ページの先頭です
IIJ.news Vol.176 June 2023
IIJ テクノロジーユニット シニアエンジニア
堂前 清隆
IIJの技術広報担当として、技術Blogの執筆・YouTube動画の作成・講演活動などを行っています。これまでWebサイト・ケータイサイトの開発、コンテナ型データセンターの研究、スマホ・モバイル技術の調査などをやってきました。ネットワークやセキュリティを含め、インターネット全般の話題を取り扱っています。
「いまインターネット、使えてますか?」。インターネットに関わる仕事をしていると、しばしばこういう相談を受けます。このような時、筆者は自分の手元のスマホや、その方のパソコンをお借りして適当なWEBサイトにアクセスし、画面が表示されれば、「問題なさそうですね」とお答えするのですが、内心では「答えにくい質問だな……」と考えてしまいます。
そもそも「インターネットが使える」ということは何を意味するのでしょうか? 有名なWEBサイトがいくつか表示できたら、「インターネットが使える」と言っていいのでしょうか? 昨日まで毎日アクセスしていたWEBサイトに、今日はアクセスできなくなっていたら、「インターネットが使えない」と感じてもやむを得ないと思います。
では、視点をマクロにして「インターネット全体で技術的なトラブルが起っていない」ことを確認すればいいのでしょうか? 残念ながら、そういった確認は限りなく困難です。その理由の1つに「インターネット全体」というものが定義できないことが挙げられます。インターネットは極めて柔軟なネットワークで、新しい端末やネットワークが、すでにインターネットを構成しているネットワークの一部に接続すれば、それだけでインターネットに参加できますが、こうした参加・離脱はそれぞれのネットワークがバラバラに行なうため、そもそも「インターネット全体」というのは誰にもわからないのです。
また、インターネットに参加しているネットワークやサーバがアクセスできない状態になっていても、それがトラブルによるものなのか、意図的にアクセスできない状態なのかを区別することは不可能です。過去に見聞きした事例では、海外のとある政府機関がIPアドレスによってアクセス制限をかけていたものの、その制限のかけ方が不十分だったため、日本国内からはアクセスできたりできなかったりするらしい……ということがありました。その機関がアクセス制限をかけていたことを公にしていたわけではないので、日本からアクセスできる状態が正しいのか、できない状態が正しいのか、第三者には判断がつきません。
ですので、現実的な範囲で「インターネットが使えるか」どうかを判断するには、あらかじめ「対象となるネットワーク・サーバ・端末を限定する」、「それらの対象がどのような状態にあるのが“正常”なのか」を定義しておくことが重要になります。その定義から外れた状態になったら、「インターネットが使えない」と判断できます。業務でインターネットを利用する際には、この定義の範囲を業務で利用するネットワークと合わせておく必要があります。でなければ、「有名なWEBサイトにはアクセスできるけれど、業務に必要なサーバにアクセスできない」といった時に困ったことになってしまいます。
また、「インターネットが使えない」という場合でも、その原因については留意が必要です。インターネットでは、利用者の端末がつながるネットワーク(ISPなど)と、サーバがつながるネットワーク(ISPやクラウドなど)を別々の通信事業者が管理しているのはごく一般的です。さらに、これらのネットワークの途中に、第3、第4……のネットワークが挟まる場合もあります。このため、利用者側のネットワーク、サーバ側のネットワークに故障がなくても、通信に支障が出ることがあります。つまり、利用者の視点では「インターネットが使えない」状態であっても、契約しているISPでは「故障はない」ということは十分にあり得るのです。
こうした事態に陥ると、ネットワーク管理者は、通信を他のネットワークに迂回できないか試みたり、場合によっては挙動が疑わしいネットワークの管理者に直接連絡して修正を依頼したりと、できる限りの努力を尽くすのですが、解決に時間がかかることもしばしばです。
ページの終わりです