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進化するデータセンター データセンターの新たな可能性 ~Beyond Carbon Neutrality

IIJ.news Vol.170 June 2022

IIJ のデータセンターは、従来から高いエネルギー効率を誇ってきたが、カーボンニュートラルの実現など昨今の社会情勢を鑑み、一歩先を行く DC 像を描いている。
ここでは、そうした構想の一端として「カーボンニュートラルデータセンターリファレンスモデル」を紹介する。

執筆者プロフィール

IIJ基盤エンジニアリング本部基盤技術部データセンター基盤技術課長

堤 優介

2015年にIIJに入社。自社データセンターの設計構築・技術開発を担当。国内外でのDC構築や技術実証を経験し、現在は、省CO2化の促進が期待されるデータセンターにおけるエネルギー制御にかかる実証や省エネの推進に取り組んでいる。

データセンターのエネルギー利用の効率化

気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」の目標でもある「温室効果ガスの排出量をゼロにするカーボンニュートラルを2050年までに達成する」ことを世界の120以上の国・地域が表明しています。日本政府も2020年に「2050年のカーボンニュートラル」を宣言し、同年公表したグリーン成長戦略において幅広い産業分野で目標が設定され、データセンター(以下、DC)には次の目標が掲げられました。

  • 2030年時点で全ての新設DCを30パーセント省エネ化、DCの使用電力の一部を再エネ化する。
  • 2040年までにDCのカーボンニュートラルを目指す。

国内のDCやネットワーク機器の消費電力量は、2017年時点では国内の消費電力の4パーセントを占めていましたが、このまま省エネ化が進まない場合、2030年には10パーセント以上になると指摘されています*1

デジタルインフラであるDCの利用推進は社会全体での省エネに資するものですが、市場規模が拡大するなか、そのインフラとなるDC自体のエネルギー利用の効率化が課題となっており、対応が求められています。

高いエネルギー効率を誇るIIJのデータセンター

IIJではITサービスを提供する事業者として、これまでも環境性能に優れたDCの構築・運用を進めてきました。

松江データセンターパーク(以下、松江DCP)は、IIJが長年のDC運用で培ったノウハウをもとに開発したコンテナ型ITモジュール「IZmo(イズモ)」を導入し、日本初の外気冷却方式モジュール型の商用DCとして2011年に開設しました。

松江DCPでは、IT機器への給電における変圧時の損失や送電電流を低減する三相四線式の配電方式を国内に先駆けて採用しました。これは100V電圧で稼働するIT・ネットワーク機器の少ない海外で採用されていたもので、当時は対応するメーカが少なく苦労しましたが、今ではこの三相四線式のメリットが認識され、国内でも採用するDCが増えてきました。

2019年に開設した白井データセンターキャンパス(以下、白井DCC)では、外気冷却空調に加え、AIによる空調制御など最新の省エネ技術の実証を行なっています。業界では先進的な取り組みとして、リチウムイオン蓄電池の充放電を活用し、外気冷却空調の省エネ性に関する課題であった夏季のピーク電力を低減することで使用電力の平準化を実現しました。

DCの電力使用効率を表す指標にPUE*2があり、PUE1・0に近いほど高効率になりますが、松江DCPはPUE1・2台で運用し、白井DCCの設計値もPUE1・2台としています。

エネルギーの使用の合理化などに関する法律(省エネ法)では、今年(令和四年)度よりベンチマーク制度の対象業種にDCが追加され、対象事業者にはこのPUEの報告が義務化されます*3。同法で目指すべきベンチマーク目標は「PUE1・4以下」とされており、松江DCP・白井DCCともに非常に高いエネルギー効率を誇っています。

カーボンニュートラルの実現に向けて

政府の目標にも掲げられたカーボンニュートラルの実現に向けては、これらの「省エネ化」に加え、CO2を排出しない電力を使う「再エネ化」が必要となります。PUEをいくら下げても、その電力がクリーンであるか否かが今後、重要な評価項目になってくるでしょう。

IIJでも「再エネ化」の取り組みを進めており、松江DCPでは電力会社の電力に環境価値証書を付加する実質再生可能エネルギー由来の電力を2022年2月より導入しました。また、松江DCP・白井DCCともにオンサイト型の太陽光発電設備を設置する計画です。

なお、環境価値付きの電力は通常の電力よりも割高で中長期的な価格保証がむずかしく、オンサイト型の発電設備から得られる電力はDC全体に対し小さい(数パーセント)といった課題があります。再生可能エネルギーの発電コストは年々下がっていることもあり、発電所から電力を直接購入することや発電所自体を保有することが次のステップになると考えられますが、用地確保を含め時間がかかることから長いスパンで検討していくのが現実的です。

また、カーボンニュートラルの実現には、電力を供給する発電設備とそれを消費するDCが有機的に結合した新しいモデルの創出が求められます。IIJでは、複数の発電所群、蓄電設備、需給制御などを組み合わせた「カーボンニュートラルデータセンターリファレンスモデル」(上図参照)を考案し、ビジネス・技術の両面から実証および社外パートナーとの協力を進めながら、自社DCの改修・新築に適用していく予定です。

DCは、重要な社会インフラとして高い信頼性を確保するため、BCP対策として発電設備や蓄電池設備を持ち、高度な電力システムを備えています。再エネ発電量の増加にともなう安定性確保やピーク時間帯の電力供給逼迫といった電力インフラの課題が出てくるなか、IoT やモバイルなどを含むインターネット技術を活用しながらDCを大容量のエネルギーリソースとして使用することは、社会全体のカーボンニュートラル化の推進にも寄与するものであり、今後はそのような役割も担っていくべきだと考えています。IIJでは、データだけでなく、電力を貯める場所としての機能を持つDCの新たな可能性についても検討を続けていきます。

カーボンニュートラルデータセンターリファレンスモデル

参考:「Internet Infrastructure Review(IIR) vol.53」(2021年12月24日発行)カーボンニュートラルに向けたデータセンターの取り組み
https://www.iij.ad.jp/dev/report/iir/053/03.html

  1. *1資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」(令和3年1月27日)
    https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/036/036_005.pdf?_fsi=NMHlmNbl
  2. *2データセンター全体の消費電力を、サーバなどの IT 機器の消費電力で除した値。冷却用の空調の電力などが膨らむほど、数字が大きくなる。
  3. *3経済産業省「ベンチマーク制度の見直しに関する報告書」(令和4年3月24日)
    https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220324001/20220324001.html

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