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デジタル革命の海へ 120年前の予言

IIJ.news Vol.176 June 2023

1年、いや、半年先のトレンドすら予測できない昨今であるが、120年も前に現代のネット社会を予見した人物がいた!
デジタル革命は我々の暮らしをどう変えていくのか?データ社会の行く末に思いを馳せる。

執筆者プロフィール

IIJ 取締役副社長

谷脇 康彦

コンピュータとインターネットの登場

1901(明治34)年——今から約120年前のお正月。報知新聞(当時)に、「20世紀の予言」と題する記事が掲載された*1。その内容は20世紀中に実現するであろう未来予測。当時は東京や横浜で電話サービスが始まってまだ10年しか経っていない時代だ。

予言の題材になった分野は多岐にわたるが、そのうち科学技術の分野ではこんな予想を立ててみせる。「無線電話は東京に在るものが倫敦(ロンドン)、紐育(ニューヨーク)にある友人と自由に対話することを得べし」。今や携帯電話が「1人1台」を超えて普及し、ネット経由で世界中と通話できる。これは実現している。

次に映像伝送。「東京の新聞記者は電気力により(欧州の状況を)写真となすことを得る」とともに「その写真は天然色を現象すべし」。ネット経由で高精細の動画も自由にやり取りできる現代。これも実現済み。「電話口には対話者の肖像現出するの装置あるべし」。テレビ電話のことかと思われるが、今やスマホで自由にビデオ通話もできるので、これも実現済み。

こんなのもある。「写真電話によりて遠距離にある品物を鑑定し、かつ売買の契約を整え、その品物は地中鉄管の装置によりて瞬時に落手することを得ん」。「写真電話」を「インターネット」と置き換えれば、これもネットショッピングとして実現している。「地中鉄管」のなかを品物が移動するわけではないが、デジタル技術を活用した効率的な物流網を通じて海外からでも数日で品物が届くし、デジタルコンテンツなら瞬時に入手できる。

120年前の予言は見事に現実のものとなっている。記事を執筆した当時の作家の慧眼には驚くほかない。こうした予言が現実のものとなったのは、コンピュータの登場、そしてコンピュータ技術と通信技術が融合したインターネットの普及が最大の要因だ。これらの技術はデジタル革命を巻き起こし、社会インフラの中核となっている。このデジタルな世界は今後どのように変わっていくのだろう?

データ駆動社会の行方

高名な経営学者ドラッカーは著書『ネクストソサエティ』*2で、デジタル革命をかつての産業革命と比較して論じている。産業革命の発端となったのは18世紀後半の蒸気機関の発明。工場で大量生産を行なうことが可能となり、工場で働く労働者階級が誕生し、彼らを主役にした大量消費市場が生まれた。蒸気機関の発明は確かに社会経済の構造を大きく変えたが、ドラッカーは「そこに見られた変化は標準化されて品質のばらつきがなくなり、欠陥が少なくなったことだ」という。

その状況を一転させた非連続な変化が、19世紀前半の鉄道の登場だった。1829年に蒸気機関車が現れ、鉄道網が整備されると、大量生産・大量輸送が可能となり、工業社会の到来をもたらした産業革命はその真価を発揮することになった。まさに「鉄道こそ産業革命を真の革命にするもの」だった。

この産業革命の発展段階を、私たちが渦中にいるデジタル革命に援用してみよう。コンピュータとインターネットによって新たに生まれた「サイバー空間」という活動領域は時間と距離の制約を越えて急速に拡大し、リアル空間と一体化して、人と人がネットを介して自由につながるだけでなく、今世紀に入ってからは、WEB2.0型、つまり消費者と提供者(生産者)が直接つながるオンライン型の事業モデルが多数生み出され、著しい成長を遂げてきた。

ところが、2000年代半ばから登場したプラットフォーマーがビッグデータを握るようになって、ネット上で流通するデータの価値に人々は気づくようになった。データの力が社会経済の仕組みを変え、データによって人々の行動変容が生み出される時代に移りつつある。これまで経験したことのないような膨大な量の、粒度の細かいデータをリアル社会から超高速で収集し、AIによる高度な解析を行なうことで、今まで見えなかったものが見えて「部分最適」から「全体最適」に向かい、人手やプロセスが自動化されて「課題発見」から「課題解決」への道筋をつけるのが容易になったりする。大規模言語モデル(LLM)を使ったChatGPTも、膨大なデータの活用という意味でデータ駆動社会が生み出す大きなアウトプットの先駆けとなるだろう。分散台帳技術を活用した新しい分散型事業モデルの登場も待ったなしの状況にある。

産業革命は、第一段階の蒸気機関の発明を経て、第二段階の鉄道の登場によって真価を発揮するに至った。デジタル革命も、コンピュータとインターネットの普及という第一段階を経て、その基盤の上に第二段階のデータ駆動社会が実現していく。デジタル革命の真価が問われる非連続な変化が起きるのは、これからだ。

  1. *1横田順彌『百年前の二十世紀〜明治・大正の未来予測』(1994年、筑摩書房)。
    記事引用はWikipedia「二十世紀の予言」による。
  2. *2P.F.ドラッカー『ネクストソサエティ』(2002年、ダイヤモンド社)

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