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ビジネスもプライベートもIIJモバイル モバイル市場の現状と展望

IIJ.news Vol.165 August 2021

日本のモバイル市場は、各事業者が生き残りをかけた“戦国時代”の様相を呈している。
そこでまずは、IIJのモバイル事業の現状、法人・個人の双方を見据えた戦略、さらにはモバイル市場全体の展望を、IIJモバイル事業の統括者に率直に語ってもらった。

執筆者プロフィール

IIJ 執行役員 MVNO 事業部長

矢吹 重雄

1995年、IIJに入社。営業に従事したのち、2006年、株式会社インターネットレボリューションへ出向。エンタメポータルサイトの運営に関する広告営業および企画推進に携わる。11年、IIJ新規事業推進の部門長として、パートナーおよび中小企業向けサービス開発に従事。15年4月よりネットワーク本部コンシューマサービス部長を兼務し、16年4月よりMVNO事業部長としてMVNO事業全般を指揮する。

堅調なモバイル事業

――大きな注目を集めているモバイル市場をどう捉えていますか?

矢吹:
少し細かい話になりますが、大前提として、今、注目されているのは、個人向けの「携帯電話市場」であって、法人向けやIoT関連の広義の「モバイル市場」においては、まだやれることがたくさんあると感じています。
ですから、モバイル市場が大きく動き出そうとしている今こそ、IIJはフルMVNOという特性を活かしてモバイル事業をこれまで以上に発展させていこうという強い決意を持っています。
個人向けでは、我々自身がユーザ視点に立って「自分ならこんなサービスを使いたい、素敵なサポートだな」と思えるものを提供していきたいと考えています。一方、法人ビジネスでは、まだまだ我々の知らない新しい企画や機会があるはずです。IIJのお客さまとの対話を通じて、そのような企画や機会にもっと触れる必要があると考えています。

――一部のお客さまから、昨今の個人向け携帯電話料金の価格競争に関連して、IIJのMVNO事業、ひいてはMVNO自体の存在意義を不安視する声が寄せられています。

矢吹:
今年の春にリリースした「IIJmioギガプラン」に関して、「あんなに安くして大丈夫?」と聞かれることがありますが、結論から申し上げますと、大丈夫です!(笑)
昨年末から総務省やMNOとデータ接続料の適正化、音声の卸料金の見直しについて対話してきました。その結果を新料金プランにも良いかたちで反映しています。
またIIJは、IIJmioに限らず、MVNO全体をより発展させることもミッションだと認識しています。そのためには、MVNO事業者が多様なサービスを実現するための仕組みやルールが不可欠です。
過去にも「スイッチングコストの低廉化」というテーマに関しては、二年縛りの違約金の見直し、SIMロック解除の推進、接続料の適正化、音声料金の見直しなど、業界をあげて取り組んできました。近年は、MNOとMVNOの料金水準が近接しており、これまでとは異なるレベルでの「イコールフッティング」(市場で事業者が対等な競争が行なえるよう、環境を公平にすること)の実現・検証を求めていく必要があると考えています。

――IIJの業績・事業内容についてご説明ください。

矢吹:
この一年、モバイル事業全体は好調を維持しており、法人・個人全体の総回線数は325万回線(2021年3月時点)、売り上げは400億円(2021年三月時点)と堅調に推移しています(図1)。ただし中身を見ると、成長の要因は従来とは異なる点がいくつかあります。
まず個人向けサービスは、大手キャリアの相次ぐ新プランの発表を機に競争環境が激化し、新規顧客の獲得に苦労した一年でした。また、インバウンド・アウトバウンド需要の激減(訪日外国人向けトラベルSIMの需要減)や、実店舗への顧客の来店頻度の低下といったことも苦戦の一因になりました。
次に法人向けサービスに関しては、コロナ禍という非常事態によって、「リモートアクセス特需」が生じると同時に「海外ビジネスの激減」というプラス・マイナスの両面がもたらされました。
三つ目は、フルMVNOによるサービス提供が大幅に増加している点が挙げられます。具体的には、IoT向けSIM案件(ソフトSIMやチップSIMなど)の増加、IIJのネットワークサービス「IIJ Omnibusサービス」や「IIJ IoTサービス」との連携などが非常に好調です。

図1 個人・法人の回線数および売上の推移

IIJの戦略・強み

――流動的かつ不透明な状況のなか、どのような方針あるいは戦略を立てていますか?

矢吹:
今後も個人・法人の“両輪”を軸にモバイル事業を大きく発展させていくことを目指しています。法人向けサービスでは、キャリアが提供していないサービスを拡充して、多様性を追求していきます。個人向けサービスは「IIJmioギガプラン」をキッカケに、さらなるユーザ層の拡大・獲得を目指していきます。
それと同時にIIJ独自の戦略としては、個人・法人のトラフィック・パターンを分析して、設備効率を上げていき、事業利益の最大化につなげていきます。

――「トラフィック・パターンの分析を通じて設備効率を上げ、事業利益の最大化につなげていく」とは、具体的にどういったことですか?

矢吹:
個人の利用は、通勤時、昼休み、夕方から就寝までのあいだ、つまり就業時間以外の下り方向のトラフィックが大半を占めます。他方、法人は、就業時間帯や夜間、そしてIoTセンサや監視カメラなどのアップロード方向のトラフィックが多いのが特徴です(図2)。
つまり、このような個人・法人のトラフィックの特異性を分析して、双方が重複しないようにマッチングを図れば、限られたリソースを効率的に活用でき、収益性を最大化できます。こうしたことは、特にIIJだけがやっているわけではありませんが、法人・個人両方の事業に注力しているIIJが非常に上手くやれていることは事実だと思います。

図2 個人・法人の設備稼働のイメージとトラフィックパターン

携帯電話市場はどうなる?

――今後、日本の携帯電話市場は、どのような方向に進むのでしょうか?

矢吹:
冒頭でも述べましたが、モバイル市場のなかに(個人向け)携帯電話市場が含まれます。そして昨今、競争が過熱気味なのは携帯電話市場であって、モバイル市場に目を転じると、法人分野を中心に大きな発展の余地が残されています。
もちろん当面は、IIJも携帯電話市場で勝ち残っていかなければなりません。そのためには、競争力のある料金プランが必須です。しかし、競争力というのは単に価格だけではなく、通信の多様性がポイントになります。
繰り返しになりますが、MVNOの存在意義は、キャリアにはないサービスを実現していくことにあります。特に我々は、これまで実績を重ねてきたIIJ固有のリソースインターネット接続、クラウド、セキュリティ、インテグレーション事業などを連携させることで、大きな付加価値を生み出せると考えています。

――IIJの主戦場は、携帯電話市場だけでなく、さらに広範なモバイル市場ということですね。

矢吹:
そうです。これから5G時代になってくると、技術革新が進み、モバイル市場が一気に開花していきます。そこが本当のチャンスですし、IIJの本領がより発揮されると思います。
例えば、光ファイバの敷設には非常にお金がかかるので、その代わりにモバイル(28GHz帯)を使ったほうがコスト的に有利ではないかという議論もあります。また、Wi-Fiは遮蔽物があったりすると電波の到達性が損なわれたりするので、そこをローカル5Gで置き換えていくといったことも検討されています。こうしたモバイル技術の研究・実証実験は世界中で進んでいます。

――今年の春にリリースした「IIJmioギガプラン」は、大手キャリアに対抗できる内容でしょうか? IIJ独自の差別化のポイントや優位性は?

矢吹:
キャリアに「対抗」できるか否かというよりも、キャリアのプランにはない、中速・低速メニューの充実ですとか、必要最小限に絞った機能を低価格で提供するといった方向性を志向しています。実際、キャリアのプランのように「20ギガも要らない」といったユーザは多いと思うのです。それよりは、家族で使用する際にデータ容量をシェアできるといった“使い勝手の良さ”を「IIJmio」では追求しています。

個人・法人ユーザに向けたメッセージ

――今後、個人ユーザに「期待してほしいこと」は何ですか?

矢吹:
MVNOの強みは「小回りがきく」ことだと認識しています。大手キャリアのプランは価格面で意欲的ではありますが、依然としてスマホ(音声通話)中心です。一方、我々が考えるモバイル通信は、スマホだけでなく、ノートPCやガジェット類、IoTユースも含みます。そして、これらを包括する柔軟性・拡張性を備えたサービスを、現時点でMNOが提供できているかと言うと、必ずしもそうではありません。
我々の新プランは、もちろんスマホの利用にも適していますが、「非スマホ領域」もカバーできるものなので、そこは差別化のポイントになると思います。また、サブスク事業者との提携などを通じて、より魅力的なコンテンツの提供にも努めていきます。
今後とも個人ユーザの方に満足していただけるよう、サービスを拡充していきますので、皆さんのご要望などをどんどんお寄せいただけるとありがたいです。

――今後、法人ユーザに「期待してほしいこと」は何ですか?

矢吹:
法人分野では、業務システムのSaaS化・ネットワーク化が進むと見られているので、そうした用途に対してモバイル分野としても応えていけるよう、設備・サービス内容を刷新していきます。
それと並行して、SIMのバリエーションを増やしていく必要があるので、IIJでは「白井ワイヤレスキャンパス」(千葉県白井市)を中心に、5G SA時代を見据えた技術研究・開発に積極的に取り組んでいます。具体的な活用例などは同施設に来ていただければ、実際にご覧いただけます。ぜひ、そうした機会に「(SIMを活用して)こんなことをやりたい!」とか「こんなことができないだろうか?」といったアイデアや協業のお話をいただけましたら幸いです。
最新の無線技術を体感できる
「白井ワイヤレスキャンパス」

近年、ローカル5GやプライベートLTE(sXGP)をはじめとする先進的な無線通信技術を実務に活用したいというお客さまが増えています。しかし、具体的な利用シーンや導入要件の検討には至っていないケースが散見されます。

IIJの「白井データセンターキャンパス」では、屋内外に無線基地局を設置したラボ環境を構築し、モバイル技術を用いたさまざまな実証実験を行なっています。そして2020年11月には「白井ワイヤレスキャンパス」を開設し、多種多様な無線通信技術のデモや展示を通じて、最新技術やその実力値をお客さまに実際に体感いただいています。また同施設は、新製品の動作検証やコアネットワーク設備との相互接続性の検証環境としてご利用いただけるほか、お客さまと共同で無線通信ネットワーク運用の実証実験なども実施しています。

白井ワイヤレスキャンパスの模様は、以下の動画でご覧いただけます。

白井ワイヤレスキャンパスの展示室

展示内容
  • プライベートLTEとパブリックLTEの自動切替
  • プライベートLTEを利用した警備ロボットの遠隔監視と制御
  • Wi-Fi6(Wi-Fi6の実力値やWi-Fi5との速度比較)
  • LoRaWAN®対応のIoTセンサやIoTプラットフォーム
  • ローカル5GSA(Stand Alone 方式)を模した有線接続による映像伝送
  • セルラーLPWA(LTE-M)とソフトSIMを組み合わせた製品

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