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IIJ.news Vol.181 April 2024
「つながらない」状況が発生した時、どのようにすれば「お客さまとIIJのあいだのやり取り」を、円滑かつ迅速に遂行できるのか? この課題の解決を目指して新たなツールを開発した。
IIJ ネットワーク本部 プラットフォーム開発部長
川北 淳司
IIJでは日々、多種多様なサービスが生まれています。近年はサービス単体のみならず、複数サービスを組み合わせて1つのコンセプトとして打ち出すものも多くなってきました。この代表が、IIJの「デジタルワークプレース」であり、単体のサービスのみでなく、ネットワークを介して複数サービスを組み合わせることで実現されます。さまざまなサービスから必要なものを必要な時に組み合わせることで、お客さまに適した環境を作ることができます。
それはメリットである一方、複数サービスの組み合わせであるがゆえに、パターンが何通りにもおよび、構成が複雑化してきているとも言えます。この複雑化は、お客さまがサービスを利用するなかで、「あれ? 何か使えないな」となった時、原因の特定をむずかしくし、切り分けや原因究明、その先の対策に手を打つまでに時間がかかるといった問題を生じさせます。
そんな時、「各サービスがどのようにつながっていて、今、何が起きているのか」といったことが“可視化”されていれば、すぐに状況を把握でき、お客さま自身による問題解決やピンポイントな問い合わせを促し、次の一手を素早く打てるのではないか? こうした考えをもとに「お客さまにとって“攻め”の運用ができるポータルサイトを作ろう」ということになり、新しいプロダクトの検討・企画がスタートしました。
ポータル機能の検討を進めるなかで、ユースケースを洗い出しながら問い合わせに端を発したトラブルを掘り下げていきました。すると、理想のポータルが完成したとしても、根本的な課題があることがわかりました。それは――
お客さまとIIJのあいだの問い合わせのやり取りそのもの
――です。例えば、お客さまサービスの利用者から「◯◯サービスが利用できない」という連絡を受けて、情報システム部門の方が、IIJに問い合わせというかたちで調査を依頼します。そしてIIJは、情報収集のためにお客さまにヒアリングしたり、指定のコマンドを叩いていただき、その結果をもとに最終的な解決のための結論を導き出す……というのが通常のプロセスです。一見、ごく普通に見えますが、ここにはいくつか課題があります。
まず「ヒアリング」についてです。お客さまが把握している“部分的な”情報をもとにお問い合わせいただいている場合など、不具合の全容を正確かつ迅速に把握できなかったり、ビジネスへの影響いかんによっては、温度感が実際よりも高めに伝わってしまうケースも考えられ、ヒアリングだけでは起こっている事象や状況を把握するのがむずかしいという現状があります。
次に、お客さま自身による調査と並行して、IIJが指定するコマンドを叩いて結果を送付していただくことも(目的や操作の説明を受ける前後の作業も含め)それ相応の時間がかかり、お客さまの負担になります。
さらには、何往復もやり取りした挙げ句、問題の原因が、お客さま環境でもIIJのサービスでもなく、インターネットの経路上にあったというケースもままあり、結局「最初から被疑箇所がある程度特定できていれば、より適切な対応がとれた」ということになります。
これらを総合すると――
①事象や状況を第三者的に計測し、その結果を迅速に送信できる
②通信の状態を可視化できれば、被疑箇所をより特定しやすくなる
――この2点を実現できれば、効率的な問題解決につながり、さらにお客さまにとっても“攻め”の運用の一助になると考えました。そして、その目的を達成するツールは、ポータルサイトではなく、お客さまの端末上で動き、リアルな情報を収集できる「デスクトップアプリ」であると想定し、開発の舵を切り直しました。我々はこれを、ネットワークの状況を可視化し、お客さまのネットワーク体験を向上させる「IIJ Network Experience Kit」(以下、NEX Kit)と名付けました。
NEX Kitは、わかりやすさを重視したシンプルな機能を備えています。2024年3月の初回リリースでは、先述の①と、状況を客観的に把握し、結果を迅速に送信できるという点に注力しました。以下では、活用シーンや具体的な使い方を紹介します。
まず、IIJサービスをご利用いただいているお客さまの環境で「つながらない・つながりにくい」という事象が発生した場合、情シスの方が状況を確認し、「NEX Kit」をIIJサービスオンライン*からダウンロードしていただきます。そしてPCなどの端末上で起動・認証・ログインしていただくと、ホーム画面に「レポートの作成【開始】」ボタンが出てきますので、それを押すだけで、IIJ側が切り分けに必要な最低限の情報を収集し、Zipファイルで保存することができます。実にシンプルで、操作も簡単です。
このファイルには――
――といった情報が含まれており、このファイルをIIJサポートセンターに送付していただきます。
発生している事象やご利用いただいているサービスにより、解決までの道のりはさまざまですが、送付していただいた情報を精査することで(これまで必要だった状況分析のためのヒアリングやコマンド入力を省略して)、調査に必要な情報を一括で把握でき、お客さま環境での問題なのか、IIJサービス設備での問題なのかといったことにアタリをつけて、調査を素早く開始できます。もちろん、情報を追加でうかがうこともありますが、基本的には、レポートをもとにした総合的な観点から問題点を特定し、解決を目指す流れとなります。
現時点でのNEX Kitの対応サービスは「IIJフレックスモビリティサービス/ZTNA」と「IIJ仮想デスクトップサービス」の2つですが、今後は対応サービスを拡大しつつ、前述②の「通信の状態を可視化して、被疑箇所を特定しやすくする」に関しても、機能を実装させていく予定です。
さらに、つながりにくい事象が発生したりしなかったりという場合などは、再発のタイミングでお客さまが情報を取得するのがむずかしいといったことも考えられます。そうした時は、定期的に取得したデータをあらかじめ送信していただくなどして、中長期的な視点から問題解決にあたるといったことも今後の開発項目として検討しています。
お客さまの「つながりにくいのはなぜ?」という課題に対し「問題解決の補助から、問題の自己解決へ導く」――そんなツールに進化できるよう、これからも開発に向き合ってまいります。
*IIJサービスオンライン:https://help.iij.ad.jp/
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