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IT Topics 2024 DXがもたらす新たなビジネスチャンス

IIJ.news Vol.179 December 2023

2023年最大のITトピックは「DX」であったといっても過言ではないだろう。
本稿では、DXの現状を見たうえで、業界ごとの特徴などを俯瞰してみたい。

執筆者プロフィール

IIJ 専務取締役 ビジネスユニット長

北村 公一

凋落の要因

DX(Digital Transformation)という言葉は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が、その論文“Information Technology and the Good Life”のなかで提唱したもので、ストルターマン教授は「情報技術の浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」と定義しています。

その後、スイスのビジネススクールIMDのマイケル・ウェイド教授らによって、「デジタル技術とデジタルビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善すること」と再定義され、DXはデジタル“ビジネス”トランスフォーメーションとして一気にビジネス界に広がりました。

IT化が業務の効率化を目的として情報化やデジタル化を進めるものだったのに対し、DXはITを手段としてビジネスモデルや組織を変革し、企業の競争優位性の確立を目指します。つまりDXは、業務そのものや企業文化を見直しながら競争優位性を獲得し、産業構造さえも変化させ、社会へのインパクトを創出するものと考えられます。

日本は「モノ作り日本」や「技術立国 日本」と言われ、製造業を中心に強い国際競争力を誇っていました。しかし、日本のGDPは1990年頃から成長が鈍化し始め、人口も2010年頃をピークに減少基調に入りました。日本の国際競争力の凋落の原因はいろいろ分析されていますが、かつて得意としたビジネスモデルが、もはや通用しなくなっている(通用しにくくなった)ことは明らかでしょう。

例えば、グローバルな商品やサービスを提供する日本企業は長年、静的・時系列的なバリューチェーン(製造業で言えば「企画⇒設計⇒製造⇒販売⇒保守」といったライフサイクル)と、原材料の調達で競争優位を保ってきました。日本は第三次産業革命下において、このビジネスモデルに則って勝者になったのです。しかしながら、現行の第四次産業革命下では、こうしたバリューチェーンは重要であるものの、多くのグローバル企業は新鮮かつグローバルな“データ”を格段に重要視しています。

グローバル企業は、膨大なデータを絶えず生成・分析し、循環させることによって、人々やマーケットが欲する本当の需要をリアルタイムで掴もうとしています。これはつまり、普遍的に通用するビジネスモデルは存在せず、それぞれの時代や地域の最新ニーズに適合していくことが、企業の成功につながると言い換えられるでしょう。

平成の凋落(1990年以降の「失われた30年」)を乗り越えて、日本が再び輝きを取り戻すには、DXの推進が最短ルートであると考えられます。以下では、日本の現状を踏まえて、6つの具体的なアプローチを提示したいと思います。

① ユーザダイレクト方式

多くの企業の情報システム部門と業務部門のあいだには、簡単には埋められない乖離があります。すると、現場を知らない開発者が業務システムを構築し、ITに疎いユーザがそれを使いこなそうとするため、システム構築そのものが目的化してしまい、本来の現場の課題解決が置き去りになってしまいます。その結果、テクノロジーありきの表向きのデジタル化、変革なきDXという失敗に陥るのです。

そうならないために、DXを目指すシステム構築は、業務・経営改革の一環であること、経営者の意思にもとづく戦略であることを、初期段階から徹底的に共有する必要があります。また、システム構築の過程では、業務側のメンバーも主体的に参画して、ワンチームでDXを進めるべきであり、このような進め方を「ユーザダイレクト方式」と呼んでいます。

② アジャイル開発のための環境整備

DXを成功に導くには、「戦略の立案⇒開発⇒試行⇒検証(PoC)⇒評価」という一連のサイクルを、スピーディーかつ主体的に(自前で)回していく必要があります。なぜなら、DXは新たなビジネスモデルへの挑戦であり、スクラップ&ビルドによる試行錯誤が必須だからです。何年もかけて、現場の要件をまとめたにもかかわらず、使われないシステムを構築してしまっては、まったくナンセンスです。それを避けるためには、ビジネスモデルの中枢にあたる「検証」を自前でまかなえる組織と環境を整備しなければなりません。

組織としては、情報システム部門と業務部門連携によるDX専任組織(ワンチーム)をつくり、環境については、アジャイル開発のためのDevOps(「開発:Development」&「運用:Operations」)基盤を導入します。DX実現に向けては、ハイブリッドクラウド、エッジコンピューティング、クラウドコンピューティング、5G/Beyond 5G、AI、VR/ARなど多岐にわたる先端技術の導入が必要となりますが、外部から調達する技術と(アジャイル開発を含む)内部で進める業務の線引きを明確にした、主体性のあるDX推進が肝要と言えます。

③ 有事に備えた事業継続性

自然災害、感染症のパンデミック、サイバー攻撃など、企業を取り巻くリスクは多様化しています。また、ウクライナ危機や政治対立に端を発した食料品や半導体のサプライチェーンの寸断も大きな懸念材料となっています。

そこで重要なのが、有事にもサービスや価値を提供し続けられる「事業継続性(BCP)」の確保です。例えば、災害時のBCPを想定した組織の在り方、重要システム・データの冗長保持、サプライチェーンの多重化など、レジリエンスを平時から高めておくことはDX推進の主要なテーマになります。さらに、地球規模での「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」の達成を視野に入れたビジネスモデルの構築もDX推進と合わせて検討すべきです。

④ 「ポストデジタル時代」への対応

ネットワークの進歩を背景に、スマートフォンを始めとするデジタル端末が爆発的に普及し、デジタル化が一気に浸透しました。また、コロナ禍により、テレワーク、WEB会議、ECの利用拡大など、ニューノーマルな企業活動や消費活動が定着しました。

こうしたデジタル化が当たり前になり、差別化要因にならなくなった現状は「ポストデジタル時代」と呼ばれています。このポストデジタル時代には、新しい価値基準を業界や社会にもたらす「破壊的な革新(デジタル・ディスラプション)」が起こるとされ、その一例として、Uber、Airbnb、カーシェアリング、メルカリなどが挙げられます。ITの世界でも、Microsoft 365に代表されるSaaSやパブリッククラウドの出現は、それ以前のビジネスモデルに大きな変革をもたらしました。

このような状況を鑑み、DXの推進にあたっては、常に変化する市場や消費者のニーズを敏感に捉えて、柔軟かつ迅速にビジネスモデルを改善していくことが不可欠です。

⑤ レガシーシステムからの脱却

DXは本来「新たなビジネスモデルの創出」を主眼としますが、現状においては「既存のシステムの効率化」という(地味な? )取り組みが優先されている感があります。なかでもレガシーシステムからの脱却は喫緊の課題となっており、経産省の調査によると、「IT人材の不足」と「古い基幹システム」が障壁となり、2025年から2030年にかけて、年間で最大12兆円の経済損失が出るとのことです。反対に今、DXを推進すれば、2030年の実質GDPを130兆円、押上げることができるとしています。

こうした予測からも、レガシーシステムからの脱却に早急に取り組む必要があるわけですが、表層的にDXを導入して、基幹業務やデータを司るシステムが旧態依然のままでは、全社的なデータの利活用、ひいては抜本的な業務改革が進むはずもありません。今やレガシーシステムからの脱却は最重要課題の1つなのです。

⑥ セキュリティの確保

DXが進むと、当然、インターネット上に流通する、医療・介護に関するデータ、マイナンバー、金融関連の情報、知的財産、顧客情報といった多岐にわたる機微データが増加し、これらを安全に保護する必要が生じます。また“アフターコロナ”時代をむかえ、新しい働き方が当たり前になった現在、オフィスワークとテレワークを両立させるためには、ゼロトラスト型防御によるセキュリティ対策が有効です。

各分野のITトレンド

ここからは、本特集記事のガイダンスを兼ねて、DXに関連する各業界のITトレンドを概覧していきます。

金融「地銀システムの共通化」

地方銀行は、本業である融資の利息収入が長引く低金利の影響により減少し、海外金利の上昇から有価証券運用でも外国債券の損失が拡大しています。

こうした厳しい経営環境を打開するために、地銀の再編とともに、全経費(大手地銀で1~2割/中小地銀で2~3割)に占める基幹システムの維持・管理費の低減を目指し、メインフレームによる各行固有のシステムから、クラウドによる地銀共通化システムへのシフトが加速しています。

ここで考慮すべきなのが、セキュリティの確保です。地銀で取り扱うデータは機微情報を多く含むため、オープンなIT基盤やネットワーク上に構築された共通化システムのセキュリティ管理が最重要課題となっています。

地銀の勘定系共同システムの変革とIIJの役割については、「地銀勘定系共同システムの変革を前に」で詳しく取り上げます。

エンタープライズ企業「ゼロトラスト対応」

オフィスを前提とした働き方においては、データセンターを拠点とした境界型防御によるセキュリティ対策(ゾーンディフェンス)が主流でした。それがコロナ禍にともない、不可避的に働き方改革が進んだ結果、テレワークとオフィスワークを両立するゼロトラスト型防御によるセキュリティ対策(マンツーマンディフェンス)が注目を集めるようになっています。

この流れは、ファイアウォール、IPS(Intrusion Prevention System:不正侵入防止システム)、専用線接続に代表される境界型セキュリティ対策から、(ネットワークに接続する全てのデバイスのアクセスを監視・制御する)ゼロトラスト、(認証・認可を強化する)IDセキュリティ、(末端の端末・機器を守る)エンドポイントセキュリティなどへの変化と言えます。

大容量通信を必要とするクラウドサービス(Microsoft 365など)の活用が進むなか、ゲートウェイの輻輳などのユーザビリティを改善したうえで、オフィスワークとテレワークの両方に対応したハイブリッドセキュリティを導入することは、多くの企業にとって、成果に直結した重要なタスクになっています。

エンタープライズ企業のセキュリティ対策については、「SASEの活用」で述べます。

放送業界「放送システムのIP化」

旧来の放送システムは、SDI(Serial Digital Interface)規格の映像信号を同軸ケーブルで伝送する技術を用いていましたが、この方式だと4Kや8Kといった高画質映像への対応が困難になりつつあります。

高画質映像配信に対応した放送システムのIP化は欧米に比べて遅れていましたが、2020年代に入ってNHKプラスの同時配信が始まるなど拡大基調にあります。ニーズ面においても、地上波の一斉放送から、オンデマンド動画配信や見逃し番組の動画配信サービスの需要が拡大するとともに、テレビモニターに代わって、パソコン、スマートフォン、タブレットといったIPに対応した端末を利用する機運も高まっています。

放送システムをIP化すれば、SDI規格にもとづく専用映像機器の利用から、汎用的なITデバイス、ネットワーク機器への乗り換えが可能になるため、大幅なコストダウンが図れます。またIP化は、放送に必要な一連の業務(撮影⇒編集⇒配信)をオープンかつシームレスに行なえるようにするので、さらなるコストダウンも期待できます。

その一方で、IP化によって外部ネットワークと接する機会が増えるため、セキュリティの確保が重要な課題になります。

放送システムのIP化に関する話題は、「放送業界のIP化をめぐって」をご一読ください。

公共(教育)「GIGAスクール構想」

2019年にスタートした「GIGAスクール構想」は、全国の児童・生徒1人に1台のパソコンと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組みです。ここでは、従来の知識習得型の学習ではなく、主体的かつ対話的に深い学びを実現する“アクティブ・ラーニング”を取入れることが大きな目的になっています。

同時に、教員のICT活用による、授業の事前準備の効率化や、テストの採点、成績処理など業務負担の軽減(長時間労働の是正)とともに、学習環境が整いにくい過疎地・離島や、家庭環境などによる教育格差を解消する狙いもあります。

一方、運営にあたっては、SNSなどを通して他者を傷つけてはならない、学習と関係のないことには用いないなど、最低限のルールの徹底と、セキュリティの確保が課題となっています。

GIGAスクール構想へのIIJの取り組みは、「GIGAスクール構想とIIJの取り組み」で紹介します。

製造業界「ITアウトソーシング」

もう1つ、今回の特集記事には含まれていませんが、重要なトピックとして「製造業界のITアウトソーシング」について触れておきたいと思います。

労働人口の減少により、慢性的な人材不足を抱える多くの日本企業では、さまざまな分野でアウトソーシングが活用されています。なかでも、もっとも導入が進んでいるのがITに関連したアウトソーシングです。

企業におけるITの役割は、かつてのバックオフィス型の「守りのIT」から、ITが企業の(利益や事業拡大に直結した)ビジネスドライバーとなる「攻めのIT」に転じつつあります。DXという流行の言葉も、ITを武器として企業が新たなビジネスを創出しようとする試みの現れと言えます。

これらの実現のために、企業の各部門が本来注力すべきコア業務(事業戦略策定、IT戦略策定、BCP、コンプライアンス、セキュリティなど)にリソースを集中投下する一方、直接的には売上拡大に関与しないノンコア業務(システム運用管理、デバイス管理&キッティング、ヘルプデスク、コールセンター業務、セキュリティ監視など)をアウトソースする動きが顕著になっています。

ITは日進月歩で進化しているため、最新の技術やノウハウにキャッチアップし、各分野に精通したスペシャリストを確保することは、ますます困難になってきました。従って、高い専門性を要するIT業務は、外部のスペシャリストにアウトソースするのが現実的で、実際、その傾向が高まっています。

ただし、DX推進においては、新しいビジネス企画をスピーディーに試行するために、アジャイル開発の体制やDevOps環境を自前で持つことが有効なのも事実で、アウトソースすべきものとそうでないものの線引きも検討する必要があるでしょう。

“改良”ではなく“創出”を

以上、「DXがもたらす新たなビジネスチャンス」というテーマで論じてきましたが、冒頭で述べた通り、DXへの積極的な取り組みこそが、日本の国力復権に向けた大きな契機になると言えます。優れた要素技術、生産技術、労働力を持つ日本に、今、必要なのは、かつてのビジネスモデルの“改良”ではなく、新たなビジネスモデルの“創出”であるという認識のもと、思い切ったチャレンジを行なうべきではないでしょうか。

IIJはこれからも、ITの側面から皆さまのDX推進を強力にバックアップしていきたいと考えています。


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