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IIJ.news Vol.168 February 2022
安全・安心な決済インフラとしてデジタル通貨に注目が集まっている。
本稿では、ディーカレット DCP が事務局を務める「デジタル通貨フォーラム」で検討されている「二層構造デジタル通貨プラットフォーム」の概要を紹介する。
株式会社ディーカレットホールディングス 兼 株式会社ディーカレット DCP 代表取締役社長
時田 一広
1995年IIJに入社。2005年6月に取締役就任、2010年4月からは常務執行役員・金融システム事業部長兼クラウド事業統括として、IIJのクラウド事業全体を統括。2018年1月株式会社ディーカレット設立。同社よりデジタル通貨事業を承継されたディーカレット DCP 代表取締役社長。
経済のデジタル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)への社会的要請が大きく高まっています。その背景には、近年のデジタル技術革新、スマートフォンなどデジタルデバイスの急速な普及、これにともなうデータ量の飛躍的増加やデータ活用の可能性の広がりなどが挙げられます。さらに、新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受け、物理的な接触を避けながら経済活動を維持するためのデジタル化への取り組みは、類を見ないスピードで変革を引き起こしました。
こうした時代背景を受け、デジタル技術を活用した安全・安心な決済インフラが求められるようになりました。その一つが、世界中で研究・検討が進められているブロックチェーンや分散台帳など、新しいデジタル技術を利用しながら価値の安定を図ることを目的とした「ステーブルコイン」や、中央銀行が自らデジタル決済手段を発行する「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」などを総称した「デジタル通貨」です。
ディーカレットDCPが事務局を務める「デジタル通貨フォーラム」が取り組んでいる二層構造を持つデジタル通貨は、銀行を発行主体とし、円と完全に連動する円建てのデジタル通貨として設計されています。デジタル通貨を発行・送金・償却するために「共通領域」と「付加領域」と呼ばれる2つの領域を設け、これらを連携させる仕組みを「二層構造デジタル通貨プラットフォーム」と呼びます。
共通領域は、デジタル通貨の残高を記録する元帳の管理、それらに付随する業務を行なうための機能、銀行がデジタル通貨を発行するにあたり各銀行のシステムと連携するための仕組みなどを提供する領域です。付加領域は、さまざまなニーズに応じたプログラムを書き込むことができる領域です。これにより例えば、デジタル通貨をモノの流れとリンクさせたかたちで支払決済に用いることができるようになります。
このような仕組みを導入することで、モノやサービス、デジタル資産などの移転と連動したデジタル通貨の移転を、スマートコントラクトなどを用いて実現します。また、共通領域と付加領域を連動させることで、異なる付加領域間でデジタル通貨を移転させることが容易になります。
想定される例として、電力売買プラットフォームといった専用のプラットフォームを介した発電者と需要家のP2P(Peer to Peer)取引や、ST(Security Token)の取引のように複数の経済圏が存在する場合、従来は取引毎に銀行間送金などの手段で支払う必要がありましたが、デジタル通貨フォーラムが構想しているプラットフォームでは、電力売買により入手したデジタル通貨をSTの購入に利用できます。ほかにも、電力売買により入手したデジタル通貨を電子マネーにチャージし、コンビニエンスストアや公共交通機関で利用するなど、プラットフォームを通じた柔軟なやり取りが可能になります。
現在、デジタル通貨フォーラムにおいてユースケースの検討を進めている各分科会では、個々のケースを想定しながら、経済の活性化や利便性向上につながる PoC(概念実証)について検討を行なっています。そして2021年度内には PoC を開始し、その結果を踏まえ、2022年度中にはデジタル通貨およびその運用を支えるプラットフォームの実用化を目指しています。
デジタル通貨フォーラムは、今後も支払決済だけでなく、経済全般のDXに関する企業・産業横断的な意見交換や情報収集、そして幅広い主体が参加する先端的な取り組みの場として、日本における議論や実証をリードしていきたいと考えています。そのうえで、デジタル通貨やこれに関連するさまざまな調査研究、実験、そして実用化へのステップなどを通じて、日本経済全体のデジタル化やDX、さらには経済成長や人々の利便性向上に寄与してまいります。
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