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IIJ.news Vol.179 December 2023
株式会社インターネットイニシアティブ
代表取締役会長 鈴木幸一
梅雨時から、毎月、海外出張が続き、欧州・米国・アジアと、東京の間を行ったり来たりしていた。ロシア上空を飛べなくなって、欧州への飛行時間が3、4時間長くなった。3、4時間のフライトの延長がたまらなく長く感じ、疲れるのだ。時間はかかるが、中東経由にして、途中、空港でひと息つくほうが楽な気もするのだが、時間についての貧乏性は相変わらずで、ついつい直行便を選んでしまう。
昔話になってしまうが、IIJを創業した頃は、年に200日ほど海外を飛び回っていた。成田を発って、アジア諸国を回り、シンガポールから深夜便でフランクフルトに飛び、欧州を回る。英国で最後のミーティングを終えて、ヒースローから米国へ。ニューヨーク、ボストンに始まり、東海岸、中西部でミーティングを重ね、西海岸に辿り着く。西海岸が旅の終わりである。そして、ようやく成田行きの便に乗る。家に戻り、ひと眠りして目を覚ますと、「ここはどこだろう?」と、場所と時間の感覚が混乱したままといったことが、自宅に帰った夜中によくあった。家に戻ることで、緊張感が消え、脳も眠ってしまうのだ。あの頃は、海外の空港を飛び立つと、成田までほとんど寝たままだった。年齢を重ねると、長く眠り続ける体力がなくなったようで、飛行時間が延びるのは、辛くなるばかりである。
インターネットが普及すると、知人との付き合いや事業の広がりが加速し、地球儀をぐるぐる回ることになる。時間と距離の概念を根本から変えたのがインターネットだが、一度は顔を合わせたいという昔ながらの行動パターンは、なかなか変わらない。「古い」と言われるが、在宅勤務が普及した現在でも、「小人閑居して不善をなす」と、昔ながらの言葉を持ちだしては、人と人が触れ合う意味を頑固に主張している。「婚前の“お見合い”という形式だって、まずは顔合わせに始まる」と、怪しい強弁をしている。商売柄、ネットによるコミュニケーションを低く評価するのは憚られるのだが、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションこそ、新たな価値を生むはずだという思いは変わらない。
IIJの創業から、ほぼ同じような日々が続いた。創業後7年弱で、日本の証券市場を経ずに、NYナスダック市場に直接上場したのは、そんな生活の影響もあったようだ。「IIJはインターネットの分野で世界的な技術を持っているのだから、ネットワークの革新が進んでいる米国でリスティングすべきである」。独特の笑顔でそう説いてくれたのは、元ゴールドマン・サックスのジョン・ワインバーグさんだった。「時間と距離の概念を変えてしまうインターネットという技術革新を事業にするのなら、経営も地球規模で発想すべきである」と。だからこそ、まずNYナスダック市場に直接リスティングをしたのである。いずれは本社もNYかシリコンバレーに移すという初志を実現するのは難しかったが……。
IIJに遅れて、この技術革新の分野に挑んだ企業がGAFAとなり、超巨大企業になっている。この12月3日からIIJは創業32年目である。
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