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ぷろろーぐ 内定者への思い

IIJ.news Vol.166 October 2021

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

10月1日、来年度から勤務が始まる新入社員の内定式があった。台風16号が伊豆諸島付近を進み、千葉県など太平洋沿岸の一部が暴風域になり、東京のオフィス街も朝から強い風雨に襲われた。内定式は新型コロナウイルスに対応するため、ネット上で行なわれた。午前と午後、2つのグループに分けて実施、画面に映し出された、たくさんの新入社員を眺めながら挨拶をした。全員が小さい画面にならび、ベタにアップされているので、普通の入社式なら眺めることができない一人ひとりの表情がはっきりわかって、それはそれで面白い。講堂にずらっと並んで椅子に腰を掛けていれば、見えなかったであろう、退屈そうに人の話を聞く内定者の表情までしっかり見えてしまう。ネットはネットで油断ならないツールである。

IIJは今年の12月3日で29年目を終え、12月4日から30年目に入る。内定者から、設立当初と現在のIIJの違いを質問され、比較しようがないのだがと断ったうえで、思いつくまま答えてみた。

「インターネット」という言葉すら知る人もおらず、ましてそれが20世紀末の巨大な技術革新であることなど知る由もなかった創業期から、なんとか潰れずに存続できた立ち上がりの時期までのIIJは、社員に対して生活費もぎりぎりといった程度の給与しか払えなかったのだが、誰もが自由に振る舞っていた。朝の出社は遅く、社外の人が見れば、終日、喧嘩のような会話ばかりしているか、開発に集中し、静寂が支配しているか、どちらかだった。激しい議論と、誰もが集中している静けさが、奇妙にバランスしていた。夜になると、安い居酒屋で終電まで話し込んでいた。せいぜい焼うどんをつまみに長々と飲み、議論を続けたわけだが、今月は給与をもらえるのか、国はいつ商用のインターネット接続サービスに許可を出すのか、そんな疑問は必ずあったはずだが、IIJはそれまで持ちこたえられるのかという、もっとも重要で深刻かつ緊急の課題については、追い込まれていた私に遠慮してか、話題にならなかった。

間もなく解体予定のビルがオフィスだった。パーティション一つない空間で活動していたわけで、私が日々、苦境にあったことは熟知していたのだ。その分、居酒屋での議論は、将来のインターネットのインフラやサービスを予知し、IIJが世界でいかにしてリーダーシップを執るのかなど、厳しい現実とはかけ離れたテーマをいつまでも話していた。今になって考えると、世界の超大企業となっているGAFAの創立は、ほとんどがIIJより後である。

IIJが米国のナスダック市場に上場したのは1999年8月、創業して6年半後のことだった。内定者のちょっとした質問に応えるうちに、30年近いIIJの歴史が次々と浮かぶ。インターネットという巨大な技術革新に、さしたる資金もないのに、正面からぶつかっては失敗を重ねたことが思い起こされる。

それにしても、IIJという企業は、インターネットという巨大な技術革新に真正面からぶつかっては、存続すら危うくなるような経験を繰り返しながら、現在に至っている企業なのである。次の世代の内定者は、どんな思いでIIJに入社してくれたのだろう。


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