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IIJ.news Vol.184 October 2024
サイバーセキュリティ人材を育成し、組織の態勢を確立するには、多くのコストと時間がかかる。
本稿では、人材育成を可能な限り効率的に行うための方法を紹介する。
IIJ セキュリティ本部 セキュリティオペレーション部 セキュリティ人材開発課 シニアコンサルタント
村松 大作
日本におけるサイバーセキュリティ人材の不足については従来から課題として指摘されており、ISC2によれば、2023年における日本のサイバーセキュリティ人材の供給数は48万人で、11万人が不足していることが示されています(海外でも同様の状況が発生)。
2022年と比較しても、上図のように不足状況は拡大しており、人材不足が国内を含め世界的に深刻な状態にあると言えます。
経済産業省の「サイバーセキュリティ体制構築・人材確保の手引き」*2には、人材を新たに確保するための方法がいくつか示されています。
人材確保以外にも、業務のアウトソース、既存業務の自動化、事業の精選などにより省力化を図るといったことも考えられますが、業務のアウトソースは自組織にノウハウが残らないことが多く、機微情報を取り扱ったり、組織としての説明責任を果たしたりする業務については適用すべきではない点に留意が必要です。
複数の文献を見ても、短期間で育成可能といったことは書かれていません。また「○○年間、当該業務や教育に習熟すれば十分」といった目安となる育成期間についても記述されていないことが多いです。この理由としては、次のようなことが考えられます。
以上のことから、早期に育成する最良の方法は所属する組織や各人によってさまざまであり、「現状とあるべき姿のあいだのギャップを把握し、成長させる領域を選択すること」が、費用対効果の高い最短ルートと言えそうです。
人材育成については専門家が課題を分析しており、自組織で検討するにあたっては、次の文献が参考になるでしょう。
NICE Frameworkのキャリア開発手順のガイド*6を例にとると、大まかな流れは次の通りです。
英語の文献になりますが、NICE FrameworkにCyber Career Pathways Tool*7というツールがあります。これは、各職務において必要な知識およびスキルの比較ができ、例えば、脆弱性診断士がインシデントハンドリングの職務を目指す場合、脆弱性診断士の経験がどれだけ活用できるかや、新たに学習しなければならない領域はどこかといったことを可視化できるようになっており、キャリアパス検討の一助になるかと思います。
成長させたい領域を特定したら、実現に向けた教育を自組織で実施するか、外部ベンダに委託するかのいずれかになりますが、外部ベンダに委託する場合にはいくつか課題があります。
受講を検討する際は、費用対効果などを踏まえて、目的領域の成長が得られるかどうか十分な検討を行うことが望まれます。また、認定資格試験も体系的な学習のための選択肢と考えていいでしょう。無料で開催されるCTF(Capture The Flag)といったハッキングコンテストも(直接的な教育にはつながらないかもしれませんが)自身の力量を証明する場として活用できます。
情報処理技術者試験(国家試験)や各認定資格団体が、各種のセキュリティ認定資格試験を行なっており、認定資格保有者は一定水準の知識とスキルを有していることを証明できますが、一部に「業務との親和性が低い」といった声を耳にすることもあります。
認定試験は基本的にシラバス(講義概要)が定められており、団体ごとに濃淡はあるものの、習熟できる領域が明確です。体系的に知識やスキルを得るには有効な手段ですが、資格取得をゴールにするのではなく、業務への活用(応用)を念頭に置きつつ適否を判断し、人材育成の計画に組み込むようにしましょう。
サイバーセキュリティの領域においては幅広い知識とスキルが求められるうえに、テクノロジーの変化のスピードが速いことから、短期間で目的とする人材を育成することはむずかしく、理想のパフォーマンスを発揮するには常に学び続ける必要があります。その一環として、現状と目標を明確にして進むべき道を選択し、外部ベンダの講義や認定資格試験の受験などの機会を十分に活用して、人材育成活動の効率化・省力化を図っていただければと思います。
IIJセキュリティ教習所では、新たに開設した「攻撃技術理解・防御ASM基礎コース」を含め、4つのラインナップを提供しており、今後はこれらを拡充しつつ、より幅広いニーズに応えられるよう、内容を充実させていきたいと考えています。
IIJセキュリティ教習所
IIJでは、セキュリティに携わる方を対象に教育プログラム「IIJセキュリティ教習所」を提供しています。
このプログラムは、IIJセキュリティオペレーションセンター(SOC)でのインシデント対応やサービス運用を通じて蓄積された知識・技能を習得できる内容になっています。
「セキュリティ教習所」というネーミングには、セキュリティに限定することなく、ITに関する「知識」と実際の現場で対処するために必要となる「技能」の習得を(自動車教習所のように!)実施し、さまざまな場面において適切な判断・対処が行なえる人材を育成したいという思いが込められています。
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