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コラム|Column

タイ経済の「今」

さて、ここからはあまり報道がされていない2016年度のタイ経済の現状に関してまとめていきたいと思います。

2016年度は引き続き世界的な経済鈍化の影響を受け、自動車産業、電気機械産業、電子部品産業などの製造業は横ばいまたは低成長が予想されています。

農業分野は30年ぶりの干ばつの影響を受けており農産物価格が上昇し始めています。タイは世界有数のコメ輸出大国であり、その他砂糖の生産、野菜・フルーツの輸出などでも大きな企業が活躍しています。エビ、ツナなど魚介類の生産・輸出も拡大を続けています。

不動産業分野では、タイ政府の推進する不動産減税政策などの影響があり、前年比で大きく伸び始めています。この分野では日本の不動産大手も積極的にビジネスを展開していて、三井不動産はタイの不動産大手アナンダ・デベロップメント(ANAN)との合弁でコンドミニアム開発を進めていて、三菱地所もタイの不動産大手APタイランドとの合弁でコンドミニアム開発を発表。東京急行電鉄も消費財大手サハ・グループとチョンブリ県で日本人向け賃貸住宅事業を開発しています。

観光業でも、中国人を筆頭に近隣アセアン各国からの観光旅行者が大きく増加しており、2016年度もその数は大幅に増加する見通しです。この分野ではH.I.S.などがバンコク都内のいたるところで支店を設置しており、日本の各都道府県の観光地をタイ語で案内しています。

その他に、経済全体に影響を与えると考えられるのが、タイの軍事政権で発表されている大型インフラプロジェクトです。
2015年後半に景気テコ入れとして発表されたもののなかに、カンボジア、ラオス、ミャンマーの国境地域に経済特区を設置しスーパークラスター制を導入するという政策があります。タイの地方経済の活性化を目指し、同時にタイ国内の交通インフラ整備に2兆バーツ(約7兆円)の大規模交通インフラ整備を開始するとしています。地方に伸びる鉄道の複線化と、高速鉄道の建設、バンコクでは既に一部路線は着工していますが、今後タイで11の鉄道ラインを完成させていく計画です。

このような背景をもとにして、タイ国家社会経済開発委員会NESDBでは、2016年度のタイ経済成長予測を+3.0~4.0%成長と予想しています。タイ政府の景気対策と大型インフラプロジェクトの進展により、政府投資と民間消費が加速するとみているのです。 また、IMFは+3.0%の成長を予測しています。国内の民間投資が停滞するという予測の一方で、タイ政府が進めるインフラ投資が内需の回復を助けると分析、さらに観光業の活性化などが経済成長に貢献する見通しを出しています。

AECの影響

もう一つの大きな動きとしては、ASEAN経済共同体(AEC)の誕生があります。2015年末に発効され、ASEAN域内で「モノ、ヒト、カネ」の自由化が段階的に進められています。
「モノ」の部分では、ほぼ関税のない品目が既に多数を占めているので、AEC発足によって大きなインパクトが直ちに生まれることはないものの、AECを目前にしてタイの企業・財閥はここ数年積極的に周辺国への展開を進めています。

タイからインドネシア、ベトナム、フィリピン、カンボジア、ミャンマー、ラオスなどへ進出や買収を仕掛けるケースも目立つようになってきています。酒造最大手タイ・ビバレッジ・グループは、2020年までに東南アジア最大の飲料企業グループを目指す計画を発表していて、2012年にはシンガポール飲料大手フレーザー・アンド・ニーブ(F&N)を買収し傘下に収めました。同業のシンハー・グループではベトナムの消費財大手マサン・グループ子会社に25%の出資を決定しています。
商業大手セントラル・グループはベトナムのBIGCブランドを購入するなど、次々と隣国への展開を広げています。

2016年以降のタイ

2016年度に注視すべき動きとして、8月に行われる予定の「憲法改正のための国民投票」があります。この投票は軍政でつくられた新憲法草案の是非を問う国民投票で、8月7日に実施される予定です。主な争点は、首相選出において2大政党が不利になる選挙制度に変更されている点、大政党の力が弱まることについてタクシン派、反タクシン派政党からも批判が出ています。この国民投票で承認されれば、民政移管に向けた総選挙が2017年半ばにも実施される見通しで、否決されれば民政復帰はさらに遠のくとされています。

もう一つ注視すべきなのは「人件費の高騰」です。優秀、優秀でないを問わず、アジア全体で人件費の上昇が続いていますが、タイも例外ではありません。2016年時点で、タイ人の新卒給与は12,000~15,000バーツ/月額とされていますが、肌感覚ではそれ以上出さないと優秀な人材は採用しにくいと感じています。
しかし、雇う側としては人件費高騰が企業の大きな負担にもなりますが、給与水準が上がることで、今後消費もさらに活発化になり経済全体がさらに活性化することも期待できます。

2016年は中間層の増大、サービスの多様化、インターネットインフラの普及によるさまざまなビジネスチャンスが生まれると考えられています。軍政による民政移管が2017年以降にずれ込んでいることを踏まえ、それら新たな流れを逃さず、的確にビジネスチャンスを捉えていくことが、日系企業にとって重要になって行くことは言うまでもありません。

アセアン ジャパン コンサルティング株式会社
代表取締役 阿部俊之

アセアンジャパンコンサルティング株式会社 代表取締役。
早稲田大学商学部卒業後、タイへ渡り、現在タイ国内で現地の経済情報を伝え、タイ企業のリサーチ、日系企業進出支援を行っている。タイ進出案件のコンサルティング、タイの企業支援、日系企業の海外進出支援等、精力的に活動中。アセアンの経済統合に備え、隣国の調査も開始している
『だからタイビジネスはやめられない!』等、タイ経済、タイ株式、タイ不動産に関する書籍5冊上梓。