される920MHz帯の10%Dutyのルールに気をつける必要があります。10%Dutyルールとは、簡単に言うと、限られた周波数帯域を皆が効率良く使えるようにするために、それぞれが電波を飛ばす時間を1時間に360秒(10%)以下になるようにする、というものです。そのため、通信の連続性を担保するために通信を細切れにして(速度を1/10に抑えて)あげる必要があります(注28)。結果としては、11ahで常時通信をする場合の通信速度は表-3に記載したデータレートの更に1/10以下(11acと比較すると1/100)になってしまいます。
その他の11ahの特徴としては、誌面の都合ですべては記載しませんが次のような機能も有しています。ちなみに、省電力化機能とBSS Coloringは後発のWi-Fi® 6(IEEE 802.11ax)でも採用されています。
11ahの通信環境構築に関しては、LoRaWAN®の場合と共通する事項の他に、帯域幅やMCSなど別途考慮しなければならない事項もあります。
RSSI/SNRはLoRaWAN®同様重要で、通信の目安としては機器にもよりますがそれぞれ-85dBm/15〜20dB以上はあった方が良いようです。RSSIに関しては図-2と照らし合わせて見た場合、障害物のない屋外で1km程度の通信を行いたい場合には3〜4m以上のアンテナ高さが必要になってきます。
SNRに関しては、帯域幅を変えたり、MCSを変えたりして許容可能な値をある程度操作することは可能ですが、前述の10%Dutyルールを踏まえた通信速度を考慮した上で、実際の通信状況も見ながら調整を行う必要がありそうです。
他の920MHz帯システムとの干渉については、802.11シリーズとしてCSMA/CAを行うことになっているため、11ahが他のシステムを妨害することはまずありません。しかし、11ahは比較的帯域幅を使う規格であるために、チャネルが混雑している場合には11ah側が待機する時間が多くなる可能性はありますので、事前にチャネルの混雑状況を確認しておくのも有効です。更に、1つのAPに常時通信するカメラを複数接続するような場合も、台数が多すぎると通信が成立しなくなる可能性があるため注意しておく必要があります。
通信エリアの確保に関しては、AP機器によってはリレー機能に対応しているものもあるため、1ホップでの伝送距離確保が厳しい場合やアンテナの見通しが確保しにくい場合などにはそういったものを活用するのも1つの手段でしょう。また、通信状況の確認に関しては、これも機器の仕様にはよりますが、そのような機能を標準で備えているものもあります。
IIJでは、昨年から今年にかけて屋外(荒川の河川敷)で11ahの性能評価実験を行いました(注29)(注30)。
1回目の実験は常時通信ではない状態(10%Dutyによる速度制限が掛からない状態)でiPerfによる速度調査を行い、2回目の実験はiPerfに加えて実際に動画を常時伝送した状態(10%Dutyによる速度制限を掛けた状態)で行いました。実験結果のサマリを表-4に示します。
1回目の結果では、道路による反射などの影響もあり、必ずしも距離に反比例して速度が下がるわけではないことが分かりました。帯域幅4MHzの場合は、100m地点では2Mbps以上を出しているものの、800m地点では100kbpsを下回るなど、長距離を飛ばしにくい傾向も見えます。また、MCSを自動で選択する設定にしていたので、RSSI/SNRが変動すると通信が安定しにくいということもあるようです。距離1000m以下では、受信アンテナ高さが1.8mの状態で実験を行っていましたので、この場合は800mあたりを境に2波モデルにおけるRSSI の推定値が-85dBmを下回っていくことになります。したがって、そのあたりの距離を境に通信状態が悪くなったというのはそこまで違和感のない結果と言えます。なお、受信アンテナ高さを人手で約4mに変更した場合は1km以上での疎通も確認できています。
2回目の結果では、200m地点では10%Dutyの制限がかかっていても、MCS7で動いていたためそれなりの速度が出ていることが分かります。しかし、MCSを1回目と同様に自動の設定にしていたため、距離が延びるとMCSも不安定になる傾向も見られ、800mを超えると通信が難しくなりました。この地点でのRSSI測定値は平均して約-82dBmであったことや、2波モデルによる推定を加味すると、ここが限界地点であったというのは妥当と言えます。
動画の伝送状態に関しては、フレネルゾーン内部の車両の通過などにより動画のコマ落ちが発生する場合もありましたが、高画質にこだわらない監視の用途(河川の水位など)であれば800mの距離でも十分使用できるでしょう。使用するアンテナ、帯域幅やMCSの工夫次第ではより長距離でも速度を稼げる可能性があります。
11ahで映像伝送以外のユースケースの可能性があるものとしては、次のようなものが挙げられます。基本的には、従来の方法だと通信のスペック的に厳しい場合や、回線の設置・ランニングコストが見合わない場合に11ahが当てはまることが多いようです。
これらのように社会インフラとして利用されていくためには価格も重要な要素になってきますが、11ah対応の製品(機器、通信モジュール、半導体など)はまだそれほど市場に出てきていないというのも現状です。そのため、まだまだ価格的に既存のWi-Fi®と比較しても割高な印象です。国内ではIIJも正会員として参加している「802.11ah推進協議会」が中心となって市場を盛り上げていけるよう活動を進めており、海外のベンダーの協力も得ることで、製品のラインナップも徐々に増えてきています。一方で、異なるベンダーの機器間での相互接続性にはまだ課題があるようです。ここに関しても802.11ah推進協議会の枠組みの中で取り組んでいるところですので、今後はより使いやすくなっていくことが期待されます。
また、今後の注目したい動きとしては、850MHz帯の利用です(注31)。現在850MHz帯はデジタルMCAに割り当てられていますが、2029年のサービスの終了に伴い空くことになります。この帯域が11ahに割り当てられると、より広帯域での通信が可能になったり、前述の10%Dutyのルールがない状態で使えるようになる可能性が高く、更なるユースケースの拡大が見込まれます。850MHz帯を使うことで他のシステムとのバッティングも回避できるため、LoRaWAN®などの他のLPWAとの併用がより行いやすくなったり、それらのバックボーンネットワークとして機能できる可能性もあります。5年後の話なのでまだ先ではありますが、段階的に一部の帯域のみを使えるようにする計画もあるようです。総務省が提示している予定では今年の秋頃を目処に技術的要件を取りまとめることになっているので、この記事が公開される頃にはより具体的な情報が出てきているかもしれません。
IIJにおけるLPWAの取り組みとして、LoRaWAN®及びWi-Fi HaLow™(IEEE 802.11ah)について紹介しました。LoRaWAN® は既にワールドワイドで活用されており、オープンでつながりやすいという強みも活かしながら、国内においても更なる広がりが期待されます。HaLowはまだこれからという部分もありますが、IP通信をサポートしており、既存のLANやWi-Fiシステムからの切り替えが簡単であるといったメリットもあるため、引き続き動向をウォッチしつつ、新たなサービスへつなげることができるよう取り組んでまいります。
執筆者プロフィール
三宅 伸明 (みやけ のぶあき)
IIJ IoTビジネス事業部 営業部
斉藤 翔太 (さいとう しょうた)
IIJ IoTビジネス事業部 技術部 センシングサービス課
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