ページの先頭です
IIJ.news Vol.184 October 2024
IIJ 広報部 技術担当部長
堂前 清隆
IIJの技術広報担当として、技術Blogの執筆・YouTube動画の作成・講演活動などを行っています。これまでWebサイト・ケータイサイトの開発、コンテナ型データセンターの研究、スマホ・モバイル技術の調査などをやってきました。ネットワークやセキュリティを含め、インターネット全般の話題を取り扱っています。
コンピュータの仕組みについて話す時、必ずと言っていいほど「RAM」「ROM」が登場します。パソコンが普及して以降、RAMは「書き換えできるメモリ」、ROMは「書き換えられないメモリ」を指す用語として使われてきました。
ところが、最近のスマートフォンの仕様を見ると、例えば「RAM:8GB、ROM:128GB」などと書かれていて、「ROMには撮影した写真や動画が保存できます」と説明されています。つまり「ROMが書き換えられる」という前提なのです。そもそもROMは「Read Only Memory」の略語だったはずです。「Read Only」はどこにいってしまったのでしょうか?
これを説明するには、半導体開発の流れを追いかける必要があります。最初に誕生した元祖ROMは「マスクROM」とも呼ばれています。これは半導体の製造時に使用されるフォトマスクという装置に由来しています。半導体の製造時、回路や素子の配置を描いた原板を作って材料に転写する工程があり、その回路を描いた原板がフォトマスクです。マスクROMでは、原板を作る時、ROMに記録すべきデータを書き込んでしまうので、同じ原板で作られたROMは中身のデータも同じで、あとから書き換えることはできません。
次に登場したのがPROM(Programable ROM)です。マスクROMはとてもシンプルですが、新しいデータが記録されたROMを作るには、いちいち原板を作り直さなければなりません。そこで、半導体の製造時には中身が「空」で、あとからデータを書き込める(プログラムできる)ROMが開発されました。ただし、PROMは一度データを書き込んだら、書き換えることはできません。
この欠点を克服したのがEPROM(Erasable PROM)です。EPROMはErasableという名前の通り、データを消去できるROMです。EPROMの表面には透明な窓が開けられており、データを消去する時は専用の機械を使って、この窓から強い紫外線を照射します。するとROMに書き込まれたデータが消え、再び書き込みができるようになるのです。
続いて、EPROMを改良し、紫外線ではなく電気信号でデータを消去できるEEPROM(Electrically Erasable PROM)が開発されました。EPROMは紫外線を照射するためにROMを製品から取り外す必要がありましたが、EEPROMなら製品内に特殊な回路を設けておくことで、ROMを取り外すことなく、比較的簡単にデータを消去できます。
ただし、EPROMもEEPROMも、消去を実行するとROMに書き込まれたデータは全て消えてしまいます。このため、データを細かく書き換えるといった用途には不向きで、基本的には書き換える必要のないデータを保存するために用いられます。例えば、出荷済みの製品にバグが発見された際に消去・再書き込みをイレギュラーに行なうといった用途です。
これら一連の課題にブレークスルーをもたらしたのが、FlashROMです。FlashROMもEEPROMの一種と言えますが、ROM全体を消去するのでなく、ある程度細かい単位で一部のデータのみを消去できる構造になっています。さらに、FlashROMをうまく制御して、コンピュータから見ると一部のデータだけを書き換えたように見せることができるコントローラーと呼ばれる部品も登場しました。このコントローラーをFlashROMに組み合わせることで、データを自由に書き換えられる記憶装置として扱えるようになり、写真・動画データの保存や削除が簡便になりました。スマートフォンの仕様に出てくる「ROM」は、このFlashROMを指しています。
最近のパソコンはハードディスクの代わりにSSDを使っていますが、その中身はFlashROMであり、USBメモリやSDカードもFlashROMを用いています。これらの用途には固有の名称があって「ROM」とは呼びませんが、スマートフォンだけはなぜか「ROM」と呼ぶ慣習が定着してしまいました。ちょっと不思議ですね。
ページの終わりです