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今では「どこまでも掘り下げて」を表現するのにピッタリなDrilldownという用語があります。Wikipediaの"Drill down"(※4)のページによれば「何かに注目しながら詳細なデータを得るために、ある場所から別の場所へと移動することを意味する」と定義されています。筆者のケースはこのページで例示されているオンラインユーザやウェブサーファーの事例が最も近いのだろうと想像していますが、注目するポイントが「計算機の歴史に関わる、あまり認知されていない文書」を発掘することにあるので、作業の中身は非常に特殊なケースなのではないかと考えています。
例 え ば・・・
7th Edition Unixではカーネルも全面的にC言語で書き換えられた。これは一般にも割と有名な話。この作業にあたったのはKen ThompsonとDennis RitchieとSteve Johnsonの3人であること、またSteve JohnsonはPortable C Compiler(PCC)の開発者であったことからこの作業に加わったことはDennis Ritchieが残した複数の文献(論文、講演資料、インタビュー)から確認することはできる。では、Steve Johnson自身が一連の開発作業について言及した文献はないか?
あるいは・・・
BSD UNIXの開発において、4BSDをリリースした際、主に3BSDとの比較でパフォーマンスが低下したことを指摘する批判が出て、その対応のためにUCBのCSRGはパフォーマンスチューニングを施した4.1BSDをリリースした。ここまではUNIXの歴史を語る多くの文献で言及されている。しかし、その実態はDavid Kashtanという人物の非常に攻撃的な批判記事にBill Joyが激怒し反撃を行った事実があることがKirk McKusickの文書で明らかになっている。それではKashtanの批判記事、及びそれに対するBill Joyの反論の内容が分かる文献はないか?
・・・といった歴史的な事実に関するDrilldownを試みるとなると、検索は非常に厄介な作業になってきます。探し当てた文献の関連箇所を読み込み、その中から新たな文献を探索するキーワードを拾い出す一連の検索サイクルを繰り返して、毎月6~10ページの記事を書くことは非常にエネルギーと集中力を要する作業で、小説家の執筆というよりはジャーナリストの記事作成に近い仕事なのではないかと想像しています。
事実、連載終了後から12年が経過して、単行本としての出版が決まった際、相当の分量の書き直しや新たな書き下ろしが必要になったので、12年前を思い出して同様の作業を再度試みたのですが・・・歴史的な事実のDrilldownは、年老いた今の筆者にはとても耐えられない程のハードな作業に変化していました。「この作業の一部だけでもコンピュータにやらせられないだろうか?」ふと、そんなことを考えるようになっていきました。
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