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このレポートでは、毎年IIJが運用しているブロードバンド接続サービスのトラフィックを分析して、その結果を報告しています(※1)(※2)(※3)(※4)(※5)(※6)(※7)(※8)。今回も利用者の1日のトラフィック量やポート別使用量などをもとに、この1年間のトラフィック傾向の変化を報告します。
図-1は、IIJのブロードバンドサービス及びモバイルサービス全体について月平均トラフィック量の推移を示したグラフです。トラフィックのIN/OUTはISPから見た方向を表し、INは利用者からのアップロード、OUTは利用者へのダウンロードとなります。トラフィック量の数値は開示できないため、それぞれのOUTの最新値を1として正規化しています。
ブロードバンドに関しては、ここ1年のトラフィック量は、INが10%の増加、OUTが25%の増加となっています。1年前はそれぞれ18%、47%の増加でしたので、多少伸びが鈍ってきたと言えます。
モバイルに関してはここ3年のデータしかありませんが、この1年でINが103%増加、OUTが70%増加しています。こちらも1年前の125%と137%に比べ、伸びは鈍化しているものの依然として大きく伸びています。ただし、総量ではまだブロードバンドよりひと桁少ない状況が続いています。
今回も前回までと同様、ブロードバンドに関しては、個人及び法人向けのブロードバンド接続サービスを調査対象とし、ファイバーとDSLによるブロードバンド顧客を収容するルータで、SampledNetFlowにより収集した調査データを利用しています。モバイルに関しては、個人及び法人向けのモバイルサービスを対象とし、使用量についてはアクセスゲートウェイの課金用情報を、使用ポートについてはサービス収容ルータでのSampledNetFlowデータを利用しています。
トラフィックは平日と休日で傾向が異なるため、1週間分のトラフィックを解析しています。今回は2017年5月29日から6月4日の1週間分のデータを用い、前回解析した2016年5月30日から6月5日の1週間分と比較しました。
ブロードバンドの集計は契約ごとに行っていますが、モバイルでは複数電話番号の契約があるため電話番号ごとに集計しています。ブロードバンド各利用者の使用量は、利用者に割り当てられたIPアドレスと、観測されたIPアドレスを照合して求めています。また、NetFlowではパケットをサンプリングして統計情報を取得しています。サンプリングレートは、ルータの性能や負荷を考慮し、1/8192から1/16382に設定されています。全体の使用量は観測された使用量にサンプリングレートの逆数を掛けることで推定しています。
なお、IIJの提供するブロードバンドサービスにはファイバー接続とDSL接続がありますが、今ではファイバー接続の利用がほとんどです。2017年に観測されたユーザ数の97%はファイバー利用者で、ブロードバンドトラフィック量全体の99%を占めています。
まず、ブロードバンド及びモバイル利用者の1日の利用量をいくつかの視点から見ていきます。ここでいう1日の利用量は各利用者の1週間分のデータの1日平均です。
図-2及び図-3は、ブロードバンドとモバイル利用者の1日の平均利用量の分布(確率密度関数)を示します。アップロード(IN)とダウンロード(OUT)に分け、利用者のトラフィック量をX軸に、その出現確率をY軸に示した上で、2016年と2017年を比較しています。X軸はログスケールで、10KB(104)から100GB(1011)の範囲を示しています。一部の利用者を除き、おおむね100GB(1011)までの範囲に分布しています。
ブロードバンド(図-2)のINとOUTの各分布は、片対数グラフ上で正規分布となる、対数正規分布に近い形をしています。これはリニアなグラフで見ると、左端近くにピークがあり右へなだらかに減少する、いわゆるロングテールな分布です。OUTの分布はINの分布より右にずれており、ダウンロード量がアップロード量と比べてひと桁以上大きいことを示します。2016年と2017年で比較すると、INとOUT共に分布の山が右に少し移動しており、利用者全体のトラフィック量が増えていることが分かります。
右側のOUTの分布を見ると、分布のピークはここ数年間で着実に右に移動していますが、右端のヘビーユーザの使用量はあまり増えておらず、分布の対称性が崩れてきています。一方で、左側のINの分布は左右対称で、より対数正規分布に近い形です。
モバイル(図-3)の場合、ブロードバンドに比べて利用量は大幅に少ないことが分かります。また、使用量に制限があるため、分布右側のヘビーユーザの割合が少なく、左右非対称な形になります。極端なヘビーユーザも存在しません。外出時のみの利用や、使用量の制限のため、各利用者の日ごとの利用量はブロードバンドよりばらつきが大きくなります。そのため、1週間分のデータから1日平均を求めると、1日単位で見た場合より利用者間のばらつきは小さくなります。1日単位で同様の分布を描くと、分布の山が少し低くなり、その分両側の裾が持ち上がりますが、基本的な分布の形や最頻出値はほとんど変わりません。
表-1は、ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量の平均値と中間値、分布の山の頂点にある最頻出値の推移を示します。分布の山に対して頂点が少しずれているので、最頻出値は分布の山の中央に来るように補正しています。分布の最頻出値を2016年と2017年で比較すると、INでは56MBから79MBに、OUTでは1000MBから1260MBに増えており、伸び率で見ると、INとOUTそれそれで1.4倍と1.3倍になっています。一方、平均値はグラフ右側のヘビーユーザの使用量に左右されるため、2017年には、INの平均は520MB、OUTの平均は2624MBと、最頻出値よりかなり大きな値になりました。2016年には、それぞれ475MBと2081MBでした。モバイルの方(表-2)はヘビーユーザが少ないため、平均と最頻出値が近い値になります。2017年の最頻出値は、INで7MB、OUTで79MBで、平均値は、INで12.0MB、OUTで77.4MBです。最頻出値の伸び率は、INは昨年と同じ値で1倍、OUTは1.3倍となっています。
図-4及び図-5では、利用者5,000人をランダムに抽出し、利用者ごとのIN/OUT使用量をプロットしています。X軸はOUT(ダウンロード量)、Y軸はIN(アップロード量)で、共にログスケールです。利用者のIN/OUTが同量であれば対角線上にプロットされます。
対角線の下側に対角線に沿って広がるクラスタは、ダウンロード量がひと桁多い一般的なユーザです。ブロードバンドでは、以前は右上の対角線上あたりを中心に薄く広がるヘビーユーザのクラスタがはっきり分かりましたが、今では識別ができなくなっています。また、各利用者の使用量やIN/OUT比率にも大きなばらつきがあり、多様な利用形態が存在することが窺えます。ここでは2016年と比較しても違いはほとんど確認できません。
モバイルでもOUTがひと桁多い傾向は同じですが、ブロードバンドに比べて利用量は少なく、IN/OUTのばらつきも小さくなっています。また、クラスタの傾きは対角線より小さくなっており、使用量の多いユーザほどダウンロード比率が高くなっていることが分かります。昨年と比較すると、クラスタから外れてその上部に散見される、アップロード量の方が多い利用者が増えています。これは、一部の利用者がモバイルでビデオ中継をするようになって来た影響ではないかと思われます。
図-6及び図-7は、利用者の1日のトラフィック量を相補累積度分布にしたものです。これは、使用量がX軸の値より多い利用者の、全体に対する割合をY軸に、ログ・ログスケールで示したもので、ヘビーユーザの分布を見るのに有効です。グラフの右側が直線的に下がっていて、ベキ分布に近いロングテールな分布であることが分かります。ヘビーユーザは統計的に分布しており、決して特殊な利用者ではないと言えます。モバイルでも、OUT側ではヘビーユーザはベキ分布していますが、IN側では昨年よりも直線的な傾きが崩れていて、大量にアップロードするユーザの割合が大きくなっています。
また、利用者間のトラフィック使用量には大きな偏りがあり、結果として全体は一部利用者のトラフィックで占められています。例えば、ブロードバンドでは上位10%の利用者がOUTの60%、INの85%を占め、更に上位1%の利用者がOUTの25%、INの59%を占めています。ただし、ここ数年のヘビーユーザ割合の減少に伴い、僅かながら偏りは減少傾向にあります。一方モバイルでは、上位10%の利用者がOUTの48%、INの62%を、上位1%の利用者がOUTの13%、INの39%を占めています。ここ数年でINのヘビーユーザ割合は増えていますが、全体としては、ブロードバンドに比べてモバイル利用者のヘビーユーザ割合が少ないことが分かります。
次に、トラフィックの内訳をポート別の使用量から見ていきます。最近では、ポート番号からアプリケーションを特定することは困難です。P2P系アプリケーションには、双方が動的ポートを使うものが多く、またクライアント・サーバ型アプリケーションの多くは、ファイアウォールを回避するため、HTTPが使う80番ポートを利用します。そのため大きく分けて、双方が1024番以上の動的ポートを使っていればP2P系のアプリケーションの可能性が高く、片方が1024番未満のいわゆるウェルノウンポートを使っていれば、クライアント・サーバ型のアプリケーションの可能性が高いと言えます。そこで、TCPとUDPで、ソースとデスティネーションのポート番号の小さい方を取り、ポート番号別の使用量を見てみます。
なお、全体トラフィックの大半がヘビーユーザで占められているので、一般利用者の動向を知るために、多少ざっくりとした手法ですが、1日のアップロード量が100MB未満のユーザを抜き出し、これをライトユーザとします。これは図-4ではIN=100MBにある水平線の下側の利用者に当たり、おおむねモバイル利用者の使用量に相当します。
表-3はブロードバンド利用者のポート使用割合を、全体とライトユーザについて、2016年と2017年で比較したものです。2017年の全体トラフィックの84%はTCPです。HTTPSの443番ポートの割合が31%から43%に増え、ついにHTTPの80番ポートを超えました。HTTPの80番ポートの割合は2016年の37%から28%に減少し、以前から続いているHTTPからHTTPSへの移行が更に進んだことが分かります。減少傾向のTCPの動的ポートは、2016年の14%から2017年には11%にまで減りました。動的ポートでの個別のポート番号の割合は僅かで、Flash Playerが利用する1935番が最大で総量の約1%ありますが、あとは0.3%未満となっています。TCP以外のトラフィックでは、UDPでもHTTPSの443番ポートのトラフィックがあり、GoogleのQUICプロトコルだと思われます。他はほとんどがVPN関連です。
一方、ライトユーザに限ると、HTTPSの443番ポートが、2016年の40%から53%へと13ポイント増えており、2016年には49%を占めていた80番ポートは、2017年には35%へと14ポイント減少しています。ライトユーザのポート使用割合は、全体トラフィックと比べても差がなくなってきています。
表-4はモバイル利用者のポート使用割合で、ここでも全体的にブロードバンドの利用者の数字に近い値となっていて、モバイル利用者もブロードバンドと同様のアプリケーションの使い方をしていることが窺えます。
HTTPSの利用拡大については、2013年6月に米国家安全保障局(NSA)の通信傍受プログラムの存在が問題になって以降、暗号化通信を行うHTTPSを常時使用するサービスが米国を中心に増えてきているためです。2017年のデータでHTTPSを利用するトラフィック量について事業者別内訳を調べると、その約5割はGoogle社関連です。約7割を占めていた昨年と比べると、他社でもHTTPSへの移行が進んでいることが分かります。
図-8は、ブロードバンド全体トラフィックにおけるTCPポート利用の週間推移を、2016年と2017年で比較したものです。ここでは、TCPのポート利用を80番、443番、その他のウェルノウンポート、動的ポートの4つに分けてそれぞれの推移を示しており、ピーク時の総トラフィック量を1として表しています。2016年と比較すると、全体でも443番ポートの割合が更に増え、動的ポートの利用が減少している傾向が確認できます。全体のピークは19:00から23:00頃で、443番ポートのピークは80番ポートのピークより若干早くなっています。土日には昼間のトラフィックが増加しており、家庭での利用時間を反映しています。
図-9のモバイルでは、トラフィックの大半を占める80番ポートと443番ポートについて推移を示します。モバイルでは443番ポート割合が更に大きくなっています。ブロードバンドに比べると、朝から夜中までトラフィックの高い状態が続きます。平日には、朝の通勤時間、昼休み、夕方17:00ごろから22:00ごろにかけての3つのピークがあり、ブロードバンドとは利用時間帯が異なることが分かります。
この1年間のブロードバンドトラフィックの傾向として、ここ数年加速していたトラフィック量の増加が少しペースダウンしてきた点が挙げられます。この1年間でダウンロード量は25%、アップロード量も10%増加し、依然として伸びてはいますが、それぞれ47%増、18%増だった昨年と比べ、伸び率は低下しています。その要因として、この一年については大型アップデートや話題となるストリーミングサービスの登場が少なかった点が挙げられます。また全体として、ソフトウェアアップデートの頻繁化や大型化が一段落してきたことや、定額制の音楽配信や動画配信のストリーミングサービスの普及が一巡したことも挙げられます。
モバイルトラフィックについても増加率は少し下がって来たものの、この3年間で大きく伸びてきています。ブロードバンドと比べてヘビーユーザの割合が少なく、利用時間では平日の通勤時間帯や昼休みの利用が目立つなどの違いがあります。
また、3年ほど前からHTTPSの利用が大きく拡大してきており、ついにHTTPを超え、ブロードバンドの43%、モバイルの53%がHTTPSになりました。しかし、まだHTTPS化されていない商用コンテンツも多く残っており、今後もHTTPSへの移行が進むと予想されます。
執筆者プロフィール
長 健二朗 (ちょう けんじろう)
株式会社IIJ イノベーションインスティテュート 技術研究所所長。
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