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IIJ.news Vol.165 August 2021
IIJ MVNO事業部 事業統括部シニアエンジニア
堂前 清隆
「IIJmioの中の人」の1人として、IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」の執筆や、イベント「IIJmio meeting」を開催しています。エンジニアとしてコンテナ型データセンターの開発やケータイサイトのシステム運用、スマホの挙動調査まで、インターネットのさまざまなことを手掛けてきました。
パソコンなどのIT機器は、電気がなければ動きません。携帯電話を気軽に持ち運べるようになったのは、電池の進化が大きく影響しています。今回はそうした電池のなかでも「リチウムイオン電池」について紹介します。
電池には、一度利用したら再利用できない「一次電池」と、充電することで繰り返し利用できる「二次電池(充電池)」があります。オフィスの掛け時計や非常用の持ち出し袋に入れておく懐中電灯には、マンガン乾電池やアルカリ乾電池がよく使われます。こうした「普通の電池」が一次電池です。
二次電池は、ここ数十年でもたらされた驚異的な性能改善に後押しされて、非常に多くの場面で使われるようになりました。単三・単四形の乾電池と同じサイズのニッケル水素電池は一次電池の置き換えとして広く使われていますし、電気自動車・ハイブリッド自動車には大型のニッケル水素電池やリチウムイオン電池が使われています。そして、スマートフォンやノートパソコンなどのIT機器では、そのほとんどでリチウムイオン電池が使われています。
こうした機器にリチウムイオン電池が使われる理由は、充電して何度も使えるということだけではありません。リチウムイオン電池はその構造上、電気を通しやすい性質があり、アルカリ電池と比べて一度に大きな電力を取り出すことができます。つまり、多くの電力を消費する高性能な機器を動かすには、こうした二次電池のほうが適しているのです。また、リチウムイオン電池は特にエネルギー密度が高く、小さなサイズで大量の電力を蓄積できます。スマートフォンのように、小型で、しかも長時間充電せずに利用する機器には、このような特性が欠かせません。
しかし、こうした特性は諸刃の剣でもあります。特にリチウムイオン電池は、小さな体積に高いエネルギーをため込んでいるため、異常な状態で使用すると急激にエネルギーを放出して、発熱や発火する危険性があります。そのため、機器側に制御回路を用意したり、バッテリーモジュールに制御ICを組み込むなどして、適切に制御する必要があります。また、持ち運びを前提とした機器では、落下や衝突などの衝撃を緩和するための保護も不可欠です。
市販されている大半の機器はそうした安全機構を備えているため、通常の使用では発火に至るような致命的な問題が起きることは稀です。しかしながら、十分な保護機能を備えていない、粗悪な製品が流通しているのも事実です。また、設計自体は適切であっても、製造時に不純物が混入したりして、予想外の事故が発生することもあります。リチウムイオン電池は案外繊細なのです。
リチウムイオン電池は、廃棄にも気をつかう必要があります。他の電池と同様にリチウムイオン電池は通常のゴミとして廃棄することはできません。廃棄の際は自治体の指示に従うことになりますが、多くの自治体ではリチウムイオン電池を回収しておらず、メーカや業界団体による回収を利用するよう指示されています。
ノートパソコンやスマートフォンのように本体と一体化していれば、回収に出すことができますが、モバイルバッテリーやリチウムイオン電池単体の場合、こうした回収が利用できません(バッテリー関連製品の業界団体である「一般社団法人 JBRC」に加盟しているメーカの製品であれば、JBRCによる回収が利用可能です)。
このような回収が行なわれている背景には、環境問題を考慮した「資源有効利用促進法」があります。これは名前の通り、貴重な資源のリサイクルを推進する目的で制定された法律ですが、現状、リチウムイオン電池については適切なコストでのリサイクル技術が確立されておらず、研究が進められています。
IT機器を簡単に持ち運べるようになった背景には、電池の進化が大きな役割を果たしてきましたが、製造から廃棄に至るライフサイクルという観点では、まだまだ課題があると言えそうです。
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