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ECサイトやSNS、動画配信サービスなどの利用拡大、さらにはIoT(モノのインターネット)、AI、5GなどのICTサービスの本格始動にともない、インターネットへつながるデジタルデータは爆発的な増加傾向にあります。その処理・保管を行うデータセンターの需要も高まり、市場規模は年10%ペースで拡大しています。本日は、IIJ基盤エンジニアリング本部データセンター技術部の堤さん、三村さんに最新のデータセンターについて語っていただきました。
まずデータセンターの役割を簡単に教えてください。
堤: データセンターは、巨大なコンピュータ(サーバ)群が稼働し、インターネット上のさまざまなユーザと相互に繋がっている施設です。本施設では、このコンピュータ群が扱う膨大なデジタルデータを安全かつ確実に、処理・保管する環境を提供します。インターネットを利用したサービスの発展には、このデータセンターの安定稼働が欠かせず、政府が推進している「デジタル社会の実現」*1にも寄与する重要な施設です。
インターネット上のデジタルデータが爆発的に増加していますが、データセンターは物理的な規模を拡大し続けていれば問題はないのですか。
堤: データセンター内にどんどんコンピュータを増やしていけば済むかといわれると、そう簡単な話ではありません。
データセンターには、コンピュータだけがあるわけではなく、電気や空調用の設備、セキュリティ対策用の設備などさまざまな異なる要素があり、それらを建物の中で協調させながら、いかに効率的に稼働させるかを考えなくてはなりません。
そして、IT機器の稼働によって生じる「熱」も厄介です。
IT機器の熱を取り除くための空調設備自体が、大きな電力を消費してしまうわけですね?
PUEは、IT機器以外の各種設備の消費電力をどれくらい低減できているかを表し、IT機器にかかる消費電力のみであれば1となる指標で、冷却のための空調の電力が膨らむほど、数字が大きくなります。
一世代前のデータセンターではPUE2.0以上ということも少なくありませんでしたが、IIJが2019年に千葉県白井市に開設した「白井データセンターキャンパス」(以下、白井DCC)では、高水準な省エネ性といえるPUE1.2台を目指しています。この数値は、空調にかかる電力消費が非常に少ないことを意味しています。
なるほど。ちなみに暑い夏の外気では冷却は難しくないでしょうか。
堤: おっしゃるとおり、夏季は外気を使った冷却ができず、空調にかかる大きな電力が必要となることが課題でした。
これを何とかできないかと考え、白井DCCではリチウムイオン蓄電池を活用し、夏場のピーク電力の削減に取り組んでいます。
そもそもIIJが自社データセンターを建てた経緯を教えてください
堤: 現在、20カ所以上のデータセンターを運営していますが、他の事業者のデータセンターを利用するパターンと、自社で構築するパターンがあります。
それぞれ長所がありますが、前者では、主に2010年頃からのクラウド台頭において、需要が大規模化・多様化し、場所/電力/空調能力などの不足に悩まされることがあり、最新鋭の自社データセンターを構築することで、そのニーズに対応しやすい環境を整備しています。
利用ニーズの変化に合わせて柔軟に変更できる「環境」とはどのようなものですか。
三村: 白井DCCでは、さらに需要の大規模化に対応するため、モジュール構造をより大きな単位で実現する「システムモジュール」と呼ばれる工法を採用しました。コンテナを大量に並べる案もありましたが、コンテナを構成する壁が増えてしまい、スペースやコスト効率が悪くなります。白井DCCでは、コンテナそのものは使用していませんが、松江で得られた知見をすべてフィードバックしています。
三村: IIJは日本初の商用インターネット接続事業者として、これまでさまざまな「初」にチャレンジしてきました。白井DCCでも先進性やチャレンジ精神を大切にしています。それは、労働環境への配慮にも反映されています。
お客様だけでなく、働く方たちにとってもメリットのあるデータセンターを目指しているのですね。
三村: そうです。私自身、データセンターは「人が働きやすい環境」であってほしいと願っていますし、それが優秀な人材確保の一助にもなると考えています。
データセンターは24時間365日体制の常時監視を行い、必要な保守を実施し、片時も気が抜けません。営業時間外に行う作業や緊急の障害対応、また平日夜間や休日にお客様が入館することも珍しくないため、そのアテンドも必要です。一方、要求されるオペレーションも高度化しており、サービスの提供品質を維持することが容易ではなくなりつつあります。
また、国の労働人口が減少していく中で、データセンターの運用に必要な人材確保も課題となってきています。
三村: しかし、労働環境の改善といっても、大小さまざまな課題があります。
例えば、従来のデータセンターでは安定稼働のため、IT機器に対して強い冷却風を常時送り込むのですが、これがエンジニアの体力を消耗させていました。そこでこの風が彼らに直接当たらないよう、空調設備を工夫しました。その他にもエンジニアへ何度もヒアリングを行い、業務環境の改善を重ねています。
また、突発的な緊急対応や作業が発生した場合などに、松江DCPと白井DCC間の業務をリモートでカバーし合う試みも始めています。こちらは自社のデータセンター同士だからこそ可能な対応になります。
その他、人材不足に対する特別な取り組みはありますか。
巡回警備/サーバルームへお客様のご案内 など
入館者情報のシステム登録/レポート作成/監視システム上に警報が大量に発生した際における重要な警報の選別や抽出/空調制御の最適化 など
これらの仕組みの検証・評価にはさまざまな苦労がともないますが、本格運用に向けて準備を進めているところです。
AIやロボットの活用で「24時間365日、気が抜けないデータセンター」のイメージも大きく変わっていきそうですね。
三村: そのような認識は、今後変わっていくのではないかと思っています。AIやロボットが異常感知への対処やメンテナンスを行い、またデータセンター同士がシームレスに接続されれば、場所や時間に縛られずにエンジニアが働ける時代になるかも知れません。いつかそうならなければいけないとも思います。
2020年度はこれまで準備したシステムが本格的に動き出すので、白井DCCのコンセプト「FacilityをSoftwareでSmartに、知性を持つデータセンターへ」の通り、安定した設備システムの稼働を見守りつつ、データセンターの更なる発展に貢献していきたいです。
堤: 今後、蓄電池以外にも太陽光発電を取り入れ、余った電気を地域で活用いただくなど、データセンターから収益を生み出す可能性についても検討を始めています。新技術が次々と実用化される中で、従来の常識にとらわれず、新しいファシリティの形を追求していけたらと思っています。
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