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デジタルシフトは止まらない ヤマト運輸 田中 従雅 氏、三越伊勢丹 三部 智英 氏

IIJ.news vol.167 December 2021

リーディングカンパニーの情報部門のキーパーソンにご登場いただき、ICTに対する取り組み・課題をうかがうとともに、デジタルシフトへの対応についてお話しいただく「デジタルシフトは止まらない」。
第2回では、ヤマト運輸株式会社の田中従雅氏と、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの三部智英氏をお招きし、DX推進の話題を中心に対談していただきました。

ヤマト運輸

ヤマト運輸株式会社
執行役員 デジタル機能本部 デジタル改革担当

田中 従雅 氏

1981年、ヤマトシステム開発株式会社入社。2010年よりヤマト運輸株式会社、以後、事業会社CIOとして従事。21年4月より現職。

三越伊勢丹

株式会社三越伊勢丹ホールディングス
執行役員 情報システム統括部長

三部 智英 氏

1993年、伊勢丹入社。浦和店婦人服を経て、情報システム部へ。基幹システム再構築をはじめ、主要プロジェクトを経験。2021年4月より現職。デジタル機能子会社IM Digital Lab代表取締役社長を兼務。

モデレーター

IIJ執行役員
第二事業部長 兼 第三事業部担当

井手 隆裕

DXのミッション

―― 最初に、現在、注力されている事業分野とミッションをご紹介いただけますか。

田中:
弊社は経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」*1を策定し、DXを軸に中長期的な改革を進めています。DXによる物流オペレーションの効率化・標準化に加え、データ分析にもとづく業務量予測、経営資源の適正配置など、データドリブン経営への転換を目指しています。その手段としてDXを活用する――これが我々の描く理想像であり、ミッションになります。
三部:
私は三越伊勢丹ホールディングスの情報システム統括部と弊社のDX機能を担う子会社「アイムデジタルラボ(IM DigitalLab)」の代表を務めています。
三越伊勢丹では「お客さまの暮らしを豊かにする、〝特別な〞百貨店を中核とする小売りグループを目指していく」という方向性に沿った事業を展開しています。我々は常に「お客さま視点で物事を考える」という姿勢でやってきましたが、ややもすると、お客さま視点を忘れがちになり、時代の変化に立ち遅れそうになる……そんな反省も持ちながら、グループ全体で改革を進めています。
コロナ禍への対応を含め、今後もお客さまのライフスタイルがどんどん変わっていくなかで、変化に対応し、備えていくことがあらゆる場面で求められています。そこで我々のミッションは、そのための土台を築くとともに、クラウドなどのITを活用しながら、お客さま視点に立ったサービスを迅速に開発し、世の中に出していくことだと考えています。

―― ICTと自社の強みを掛け合わせて、どのような事業の実現を目指しているのか、お話しください。

田中:
今、「デジタル」によりいちばん変化しているのは、コンシューマの皆さまの生活です。それにともなうビジネス環境の変化に合わせて、我々のビジネスも変化していく必要があり、これをDXと位置付けています。
三部:
人々の生活が変わったというのは、本当に実感としてあります。コロナ禍以降、百貨店に来店されるお客さまも減りましたし、買い物の仕方も変化しました。ヤマトさんは、そうしたニーズの変化をどのように捉えていますか?
田中:
ECの場合、モノを売るのはEC事業者さんであり、その荷物をお預かりして運ぶことが我々の仕事です。ECなどの配送は日々、我々社員一人ひとりもユーザとしてサービスを享受する立場にあり、そこで感じたことが、ご質問いただいた「ニーズ」に相当すると考えています。
例えば、他の宅配業者さんに荷物を配達してもらった時にどう感じたのかといったことを、一人のユーザ視点から見れば、自ずと答え(ニーズ)は出てくるのではないか、と社員にも言っています。そうしたところから得る実感は、たいへん貴重だと感じています。

三越伊勢丹 三部さまからヤマト運輸 田中さまへ
【質問1】「YAMATO NEXT100」をまとめる際の意思決定のプロセスやご苦労された点を教えてください。

三部:
「YAMATO NEXT100」をまとめる際、各部署へのネゴシエーションや投資額の決定など、相当ご苦労されたのではないですか?
田中:
デジタルの話から少し逸れますが、弊社にとって最大の課題は、これまでホールディングス制で各事業会社がお客さまに向き合ってきた体制を、これまで以上にしっかり連携して向き合えるようにするにはどう機能させていけばいいのかということでした。
一例を挙げると、「宅急便」を取り扱うYTC(ヤマト運輸)の担当者と、倉庫内作業などのロジスティクスを提供するYLC(ヤマトロジスティクス)が、同じお客さまに別々に向き合っているといったことが起こっていました。当然、お客さまに対しては、グループ一丸となってお応えすべきですが、そうした場面でビジネスチャンスを失っていたこともあったので、「お客さまに向き合った組織」に変えていく必要がありました。そこで出てきたのが「One ヤマト」であり、事業構造改革の根底にはそういう問題意識がありました。

―― 大胆な組織改革を敢行されましたね。

田中:
はい。経営陣が中心となって相当、時間をかけてやりました。
三部:
「YAMATO NEXT100」にある「3年間で1000億円」という予算規模は、どのように意思決定されたのですか?
田中:
DX推進やデータドリブン経営への転換といった柱はすでに決まっていましたが、コンテンツは事業本部・機能本部が詰める部分であり、我々デジタル機能本部で大枠を描き、インフラ改革、データドリブンへの投資を加え、投資額を算出しました。これまで1年間のIT関連投資は年間約100億円でしたので、非常に大きなものとなりました。
三部:
事業部門とIT部門の関係は円滑ですか? むずかしい面もあるのではないですか?
田中:
弊社のデジタル戦略がうまくいっているのは、「デジタル投資はいくらまで」と、あらかじめ予算の上限を定めていない点が大きいと思います。その代わり、年度予算は事業本部・機能本部が「何をするためのデジタル投資なのか」を明確にして積み上げていくようにしています。
三部:
予算規模が非常に大きいので、お金の取りまとめ・管理など、いろいろ大変では?
田中:
その点に関しては、DXを推進している経営者に向けた「デジタルガバナンス・コード」*2が経済産業省から発表されています。弊社では、月に一回「デジタルガバナンス会議」を開いて、経営としてデジタル投資の統制強化を図っています。
三部:
なるほど。非常によくわかりました。

ヤマト運輸 田中さまから三越伊勢丹 三部さまへ
【質問2】アイムデジタルラボを設立されましたが、実感や手応えなどはいかがですか?

田中:
三越伊勢丹ホールディングスさんは、アイムデジタルラボを設立されるなど、順調にDXを進めていらっしゃいますが、ここまでの実感や手応えなどはいかがですか?
三部:
そもそも〝お買い物〞って、もっと楽しいはずですが、事業部門から出てくるDX案件は、「こんな機能がほしい」とか「こんなデータが必要だ」といったふうに感覚的に少しズレていて、目的がハッキリしないIT実装を求められることも多かったです。その結果、使われないまま終わった機能もあったので、そこをまずは変えたいと思っていました。そのためには、お客さまと事業部門およびIT部門との距離を近づける必要があり、その橋渡し役としてアイムデジタルラボを設立しました。
立ち上げに際して、(三越伊勢丹以外の)外部の人にも加わってもらったほうが、より生産的になるだろうと考えました。実際、人材の多様性はとても有効でして、アーキテクチャのプロの知見や異業種での実務経験を活かして、内部の人間では思いつかないようなアイデアも出てきました。始まってまだ2年ですし、お客さまに向けたサービスは無限大にあると思うので、そこを掘り起こしていくのが今後の課題です。

―― アイムデジタルラボは、三部さんが構想されたのですか?

三部:
はい。IT系の子会社は基幹系システムの保守などに追われて忙しくしているので、DXを進めるには新しい組織を立ち上げて、スピード感をもって対応したほうがいいと思いました。現時点ではまだまだ発展途上なので、社内的な認知を高めながらやっています。

―― 既存の情シス部門とのすみ分けはどうされているのですか?

三部:
設立前は「縦割り組織にならないだろうか」と心配していたのですが、アイムデジタルラボは〝忍者〞のようにつなぎ役に徹しつつ(笑)、自由にやらせてもらっています。

―― 三越伊勢丹さんは、今年の「IT Japan Award」の特別賞を受賞されました。受賞の理由は「逆風下でも貫く百貨店DX、サービス開発スピードを4倍に」ということでした。

三部:
以前ならシステム実装までに2年、3年とかかっていたのが、(アイムデジタルラボの創設以降)「なんだかわからないけど、早くなりましたね!」と、ユーザ部門から言ってもらえた時は、個人的にもうれしかったです。実際、DevOps基盤を整備したことで、部署間の調整が不要になったため開発スピードが4倍になり、さらに自動化・ツール化によって保守工数が4分の1になりました。このようにサービス開発を加速するアジャイルな協業体制が整いつつあるので、そういったスピード感は今後も大切にしていきたいです。

―― ヤマトさんにはDXに特化した部署などはありますか?

田中:
実は、DXというキーワードが出てくる前の2014、15年頃、GAFAの脅威が叫ばれるなか、「ディスラプション(創造的破壊)」への対応が急務となり、特別組織をつくりました。そして、大型ドローンや3Dプリンタを用いたサプライチェーンの改革など、ディスラプティブモデルを研究しました。今でもその組織は存続していますが、新たにDXという名のもと、事業本部・機能本部が担い手となって進めている部分もあります。当然、ディスラプションとは少し異なる方向性を目指したものもあり、すみ分けがむずかしくなっていると感じています。

―― なるほど。そういう経緯があったのですね。

田中:
そもそもIT用語には流行り廃りがあって、少し前まで「デジタルイノベーション」と言っていたのが、いつの間にか「DX」に変わっていましたよね(笑)。

―― たしかにそうですね。我々のお客さまの部署名も「デジタルイノベーション部」から「DX部」に変わったところがありました(笑)。

三部:
世界を変えるほどのディスラプティブな技術を創出できればいいですが、なかなか定着しないですよね。結局、お客さま視点に徹したほうが現実〝解〞に近く、イノベーティブだったりするのではないでしょうか?
田中:
おっしゃる通りです。今、我々が進めているDXモデルも現業領域をベースにしており、けっしてディスラプティブではないですね。

「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」では、どこにいても、百貨店の販売員とチャットで会話したり、ビデオ接客を受けたりしながら、買い物を楽しむことができる。

三越伊勢丹 三部さまからヤマト運輸 田中さまへ
【質問3】事業者間の配送情報の連携は、日本の商慣習のもとでは困難ではないですか?

三部:
ヤマトさんが「EAZY」などで進めている、事業者の垣根を越えた配送情報の連携についてうかがいたいのですが、日本の商慣習のもとでは実現しづらい部分もあるのではないですか?
田中:
EC事業者さんの荷物を配達する際、お客さまの住所情報は、個人情報保護法の範囲で第三者委託が許されていますので、法律的な問題はありません。
今後の課題は、約6万人におよぶヤマトのセールスドライバーと外部パートナーで構成される配送網を効果的に活用することです。そのために荷主さんとの情報連携は不可欠です。
EC事業者さんの場合、受注段階から情報を連携いただけると、早期の配送計画・調整を行なえるようになります。それに向けて、配送に関する情報入力機能をAPIで提供したいと考えています。そうすれば、EC事業者さんでは、その部分のロジック構築を省くことができます。
三部:
商品の発送は、我々にとっても課題の一つで、お客さまから「いつ届くの?」といった問い合わせをしばしばいただきます。配送事業者さんとの連携を密にできれば、正確な情報をお客さまにお知らせできますね。
田中:
現状でも配達情報はEC事業者さんに返すようにしているのですが、タイムラグがあると情報の鮮度が悪くなります。最新情報を弊社のサイトで(お客さまに)見てもらうのか、ECサイトで見てもらうのかといったことなど、検討の余地があります。
これは私見になりますが、お客さまにとっては、自分が注文した商品の配達情報は、注文先のECサイトで確認できたほうが便利ではないでしょうか。配送番号が通知され、そこから先は運送会社のサイトで確認することを手間だと感じている方もいらっしゃると思います。
実は、これを実現するAPIはすでに提供していますので、三部さんのところに説明にうかがうよう、うちの営業担当に言っておきます。
三部:
ありがとうございます! 御社のロジセンターにいつもお世話になっているので、よろしくお伝えください。

「EAZY」は2020年6月から開始したEC事業者向け配送商品。受け取り手と運び手のリアルタイムな情報連携を可能にし、お届け直前まで受け取り方法を変更することなどができる。

ヤマト運輸 田中さまから三越伊勢丹 三部さまへ
【質問4】「WEBトラッキング」の有効性について、どうお考えですか?

田中:
情報を集める手段としての「WEBトラッキング」の価値や結果を三部さんはどう見られていますか?
三部:
WEB解析やSEO対策はやっていますが、大事なのは「分析したあと、どう活用するのか」という点ですよね。分析で得たデータをもとに、どんなシナリオを描いて、どういうふうにお客さまの実体験に結びつけていくのか、という課題です。そういう意味でPDCAサイクルがきちんと回せているかというと、不十分なところもあります。「ビッグデータ」や「アナリティクス」がお客さまにとってどんな意味があるのか――よく考えて、サービスに落とし込んでいかないと、データを集めただけで終わってしまう。
田中:
今の三部さんのお話は、使うほうのフィルタリングや目的意識が重要、つまり「使い方次第」ということですね。WEBトラッキングでいたずらにデータを集めても、ノイズが増えていきますし……。
三部:
大量のデータを解析すると、たしかにお客さまの行動が見えてくるかもしれませんが、それを喜んでいただけるような施策につなげていかないと意味がありません。お客さまが次にどんな商品に興味を持つのかといったことは、データからは見えてきません。そこは我々が創造していかないと、新しい価値は生まれてこないと思うのです。そういう点からも、もう一度、百貨店の存在意義を問い直さないといけない、と感じています。

三越伊勢丹 三部さまからヤマト運輸 田中さまへ
【質問5】「YAMATO Digital Academy」の設立背景や展望についてうかがいたいです。

三部:
「YAMATO Digital Academy」を立ちあげて、人材育成を強化されていますが、発足に至る経緯、準備プロセス、現状について教えていただけますか。
田中:
「YAMATO Digital Academy」は、IT系人材の学びの場というより、事業を主導する人がデジタルシンキングできるように、「デザインシンキング」などを学ぶための場です。いまだにIT用語が出てくるとアレルギー反応を示す人がいますが、デジタルシンキングもあと5年もすれば、エクセル程度には当たり前のツールになっていると思うのです。データを見た時に「ココとココの項目は関連しているよね」ということくらいは、わかってほしいわけです。
あと、「ロジックツリー」は描けるようにしておかないと、事業課題を考える時など、無限ループに陥ってしまう恐れがある。そういうフレームが頭のなかにあれば、問題の整理・解決に役立ちますからね。
三部:
人材は事業部から募るのですか?
田中:
まずはある程度、素養のありそうな人を集めます。そこからさらに、即戦力の人と中長期的なスパンが必要な人に分けます。
ちなみに某社では「デザインシンキング」のトレーニングを全社的に行なったそうです。彼らが言うには「まず経営層に『デザインシンキング』を学んでもらう必要がある」ということです。経営層にそうしたメソッドが浸透していないと、部下がいくら学んでもうまく機能しない、と理解しています。
三部:
おっしゃる通りですね。参考にさせていただきます。

「デジタルシフト」とは?

―― では、最後の質問です。お二人にとって「デジタルシフト」とは何ですか?

田中:
デジタルシフトは目的ではなく、価値を生むための方法だと捉えています。今後、人々の価値観がどんどん変わっていくと同時に、企業のビジネスチャンスは、まさにそこから見出されると思うのです。そういう意味で「『新たな価値の創造』である!」という言葉を選びました。
三部:
デジタル化が進めば進むほど、人とのつながりや優しさといった〝大切なもの〞を見失いがちになる気がしています。そこで、デジタルシフトのなかでこそ、人間の本当の価値、つまり「幸せ」や「人と人とのつながり」を求めていきたいと思い、「幸せの再定義」という言葉にしました。

―― 素晴らしいお話をうかがうことができました。本日はお忙しいなか、ありがとうございました。

対談を終えて

〈モデレーター〉
IIJ執行役員 第二事業部長 兼 第三事業部担当
井手 隆裕

今回、取材させていただいた両社は、コロナ禍で消費者の生活様式が変化した影響を大きく受けた企業の代表格でもあります。
また、両社の業種は異なりますが、ビジネス上の深いつながりもあり、両社とも消費者の生活様式の変化にともない、カスタマ・エクスペリエンス向上にいっそう注力されているところは、共通していると感じています。
この対談がキッカケとなり、両社の関係がより強化され、攻めのDX推進につながれば、うれしく思います。

  1. *1ニュースリリース:経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を策定
  2. *2https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc.html
  • ※ 本記事は、2021年10月に新型コロナウイルス感染症対策を行なったうえで取材した内容をもとに構成しています。また、記事内のデータ・組織名・役職などは取材時のものです。

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