ページの先頭です
「ビッグデータ」という言葉は「クラウド・コンピューティング」などと同じように非常にコンセプチュアルな用語です。定義が曖昧模糊としていて意味するところが時間の経過と共に変化していくので、非常に感覚的に使われることが多いです。それ故に長く生き残っていく用語だと思います。しかし、流行りすたりのあるバズワードとしての「ビッグデータ」は、2015年の現在、賞味期限切れを迎えつつあるように感じられます。この印象は、イギリスのシンクタンクであるガートナーが毎年発表しているハイプサイクルでも、2014年には「ビッグデータ」は幻滅期に突入していることから、それなりに裏付けのある話でしょう(図-1)。
もっとも日本国内に限定したハイプサイクルでは流行期の最後に位置するので、バズワードとしての「ビッグデータ」は実に微妙な立ち位置にあるのかもしれません(図-2)。
ともあれ、ここ数年間の技術トレンドを象徴するバズワードであり続けた「ビッグデータ」も今ではやや古びてきて、今は「ビッグデータ」より少し具体化した他のバズワード、例えば「Internetof Things(IoT)」などが喧伝されることが多いように感じます。
「Internet of Things(IoT)」は、RFIDの国際標準化に貢献したKevin Ashtonが1999年に提唱した用語で、様々なオブジェクトにIDを付与することによりすべてをネットワーク化する、すなわち「モノのインターネット」を構築するコンセプトです。非常によく似た考えとして「Cyber-Physical System(CPS)」というコンセプトも知られており、こちらの方は「物理的な実体を制御するエレメントが情報を共有し協調して機能するシステム」と定義されています。いずれも「物理世界とサイバー世界を融合する」ところが共通する概念です(※1)。
今日、宅配便の荷物のタグや非接触型ICカードである定期券、あるいはスマートフォンなどには既にIDが付与されており、その移動などを追跡することが可能になっています。したがって「IDごとに生成され続ける位置情報」は文字どおりのビッグデータであり、これを分析することにより、様々な効率化・最適化を図ることができます。これがIoTやCPSが目指す「明るい未来」だとされています。例えば「スマートグリッド」や「スマートシティ」といった提案を目にしたことのある方は多いのではないでしょうか?
すなわちIoTやCPSは、本質的に社会システムの革新・刷新を目指すスケールの非常に大きなパラダイムです。その研究開発は社会生活を営む多くの人々に直接的な影響を与える可能性があります。例えば一般市民のプライバシーの問題などが挙げられます(※2)。筆者のようなビッグデータの分析手法に関心のある研究者にとって、社会的側面に配慮しなければならないという意味で、IoTやCPSに関わる研究は難しい課題を伴う研究対象であると考えます。
このような社会的問題が顕在化してくるのも、ビッグデータに関する研究開発が進展している証左だと思いますが、特にその研究の方向性を熟慮しなければならない踊り場状態にあるのが「2015年のビッグデータ研究の現状」ではないかと考えます。
実際に、IoTやCPSが指向する「実世界とサイバー空間を結びつける」アプローチは、「事実をデータ化する」という意味において、ビッグデータ分析に新たな可能性を提供してくれると思います。例えば「ある人間がある時間にある場所にいた」や「あるプラントのある箇所がある時間にある温度に達していた」といった事実を示すデータが分析に活用できるのであれば、少なくともその事実については(論理的に揺らぎのない)確定情報として扱えるので、分析結果の精度向上に寄与するであろうと推測できます。また、そのような確かなデータに基づいて分析・予測しなければならない社会的な需要もあります。例えば「原子力発電所の運転状態監視」であるとか「犯罪者の行動追跡」といった緊急性が高く、確定性が重視される分析では「事実を示すデータ」の価値は絶大です。
ページの終わりです