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IIJ.news Vol.184 October 2024
「戦争は女の顔をしていない」と言ったのはノーベル文学賞作家のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチであったが、昨年の夏の旅で筆者も同様の感慨を得たのであった。
IIJ 非常勤顧問
浅羽 登志也
株式会社ティーガイア社外取締役、株式会社パロンゴ監査役、株式会社情報工場シニアエディター、クワドリリオン株式会社エバンジェリスト
平日は主に企業経営支援、研修講師、執筆活動など。土日は米と野菜作り。
今年の夏は、ひときわ暑い夏でした。さらに残暑も厳しく、毎日暑い暑いと言っていたら、あれ? 気がついたらもう10月ではありませんか。なんだか今年は旅行などに出かけることもなく、ただひたすら暑さに耐えた夏でした。懸案の富士登山も、8月11日の「山の日」からお盆のあたりに行こうと思っていたのですが、折からの「南海トラフ騒ぎ」と、しつこく停滞していた台風のおかげで、タイミングを逸してしまい、来年に持ち越しとなりました。
昨年の夏も暑かったですが、夏の盛りでも旅行に出かける余裕があり、ちょうどお盆の期間に、東北地方各地の縄文遺跡と神社仏閣、そして温泉巡りをしたのでした。神社仏閣はもちろんですが、縄文遺跡にも中国から仏教が伝来する以前にその土地に根付いていた原始的な宗教観のようなものが、そこかしこに残されているように感じられました。そもそも縄の模様を土器につけるという発想がエキゾチックで、おしゃれです。
土器は基本的に木の実や動物の肉などを煮炊きするために使われていたのですが、亡くなった小さな子供の棺としても使われていたそうです。これは今回、初めて知りました。そう思うとなんとなく土器の内側の空間を通じて、ヒトの世界と命や自然を司る宇宙とが不思議な力でつながっているように思えてきます。
縄文時代の人々も、土器に何か神聖な力を感じていたからこそ、その外側に縄の模様をつけて結界を張ることで、神聖な空間を守り、そこから命をいただき、そして命を返す――そんなツールとみなしていたのかもしれません。
土器を作っていたのは女性でした。男性が外で集めた木の実や仕留めた獲物から命を取り出して、いただくための器を女性が土をこねて作っていたわけです。そんなことを考えていると、丸みを帯びた中空の土器がだんだん神聖なものに見えてきます。おそらく土器を子宮に見立てていたのでしょう。つまり土器は女性の象徴でもあり、命と自然とをつなぎ合わせる、極めて神聖なツールだった気がするのです。
土器がたくさん出土した縄文遺跡は、数千年の時を超えたパワースポットであり、もっと時代が新しい神社仏閣より、ある意味では尊い場所だと言えるかもしれません。遠いわれわれの祖先から現代にまでつながった“絆”のようなものとして発掘されるのを待っていたのではないでしょうか。
旅の最後に立ち寄った福島県福島市にある「じょーもぴあ宮畑」には、国の重要文化財に指定されている「しゃがむ土偶」が展示されていました。この土偶は、お腹の大きな女性がしゃがみ込んで、腕を十字に組んだ姿勢をとっています。説明員の話によると、古来の日本では座った状態でお産をしていたそうで、その様子を象(かたど)って、お守りのような目的で作られたものではないかとのことでした。腕を十字に組んでいるのは、腹に力を込めるためで、他の場所でも似たような姿勢の土偶が見つかっているそうです。以前、長野県茅野市の尖石遺跡で、国宝「縄文のビーナス」を見たことがありますが、有名な土偶はなぜか女性が多いようです。
太古の日本、倭の国には卑弥呼という女王がいたとされています。その後、飛鳥時代には推古天皇や持統天皇など女帝が多く存在していました。そうしたことから、縄文時代から飛鳥時代あたりまで、日本では実は女性のリーダーのほうが好まれていたとも考えられます。特に律令国家として中央集権的なピラミッド型の権力構造が確立される以前の共同体社会においては、自然や生命とつながる感性が強く、バランス感覚に秀でた女性のほうがリーダーシップを発揮しやすかったのかもしれません。きっとそのほうが戦争も少ない、平和な世の中になったのでしょう。そう思うと、女性をシンボルとした土偶が全国の縄文遺跡から発掘されるのも不思議なことではないように思えてきます。
さらにこの旅では、とても面白いものを発見しました。福島に入る前日、山形の小野川温泉で一泊したのですが、その温泉地には「小野川小町」と称する「温泉むすめ」なるキャラクターがいたのです。なんでも「四季を愛する雅で艶麗な歌人むすめ」とのこと。8頭身と2頭身の2種類のキャラが、温泉街のあちらこちらに看板や幟になって飾られていました。調べてみると、この温泉むすめは「日本の各温泉地に宿る下級神で、人間の女子と同じ容姿を持ちながら、温泉地の人々とともに暮らしていて、東京お台場にある『温泉むすめ師範学校』に通いながら、自らの温泉地をより多くの人に知ってもらい、訪れる人に癒しや笑顔を与えるための術を学んでいる」のだそうです。また「温泉むすめ日本一決定戦」なるものもあるらしく、北は北海道から南は沖縄、さらには台湾にも温泉むすめがいて、総勢数十人が切磋琢磨しているというのです。
そう言えば、近所の上田市の別所温泉にも女性のキャラクターがいたなと思って調べてみると、温泉むすめのリストのなかには見つけられません。おかしいな? と思い、さらに調べてみると、なんと別所温泉のキャラクター「八木沢まい」さんは、温泉むすめではなく「鉄道むすめ」で、上田電鉄株式会社で別所温泉駅長を務めているとのことでした。趣味は日舞と剣道で、優雅さと強さを兼ね備えた、無敵の美人キャラです。そしてこちらも、北海道から九州まで(残念ながら沖縄には鉄道がありません……)100人を超える鉄道むすめがいるではありませんか! 昔からりんご娘だの、さくらんぼ娘だのがいたのは知っていましたが、まさか温泉や鉄道まで(まだまだ他にもあるかもしれませんが)こんなにたくさんの“むすめ”キャラが存在し、日本の地域振興のために活躍していたとは知りませんでした。
表舞台ではAKB48を筆頭に、HKT48といった地域性のあるアイドルグループが活躍し、その裏ではこのようにたくさんの“むすめ”キャラが業界ごとに定義され、それぞれの個性を競い合っていたのです。ひょっとしたら、縄文時代の土偶も、当時の言葉で「○○むすめ」と呼ばれ、津々浦々のアイドル的存在として、共同体を支えていたのかもしれません。
現代に戻ると、去る9月末に行なわれた自民党総裁選でもし高市氏が勝っていたら、今頃は日本に初の女性首相が誕生していたはずでした。海の向こうのアメリカでも、民主党のハリス氏が共和党のトランプ氏に勝利すれば、初の女性大統領が誕生するかもしれません。
個人的にはリーダーは女性のほうが、バカな男たちのように無駄な戦争をしなくなっていいのではないかと思っているのですが、はて? どうなることやら……です。
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