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IIJ.news Vol.166 October 2021
既存オンプレミスシステムをクラウド移行する際のポイントは何か?
この課題の“最適解”として開発されたIaaS サービス「IIJ GIO インフラストラクチャー P2 Gen.2」を解説する。
IIJ クラウド本部 クラウドサービス1部長
渡井 康行
2007年、IIJに入社。2009年IIJ GIOホスティングパッケージサービスの立ち上げに開発者として参画。以来一貫してGIOパブリッククラウド系IaaSの開発及び運用に携わる。2018年より現職。IIJ GIOインフラストラクチャーP2 Gen.2の企画・開発・運用をリードする。
2021年10月、「IIJ GIO インフラストラクチャー P2 Gen.2」(以下「P2 Gen.2」)の提供が始まりました。P2 Gen.2 はGIO P2としては第二世代にあたり、2009年に提供を開始したGIOコンポーネントサービスから数えると第三世代にあたる IaaS サービスです。
P2 Gen.2 は、これまでパブリック/プライベートの2ラインで提供してきた GIO IaaS サービスを、ホステッド/プライベートクラウドに最適なかたちに再設計・統合し、IIJ が提供するマルチクラウドIT基盤において「インフラのハブ」となる IaaSを目指しています。
国内の IaaS クラウド市場は、アマゾン(AWS)、マイクロソフト(Azure)の二社を中心に、メガクラウドベンダによるパブリッククラウドサービスが牽引する状況が続いています。
IIJ も2015年からAWS、Azure、GCP(グーグル)などのパブリッククラウドサービスを取り扱っており、お客さまの要件に合わせて提案に組み込んでいます。
各社が提供するパブリッククラウドサービスは、オンデマンド性・スケーラビリティの点で特に優れており、初期投資の額や事前のキャパシティ設計の手間・リスクを大幅に引き下げてくれます。技術者である筆者も、新たに構築するシステム基盤ではパブリッククラウドを第一の選択肢として検討されることをお勧めします。
パブリッククラウドにシステムを構築する場合、どこかで既存システムとの接続が必要になることが多いのですが、弊社のクラウドエクスチェンジサービスを組み合わせることでカバーできます。この接続サービスにはIIJがインターネットバックボーンの運用で培ったノウハウが生かされており、お客さまのみならず、接続先のクラウドプロバイダからも高く評価されています。
ところで、弊社にお寄せいただく案件は、完全な新規開発というケースはそれほど多くありません。ネットワークや基盤に強いベンダとして評価をいただいていることもあり、既存のシステム基盤の保守切れをトリガーとするオンプレミス仮想化基盤のクラウド化や、アプリケーションのバージョンアップ・更改にともなうクラウド移行といった「基盤のクラウド移行」のご相談が大半を占めます。
基盤のみを対象とするクラウド移行では、移行中・移行後の基盤運用の負荷が増えない、という要求が付け加えられるのが常です。コスト削減もクラウド化の目的の一つであれば、運用コストの増加は避けたいところでしょう。
他方、基盤そのもののコストに目を向けると、単純にリソース単価だとパブリッククラウドの計算機リソースは決して安くありません。基盤のクラウド化でコスト削減を狙う場合、利用効率をモニタリングし、クラウド基盤のオンデマンド性を活用して不要なリソースを減らす、最適化の繰り返しが鍵になります。運用をそのままに、基盤だけをクラウド化して終わりにしてしまうのは、あまりにもったいないのです。
今回、P2 Gen.2 をリリースした理由もここにあります。我々が考えた一つ目のミッションは、更改のタイミングをむかえた既存オンプレミスシステムの移行先を提供すること(その際、システムや運用プロセスへの影響を最小限に抑える)。二つ目のミッションは、基盤トリガーの移行シナリオにおいて、移行後にパブリッククラウドのオンデマンド性・スケーラビリティという利点も確保すること。この二つの要件を満たす IaaS サービスとして P2 Gen.2 は開発されました。
一つ目のミッションである「既存システムの移行性を高める」ために P2 Gen.2 では、VMware vSphereベースの基盤を採用しました。オンプレミスの仮想化基盤で圧倒的なシェアを誇り、ゲストOSの後方互換を手厚くサポートする vSphere をベースとすることで、既存の仮想化基盤や物理基盤からのP2V(Physical to Virtual)、V2V(Virtual to Virtual)による移行を容易にするのが狙いです。
弊社は従来のP2でも vSphere ベースのサービスとして仮想化プラットフォームVWシリーズを提供してきました。しかし、VWシリーズの基盤のアップグレードでは、二つ目のミッションの達成が困難でした。
ご利用中の方はすでにお気づきかと思いますが、VWシリーズは VMware ESXi ハイパーバイザとvCenter Server を占有割り当てするサービスです。リソースの割り当てが ESXi 単位であるため、どうしても最小単価が高くなります。加えて ESXi をお渡ししているため、ハイパーバイザや機材の更改に利用者の関与を必要とします。サービスを長期間、安定的に運用していくうえで、この点が当初想定していた以上に利用者にとって大きな負担になっていることが、サービスを提供するなかで浮き彫りになってきました。
そこで P2 Gen.2 では、VWシリーズが抱える課題を解決し、高いオンデマンド性を実現する手段として、VMware Cloud Director(vCD)を通じて計算リソースプールを提供する、フレキシブルサーバリソースを新たにリリースします。
vCDは VMware が提供するサービスプロバイダ向け製品で、複数の vCenter Server 配下のクラスタを統合して論理的な一つの共有計算機プールとし、そこから利用者毎の論理プールを切り出して提供する機能を備えています。このvCDを用いて vSphere層を利用者から隠蔽することで、vSphere 並みに柔軟なリソース制御権限をお渡ししつつ、ハイパーバイザやハードウェアのライフサイクル管理をサービスプロバイダとしてIIJ が受け持つという、新しい共同責任モデルのサービスが実現されるのです。
vCDによって vSphere クラスタの構成を隠蔽すると、サーバおよびストレージプールもより大規模化・高集約化できます。P2 Gen.2 では、P2パブリックリソースで培った1000台超の大規模サーバプールの設計・運用ノウハウを投入しています。さらに、P2パブリックリソースの基盤設計を改良し、レイヤ3で構成したIPファブリック上に VMware NSX-T によるオーバーレイネットワークとして利用者毎のネットワーク空間(VPC)を構成する設計を採用しました。これにより利用者は、サーバプールの物理配置に縛られることなく、ネットワークおよび論理サーバリソースプールを自由に追加・拡張できるようになります。
ちなみに、NSX-Tは非常に高機能なSDN(Software-Defined Network)製品なのですが、高機能なだけに扱いがむずかしく、ともすれば基盤移行の障壁となるため、現在の P2 Gen.2 ではあえて機能を絞って提供しています。SDNは今後のIIJのクラウドを支えるコア技術ですので、利用者にも直接そのメリットを享受していただけるよう、順次NSX-Tの機能を活用したサービスをリリースしていく予定です。
誌面も尽きてきましたので、その他の特徴については簡単な紹介にとどめますが、P2 Gen.2 では外部接続機能にも手を入れました。特にIIJプライベートバックボーンサービスとの接続は、経路設定が自動化され、使い勝手が大きく改善されています。
今はまだ最低限の受け皿が整ったに過ぎず、オンプレミスからの移行に限っても、仮想マシンのライブマイグレーション受け入れ、ネットワークの接続・レイヤ2延伸、外部接続ネットワークの向け変え機能提供など、我々にできることは数多く残されています。これら移行受け入れの支援機能を皮切りに、将来的には、DRなどのハブ拠点としての信頼性向上、vSphere with Tanzu による Container as a Serviceの提供、ワークロード単位のクラウド間移行など、P2 Gen.2 上に移行したシステムのクラウド化を次のステージに進めるための機能も提供したいと考えています。
基盤だけの移行でクラウド化を終わらせない、利用者のシステムとともに進化していくクラウドを目指し、P2 Gen.2 の開発を続けてまいります。
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