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IIJ.news Vol.180 February 2024
本稿では、モバイル端末を用いて衛星通信網と直接通信(Direct to Device/以下、D2D)を行なう新たな通信の概要と、D2D通信を実現する3つの方式について解説する。
IIJ MVNO事業部 技術開発部モバイルプラットフォーム開発課 シニアエンジニア
大内 宗徳
モバイル通信の世界では、3GPPと呼ばれる標準化団体が中心となり、衛星通信網や成層圏に滞空する基地局網(HAPS)からなる非地上(携帯)通信網をNTN(Non-Terrestrial Network)と定義し、2022年に標準化が完了した3GPP Release 17のNTN仕様に沿って、NTNに関する各社の製品開発やサービス提供に向けた動きが活発になっています。
一方、3GPP NTN標準化に先行して、独自仕様にもとづく低軌道周回衛星(LEO)を用いた固定ブロードバンド通信が可能な衛星通信サービスや、モバイル端末で衛星とD2Dを実現するサービスも利用されています。
以下では、後者の衛星とのD2D通信を行なうサービスを中心に、最新動向について解説していきます。
ここ1、2年で多数のLEO衛星を介した、従来よりも安価でブロードバンド通信が可能な衛星通信サービスが日本でも利用されるようになってきました。
LEO衛星を利用した通信サービスは、従来の衛星通信に比べて、低遅延かつ広帯域を特徴としていますが、地上側でパラボラアンテナのような衛星通信専用のアンテナを持つ地上局が必要で、基本的には固定設置を前提としています。
そうしたなか、既存のスマートフォンやIoTデバイスなどを用いて、衛星通信専用のアンテナを利用しないで、衛星とD2D通信を行なうサービスが注目を集めています。
以前の方式だと、衛星通信には専用アンテナや専用端末が不可欠で、地上通信には携帯端末を用いるという、衛星と地上通信のあいだに「壁」が存在していましたが、衛星とのD2D通信はこの壁を取り払い、1つの端末で衛星と地上通信の両方を実現するというパラダイムシフトをもたらす技術であり、今までにない新たなサービスの実現が期待されています。(図1)
衛星とのD2D通信を実現するための実装は、基地局との通信機能を制御するベースバンドモデム部分にどのような機能を持たせるかにより、大きく3種類に分類されます。ただし、どの方式でも地上の携帯通信は、これまで通り携帯通信方式を利用します。以下では、各方式について解説します。(図2)
この方式は、衛星とのD2D通信に独自仕様の機能を組み込み、既存のLEO衛星とD2D通信を行ないます。また、既存のLEO衛星が使う周波数をそのまま利用しています。一部地域で発売されているAppleのiPhone 14以降の端末はこの機能を利用して、LEO衛星と小容量メッセージのD2D通信を実現しています。
ただ、既存のLEO衛星側は、スマートフォンのような衛星通信向けのアンテナ機能が貧弱な端末とのD2D通信に最適化されていないため、ユーザが常に端末をLEO衛星側に向けるように調整していないと、安定的な通信は厳しいようです。
この方式は、標準化された3GPP Release 17のNTN仕様を実装し、衛星とD2D通信を行ないます。この方式はさらに2つに分類されます。5G由来の高速通信に対応し、LEO衛星との組み合わせを想定したNR-NTN方式と(低消費電力かつ広域小容量通信であるLPWAに特化したCat-M1またはNB-IoTと呼ばれる通信方式に由来する)静止軌道衛星(GEO)との組み合わせを想定したIoT-NTN方式です。
両方ともこの方式用に割り当てられた衛星通信専用の周波数を利用します。衛星と端末の双方で衛星通信のための実装がなされるため、安定したD2D通信が期待できます。現在は一部の衛星通信事業者においてGEO衛星を利用したIoT-NTN方式の実装が先行しているようです。
この方式は日本の通信事業者でも話題になっている、衛星通信用の機能を持たない既存スマートフォンなどで地上通信用の仕様のままLEO衛星とD2D通信を実現します。地上で利用している携帯通信用の周波数の一部を衛星から直接発射する方式が想定されています。
この方式の実装は、衛星通信事業者のD2D通信を実現する独自技術にもとづくため、詳細については不明な点が多いのですが、本来は端末側で実装すべき衛星通信に必要な機能を衛星側に肩代わりさせることでD2D通信を実現している可能性が高いと推測されます。
この方式の実装の難度は非常に高く、今のところ限定された通信試験の結果しか漏れ聞こえてこないため、LEO衛星と端末間で安定したD2D通信が可能なのかは、今後注視していく必要があると思われます。
本記事では、衛星とのD2D通信による新たな通信サービスの可能性と3種類のD2D通信の実現方式について解説しました。
IIJではMVNO通信サービスを進化させ、ユーザへの新たな通信サービスの提供を目指して、衛星通信サービスの調査・研究・開発を引き続き進めていきたいと考えています。
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